102 / 244
第20話 保健室の狂気、再び
「ええ、お母様。ウツロと龍子 には、必要最低限の情報 だけ与えておいたわ」
ウツロと真田龍子 が保健室をあとにしたのち、星川雅 は雑務 があるという理由をつけてそこへ残り、朝と同じく携帯電話で、母・皐月 にことのあらましを報告していた。
―― うふふ、『与える』だなんて、まるで犬にエサでもあげてるみたいねえ。素敵だわ、雅ちゃん ――
「これでウツロたちは泳ぎ出す 、ってわけだよね、お母様?」
―― ふふ、そうよ雅ちゃん。すべては閣下 の掌中 というわけよ。さあ、ウツロ……果たしてどう動くかしらね…… ――
「万城目日和 のことはどうする? お母様」
―― それについてはまだよ。まだこちらは動いてはダメ。万城目日和については、まだわかっていないことが多い。顔も、居場所も……もし本当にアルトラ使いだったとして、その能力も。いまはウツロたちと同様、泳がせておくのよ。いいこと、雅ちゃん? ――
「はい、わかったわ、お母様」
―― ふふ、もしかしたら、ウツロが何か、マジックを起こしてくれるかもしれない。あわよくば、万城目日和の正体を、あぶり出してくれるかも。ふふっ、なんだか楽しくなってこない? 雅ちゃん ――
「そうだね、お母様……」
―― そうやってうまく『駒 』を動かして、将棋のように『詰 む』のよ。まあ、『駒』じゃなくて『人形 』、だけれどね? ふっ、ふふふっ…… ――
「……」
―― ああ、なに? また急患 ですって? ずいぶん急患の多い日だわね。まあ、養分、おほん、患者 が多いのは、けっこうなことだけれどね。ほほっ、ほほほ…… ――
「……」
「ごめん、雅ちゃん、またかけるわ。ウツロたちのこと、よろしくね。仮にもわたしの甥 っ子 だし。じゃあまたね、わたしの雅ちゃん 」
そこでブツっと、電話は途切 れた。
「……わたしもその『人形』の一つ……だものね、お母様?」
星川雅のロングヘアーが逆立 った。
その顔には強烈 な怨念 が宿されている。
「ふう……」
落ち着け、雅。
いつものこと、いつものことだ……
彼女は自身にそういいきかせ、精神を冷静にした。
端末の履歴に目をやる。
『クソババア』の五文字に、殺意の視線を送った。
そしてすぐに、その目を緩 ませた。
お母様は、わたしのことを愛してなんかいない……
あの女が愛しているのは、人形としてのわたし ……
そんなことを考えた。
「ふん……」
迷 う心を振 り払 うかのごとく、彼女は制服を翻 し、保健室をあとにした。
(『第21話 帰り道』へ続く)
ともだちにシェアしよう!

