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第81話 見よ、勇者は行く

「なぜわたしを助けるのですか? いまさっきまでわたしがあなた方にしていたことを、もうお忘れなのですか?」  真田龍子(さなだ りょうこ)はボロボロになったウツロと同時に、グラウコンの力で半分以上爆ぜた寄生生物・ティレシアスにも治癒のパワーを送っていた。 「困っていたら助けたくなるのが人情ってやつなんだよ、きっと」  彼女の行動をティレシアスは解せない。  しかし徐々に復元してくる自分の体に、何か感じるものがあった。  これが「人間」というものなのか。  この少女から送られてくるエネルギー反応、温度ではないが、温かい。  エビデンスなど何もない。  しかし確かに存在する。  わからない、人間というものは。 「甘ちゃん野郎、ですか……」  ティレシアスは自身の敗北を悟った。  それは屈服といった類ではなく、存在としての高潔さ、言葉を借りるなら「人間力」に圧倒されてのことだった。 「ありがとう龍子、もう、大丈夫だよ」  ウツロの状態もだいぶ回復してきた。  まだまだロー・ギアと言ったレベルではあったが、最初に比べればかなりマシなレベルだ。 「立てる?」 「ああ」  さっきまでとは裏腹に、凛とした表情のウツロ。  それは夜を照らし出す太陽の光のように映った。 「ティレシアス、ディオティマの居場所を教えてほしい」 「――!?」  一同は驚いた。 「待てってウツロ! その体でやつと戦うつもりか!?」 「君はまだボロボロだ! 無理しないでくれ!」  万城目日和(まきめ ひより)姫神壱騎(ひめがみ いっき)が必死に止める。  だがウツロは首を縦には振らなかった。 「ディオティマへの憎しみは当然ある。でも、ここで俺がやらなければ、なんというか……自分自身に負けてしまう気がするんだ……!」  みんなは目を見張った。  これまで以上に輝くその双眸。  言葉どおり邪心からなどでは決してない。  いま彼は純粋に、自分に向きあおうとしている。  全員の決意は固まった。 「生きては帰れないかもしれないんだよ? それでも行く?」  星川雅(ほしかわ みやび )が確認する。 「覚悟はできているさ。しかし俺は約束する、必ず無事で、みんなの前に戻ってくると……!」  圧倒された。  魔堕ちしていたときとはまるで真逆、これこそがウツロ、人間・ウツロなのだ。 「ったくよぉ、おまえにはかなわねぇぜ? いくらなんでも男になりすぎなんだよ」  南柾樹(みなみ まさき)は笑顔だ。  その目には光るものが。  それは友の成長をうれしむ者の顔だ。 「ウツロ、俺も連れていってくれ」 「――っ」 「相手はディオティマにグラウコン、二対一じゃいくらなんでも分が悪ぃ。俺もさっきのけじめをつけてぇしな。だがなウツロ、おまえのケンカだけは何があっても邪魔したりなんかしねぇ。俺がグラウコンを引きつける、おまえはディオティマのクソッタレを討て――!」  まっすぐなまなざし。  それをはねのける理由などウツロにはなかった。 「ありがとう、柾樹……! おまえという友を持てたこと、俺は改めてうれしく思う……!」  二人は拳を合わせた。  それらは歓喜に震えている。  一同には見えた。  アクタと似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)が、光の差してくる雲の中でほほえんでいるのを。 「まったく、どいつもこいつも、とろけるような甘ちゃんですねぇ……」  ティレシアスがうなだれる。  もちろん光の力に当てられてのことだ。 「ディオティマはウツロさんのエナジーを、一種の発信機代わりしています。それの逆をすれば、あるいは――」 「――!?」 「精神力を研ぎ澄ますことで、反対にディオティマのオーラをたどることが、できるかもしれません」  このように述べた。 「ティレシアス、ありがとう……!」 「はあ、これでわたしも晴れて、追っ手におびえる日々ですね。海の奥底に帰りたいですよ」 「ここにいればいいよ。ディオティマやその組織の情報も知りたいしね」 「ちゃっかりしてるなあ」  真田龍子の笑顔に、ティレシアスはシュンとした。 「ウツロさん、柾樹さん、僕がイージスのパワーを送ってバリアを張ります。付け焼き刃かもしれませんが、それで一時的にでも敵の攻撃を緩和できるかと……!」 「虎太郎(こたろう)……」 「虎太郎くん……」  拳を握りしめる真田虎太郎(さなだ こたろう)に、二人は強い勇気をもらった。 「行くぜ、ウツロ――!」 「ああ、柾樹――!」  彼らはそれぞれ毒虫の戦士と巨人の英雄に変身し、空高く跳躍した。  飛行能力を使い、勢いをつけ南東へと飛んでいく。 「お二人とも、どうか、ご武運を――!」  真田虎太郎をはじめ、みんながみんな、二人の勇者の無事を願った。  激突のときまで、わずか20分を切っていた――

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