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第31話 轡田縁

 ウツロたちがさくら(かん)へ帰宅すると、ロビーで真田虎太郎(さなだ こたろう)がスーツの女性と会話をしていた。 「轡田(くつわだ)さん、いらっしゃってたんですね」  ウツロが声をかける。 「お、みなさんおそろいで。お久しぶりです」  彼女の名前は轡田縁(くつわだ ゆかり)。  朽木(くちき)市役所福祉保健課の主査であり、アルトラ使いたちを管理監督する組織・特定生活対策室第3課の朽木支部長だ。  第2課の支部長であるさくら館のリーダー・龍崎湊(りゅうざき みなと)のサポート役として、ときおりここへ顔を出している。 「なんかあったの?」  南柾樹(みなみ まさき)がたずねる。 「いえ、特になんですが、新しく姫神壱騎(ひめがみ いっき)さんも加わったことですし、顔合わせでもと思いまして」  轡田縁は大きな目をパチパチさせながら言った。 「姫神さん、困ったことがあったらなんでも遠慮なくおっしゃってくださいね?」 「あ、どうも……」  結局簡単な挨拶だけして、彼女は早々に帰っていった。 「事務的な感じだな。まあ、仮にも役人だし」 「失礼でしょ? 轡田さんだって、業務の合間を縫ってきてくれてるんだから」  南柾樹と星川雅(ほしかわ みやび)はこんなやり取りをした。 「壱騎さん、わたしの部屋へいらしてくださいな!」 「え、それって……」  真田龍子(さなだ りょうこ)はあいかわらずのモードに入っている。  姫神壱騎は少しあわてた。 「よろしくやってくれな~。俺はウツロと、むふふふ……」 「龍子~、俺が悪かったよ~。どうか機嫌を直しておくれよ~」  ほくそ笑む万城目日和(まきめ ひより)を尻目に、われらが主人公はすっかりとヘタレになっている。  だが、いとしい相手はガン無視をして、「新しいパートナー」と二階へ上がっていく。 「ううっ、あんまりだ……」 「泣くなよウツロ、人生はまだ長いんだぜえ?」  万城目日和の気づかいも焼け石に水である。 「なになに? ウツロ、龍子ちゃんにふられたの?」  龍崎湊が興味深そうに入ってくる。 「逆っすよ。ウツロがやらかして、龍子にあいそをつかされた形でね」  南柾樹が事情を説明する。 「へえ、意外とやりおるわねウツロ。知ってる? 一部の生物にはアレが二本もついているらしいわよ?」 「ウツロの場合はもっとたくさんありそうですね」  竜崎湊と星川雅がいやおうなくあおってくる。 「人を化物みたいに……」 「実際、魔物を飼ってるだろ?」  南柾樹までもが挑発をしてきた。 「うう、みんな、よってたかって……」  みじめとしか言いようがない。 「元気出せよウツロ~。俺が慰めてやるからさ~」  万城目日和はずいぶんと楽しそうだ。 「出すのは元気ではなくて……」 「コラ」  南柾樹と星川雅は漫才よろしくからかっている。 「折れそうだ、心が……」  ウツロよ、負の感情はみずからが作り出しているのだ。  こんなふうにして、われらが主人公の背中はどんどん曲がっていくのだった。    * 「はい、美影(みかげ)さま。チーム・ウツロは着々と、その絆を深めつつあるようです」 (そうですか。なんともむしずが走ることですね) 「引き続き監視することにいたします。何か動きがありましたら、すぐにお知らせいたしますので」 (よろしく頼みますよ。斑曲輪由香里(ぶちくるわ ゆかり)さん) 「龍影会民部卿(りゅうえいかいみんぶきょう)として、平服する閣下の御ために」  魔手は着実にウツロたちを蝕みつつあった。  たそがれる空がその危機を映しだすかのように落ちていった。

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