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第58話 魔王桜の秘密

「グレコマンドラ、魔王桜(まおうざくら)とはいったい、何なのですか?」  わしはたずねた、あのマッド・サイエンティストに。  すると彼女は、どこか楽しげに、その『秘密』を口走(くちばし)ったのだ―― 「わたしの祖先(そせん)は、古代ギリシャのすぐれた巫女(みこ)だったのです。神々(かみがみ)託宣(たくせん)(つかさど)る巫女たちの中でも、いちばんすぐれた、ね。ディオティマというその巫女は、なんとも喜劇(きげき)ですが、神ではなくよりにもよって悪魔、すなわち魔王桜を呼び出したのです。悪魔などという概念(がいねん)すらなかったその時代、その場所においてね。そして彼女、ディオティマは人類史上、最初のアルトラ使いになった。どんな能力だったのか、までは……ふふ……彼女を開祖(かいそ)とする一族の現・頭領(とうりょう)であるわたしにも、わからないのですが……」  彼女のする話はまるでおとぎ(ばなし)、そのすべてが。だが、もちろん彼女は大真面目(おおまじめ)だった。わしの意思とはまったく関係なく、着々(ちゃくちゃく)と進行する『実験』の準備……あわただしく動き回る研究者たち、見たこともない最新鋭(さいしんえい)の機器の数々(かずかず)……そして何より、それを統括(とうかつ)する、誰あろう魔女グレコマンドラの、いっぺんのくもりもない、自信に満ちあふれた態度が、如実(にょじつ)にそれを物語(ものがた)っていた。  ただ、気になったのは……開祖ディオティマを語るときの、愉悦(ゆえつ)に満ちたあの顔……まるで自分自身がディオティマであるような…… 「キョウゲツ、心配しないで! キョウゲツの大切な人、アクタさんはきっとよくなるから! ママに任せておけば大丈夫だよ! ママならきっと、魔王桜の力で、アクタさんを治してくれる! わたしも、強い力を手に入れる……誰にも負けない、最強の力を……そして絶対、神になるんだ……!」  正直に思った、彼女は、テオドラキアは……この狂った母に、だまされているのではないか、とな。しかし、いまさら引き返せない……アクタを助けるためなら、わしは魔道(まどう)にだって落ちる……その覚悟だったからだ。そしてついに、『実験』のときがやってきた…… (『第59話 ファントム・デバイス』へ続く)

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