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第20話 チーム・ウツロ

「面目ない……」  ディオティマに対しなりゆきとはいえケンカをふっかけ、その結果宣戦布告を受けてしまったウツロは、さくら(かん)へ戻るや状況を説明し、このように頭を下げた。 「いや、壱騎(いっき)さんの言うとおり、結果は結果だ。おまえの判断は間違っちゃあいねえ。気にすんなって、ウツロ」  南柾樹(みなみ まさき)はこんなふうにかばってみせた。 「ま、遅かれ早かれだし、いいんじゃない? わたしもまどろっこしいのは嫌いだしね」  星川雅(ほしかわ みやび)もあきれる反面、ウツロの決断を称賛した。 「面白くなってきやがったぜ。血が騒ぐってもんよ」  万城目日和(まきめ ひより)は目つきを鋭くしている。 「龍影会(りゅうえいかい)にディオティマか……敵は多いけれど、そのほうが燃えてくる。そうでしょ、みんな?」  星川雅のふりに、一同はニヤリとした。 「まったく、どいつもこいつも。これもウツロ病の一種なのかな?」  彼女は両手をひるがえしてため息をついた。 「で、これからどうするんだ? 待ってるだけってのもなんだかな~だし。いっそこっちからしかけるか?」  万城目日和は好戦的だ。  ウツロは少し考えて、 「いや、壱騎さんの御前試合の件もあるし、少なくともそれが済むまでは動かないほうがいいと思う。どうだろう、みんな?」  こう提案した。 「そうだな。あれもこれもじゃ収集がつかねえし。それが一番だと思う。壱騎さんはどうっすか?」  南柾樹はウツロの判断を合理的と見なし、姫神壱騎(ひめがみ いっき)へ確認を取る。 「なんだか申し訳ないよ。みんな俺の都合につきあってくれて」  彼は顔をくもらせた。 「壱騎さん、どうか気に病まないでください。誤解はあるのかもしれないけど、俺たちはあなたの力になりたいんです」 「……」  あいかわらず晴れわたったまなざし。  嘘などついてはいない、大真面目だ。  姫神壱騎はまた打ちのめされた気がして、くすっと笑った。 「俺よりも若いのに、みんなお人よしだね。そして、強い」  一同は恐縮した。 「向き合っているって意味でね。それなら俺も、覚悟を決めなきゃ」 「壱騎さん……」  その眼光が凛としていく様を、全員が見た。 「この姫神壱騎、みんなという存在に出会えたこと、心から感謝する。そして、みんなの心意気と勇気に敬意を表し、チーム・ウツロへの入団を志願する」 「チーム・ウツロ……」  姫神壱騎は決然として申し出をした。  一同はびっくりしたが、解答など決まりきっていた。  ウツロもその思いに答える。 「壱騎さん、あなたという人間を、心の底から尊敬します。このウツロ、平伏してあなたを仲間に迎え入れたい。どうか、よろしくお願いします」  周囲はフッとほほえんだ。 「う~ん、なんだか堅いなあ」 「そ、そうでしょうか?」  姫神壱騎はウツロの顔をのぞきこむ。 「そこはさ、友達でいいんじゃない?」 「友達……」  みんなの顔がほころんだ。 「壱騎さん、改めてよろしくお願いします」  真田虎太郎は両手を広げてペコリとした。 「特生対本部に許可を取ってあります。壱騎さんのお部屋も用意してありますよ?」  星川雅が粋なはからいを提案する。 「マンションじゃあ、いろいろと経費がかかるっしょ? 壱騎さん、遠慮しねえでここへ住んだらいい」  南柾樹も乗り気だ。 「ふふふ、これで24時間、壱騎さんといられるんだね」  真田龍子(さなだ りょうこ)は乙女になっている。 「龍子、どういう意味だい?」 「だってウツロ、最近なんだか冷たいしぃ? それに年上って、けっこう興味あるんだあ」  姫神壱騎の手を取って、ニコニコとする。 「うわあ、龍子! やっぱりてめぇビ〇チかよ! 男なら誰でも〇開くんだろ!?」 「なんだって、このトカゲ女? あんたは中指とでもよろしくやってればいいんだよ!」 「き、きい~っ! てめえ、言わせておけば!」 「や~いや~い、トカゲ女~」 「うるせえ、このジャージスパッツ女!」  あの清楚だった龍子はどこへ行ってしまったのか?  いや、それも俺のエゴなのか?  ウツロは悶々と、そんなことを考えていた。 「やっぱ素敵だね、君たちは」  姫神壱騎はその光景にほっこりし、後輩ながら頼れるメンバーをうれしく思った。  こうして彼は、正式にウツロたちとパーティを組むことになったのである。    *  その夜――  日付が変わるころ、自室で思索にふけっていたウツロは、かすかな気配を感じて窓の外を見た。 「日和……」  薄暗いが、確かに万城目日和だ。  彼女は南側の勝手口から周囲を確認して外へと出て行った。  建物の位置的に、その場所を目視できるのはウツロの部屋からのみである。 「まさか……」  彼は猛烈な不安に襲われ、急いで身支度をすると、ほかのメンバーに気づかれないように、そっと万城目日和を追った。  事件が起こったのは、そのすぐあとである。

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