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桜の朽木に虫の這うこと 第28話 ひと時 | 彩堂さくらの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
桜の朽木に虫の這うこと
第28話 ひと時
作者:
彩堂さくら
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第28話 ひと時
鬼堂龍門
(
きどう りゅうもん
)
とのやり取りから一夜が明け、月曜日の午後となった。 週の始めとは憂鬱なもの。 それもあいまって、ウツロは思索部の部室で物思いにふけっていた。
聖川清人
(
ひじりかわ きよと
)
は
古河登志彦
(
ふるかわ としひこ
)
教諭に呼ばれ、先ほど席をはずした。
万城目日和
(
まきめ ひより
)
、いまは
柿崎景太
(
かきざき けいた
)
の姿をしているが、彼女の存在が気になる。 どんな気持ちでいるだろう? あんなことになって…… きっと傷ついている。 俺が何か、声をかけてあげなければ。 そんなふうに思って、うしろのほうへさりげなく視線を移した。 「うわ――」 目の前に彼女の顔があった。 化けているかっこうだとだいぶ雰囲気は違うが、ウツロのほうをじっと見つめている。 「なあ、ウツロ」 「な、なんだ?」 「ふふっ」 万城目日和はほくそ笑む。 「昨日はうれしかったぜ? おまえ、見かけによらずだいたんなのな」 「悪いかよ」 「やっぱ最高だよ、ウツロ」 「ん……」 唇がとがっている。 ウツロは生唾を飲み込んだ。 「俺のこと、心配してくれてただろ?」 「当たり前だろう?」 「おまえだって、へこんでるクセによ」 「へこんださ、そりゃ」 「なんで過去形?」 「おまえと、その……」 「そんなによかった? 俺」 「……すごく」 「わ~お、うれしいねえ。な、な、
龍子
(
りょうこ
)
とどっちがよかった?」 「無体だな、日和。比べられるものじゃないだろう?」 「ふうん、やさしいんだな」 「近いぞ、誰かが来たら……」 「どうだっていいじゃん、そんなこと……」 「ん……」 「かわいい、ウツロ……」 「あ……」 キリィっと、部室のドアが軋んだ。 「……」
真田龍子
(
さなだ りょうこ
)
が絡まる二人をのぞき込んでいる。 世にもおぞましいものを見ているような形相だ。 「あ、いや、これは……」 ウツロは青い顔になって弁明をしようとしたが、 「死ね」 少女は制服をひるがえして去っていった。 「ああ、終わった……」 ひざが震える。 「あ~あ、でも、これでウツロは俺のものな。だろ?」 万城目日和はますますしな垂れかかってくる。 「龍子、待ってくれ! これには深い理由が――」 ウツロは彼女をおしのけて、真田龍子の背中を追った。 「ちぇ~」 万城目日和はがっかりしたが、ウツロとのなれそめを思い出して、少し顔が赤らんだ。 時間が時間だったから、彼の荷物もまとめて、早々に部屋を去った。 「トイレ、寄ってくか」 ズタズタにされていたトカゲ少女の心は、だいぶ楽になっていたのである。
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