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終 ─しゅう─

「で、あまりにも降りてこない客と陰間に、大女将は心中でもしているんじゃないかと怪しんで慌てて部屋に向かったの」 ほとんど完成した化粧を鏡で確認しながら、少年は続ける。周りの陰間仲間たちも同じようにしながら、少年の言葉に耳を傾けていた。 「大女将が襖を開けると、部屋には毒が入った包み紙を片手で持ちながら、何故かもう片方の手に小刀を持って喉を切って血を流してる客の死体と、陰間の身請け分のお金が入った千両箱があっただけだったんだって!」 「え〜、陰間は窓から逃げたんじゃないの?」 「ううん、窓は開けられてなかったらしいよ。逃げるのに必死だろうに窓なんて閉めてられないでしょ?」 「それは確かに……」 うんうんと頷いて少年は化粧を仕上げる。 それとほぼ同時に他の陰間たちも化粧を終え、向かい合って話した。 「それで、その陰間を連れ去った? でいいのかな……。まあ、いいか。その連れ去った客は誰だったの? 心当たりとか……」 「それがねぇ……大女将さんもあまり覚えていないんだって」 「え、歳かな?」 「そんな訳ないでしょ、大女将さん、昔から記憶力に自信あるって言ってたじゃん。今だってもうぽっくり逝っちゃいそうなのに、僕らのこと忘れてないし、僕たちの客だって怖いくらい覚えてるんだよ。ただ、本当にその客の記憶だけ霧がかかったみたいにぼんやりしてるんだってさ」 え〜、と怖がるように1人が声を上げる。 「妖怪かなにかだったのかなぁ?」 「そうかも。だって、その消えた客と消えた陰間は、そのあと誰も見てないんだってさ。まるで神隠しみたいに、死体と千両箱以外の痕跡を何も残さず消えていったみたいだから」 ──終──

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