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短編(後編)

『アイツ…男だったのか』  べろりと唇を舐め、モラントリオは侍女の格好をした人間の後ろ姿を食い入るように見つめていた。 ~~~~~ 『ルーシャル、視察に行くから着いてきてくれる?』 「え、いきなりですか」  いつもの紅茶休憩中、クレイモンド王子から視察先まで連れて行かれそうな現在。 『ここにいたらモラントリオに襲われるかもしれないよ?』  俺はぐっと唇を噛んだ。  そう、あの給湯室での出来事からモラントリオ王子が俺に会いに来るようになってしまったのだ。 『兄がお前に会いたがる訳が分かったぞ』『お前が俺に靡けば俺は兄より上だ』『ルーシャル俺のものになれ』と散々言われて迫られてはいつもクレイモンド王子に助けられるという有り様。  今度からモラントリオ王子が来る前にさっさと窓から抜け出してやろうかと画策している。 「襲われたら殴って良いですか?」 『それは無傷で助けられないからやめて欲しいな』 「そんなに下の者の価値は無いんですか」 『残念ながらね』  つまりはやらかしたら見捨てられる。  でもやらかさなければいつかは食われそうで非常に困る。 「夢が遠退く…」 『ははは、その時は私にすがってごらん』 「嫌ですよ。  私にとってクレイモンド王子もモラントリオ王子もどっちもどっちなんですから」 『言うね』 「言わないとずるずる引きずり込まれますので」  いつの間にか王子の愛人になっている━━なんて笑えないからな。  いや、噂の中にクレイモンド王子の愛人派とモラントリオ王子の愛人派と両方の愛人派があって、やっぱり女は悪い生き物だと更に思い込ませる原因になっている訳だが。 「噂の種を育てたんですから少し位否定なさって下さると嬉しいのですが?」 『何故? 私はルーシャルが噂通り愛人…いや、それ以上になってくれたら毎日が楽しいんだけど』 「なるほど、噂を焚き付ける側でしたか」  道理で別人に変装して噂を別方向に持って行こうとしてもおさまらない訳だ。…殴って良いかな。駄目か。 『とりあえず視察に同行して貰うのは決定だから、準備しておいてね』 「はぁ…分かりました」  モラントリオ王子から離れられるし、視察に同行する位なら…とこの時の俺は軽く考えていた。 ~~~~~  ところが。  なんと当日にモラントリオ王子も無理やり視察に加わったと聞かされたのだ。  にこやかに宜しくと握手させられてなかなか離してくれないし、ねっとりとした視線が気持ち悪くて必死に寒気を隠してクレイモンド王子につれられ馬車に乗り込んで手を消毒して頭を抱え中です。最悪。 「嘘でしょ…」 『ごねにごねたらしい。  兄の仕事を見るのも大事だとか将来の為とかなんとか』 「えええ…」  まさか本当な訳は無いだろう。  けど、俺を狙うにしてはあからさま過ぎる。 「私…目的ですかねぇ…」 『そうだな。モラントリオによっぽど気に入られたようで』 「逃げ回るせいかもですけど、ほんとに食われたくなかったので」  事あるごとに近付いて来て部屋に引きずり込もうとしたりキスしようとしたりスカートの中をまさぐろうとされるので縄脱けの技術を使ってでも逃げ回っていた。  それがヤツに火をつけたらしく、他の男には目もくれず俺ばかり狙うようになったせいで、最近では下働きの方の仕事には参加せず、もっぱらクレイモンド王子の部屋に引きこもって雑用をこなしている。 『とりあえず…なるべく私から離れないように』 「まぁ利用して差し上げますわよ」 『君も随分猫が剥がれたよね』 「毎日お二方に迫られていればこうもなります」  おかしいなぁ、スパイらしくひっそりと下働きをしながらこそこそ情報を集めるつもりが、なんでこんな事になっちまったんだろうなあ…。  きっと最初のターニングポイントはファリラスを助けた所だろうと思う。  でも普通に目が腐りそうだから見たくなかったんだよ、男が食われる所。  それが勤務場所一緒ってどんな偶然なんだよホント勘弁してくれ。 ~~~~~ 『いやぁまさか殿下方がうちの領地に来て頂けるとは!』 『少しの間世話になる』  視察先では王子が二人も来てくれたと喜ばれたのだが、何故女(装)の俺がいるのかと不機嫌な顔も一瞬見えたので、警戒しておくに越したことはない。 『うちの領地はワインが有名ですから、とびっきりのものをご用意致しておりますよ。  ちょっとした夜会も開きますから、是非楽しみにしてください』 『ワインか、ここのはまろやかで癖になる味だと王が良く取り寄せて飲んでいる。  私達でもなかなか口に入らないので楽しみだ』  高級ワインか!  俺の口には入らないよな~魔王国のワイン美味しそう…と思いながら自制していると、興味があるのがバレたのかクレイモンド王子がニコッと笑ってチラリと俺を見た。 『多めに分けて貰っても?』 『ええ、是非。寝酒にもぴったりなので楽しんで下さい』 『有難う』  俺はそんな物ではつられないぞと澄ました顔をしていると、クスッと笑われてしまった。  俺のポーカーフェイスは父に合格貰ったものなのに何故分かるんだ。  荷物降ろしを手伝おうとすると、クレイモンド王子に連れて行かれる。 『君はそんなのしなくて良い。私の侍女なのだから』じゃなくて、腰に当てられた手を退けろ。  あとクレイモンド王子の侍女だからって仕事をサボる訳にはいかないと思います。 『兄上、後でソイツと話がしたい』 『私の前で出来ない話ならこちらから断らせて貰うよ。  彼女は私の侍女なのだから』 『…今に見ていろよ…』  俺を挟んで兄弟ゲンカやめて下さい。  モラントリオ王子のギラギラと欲の滾った目がとても気持ち悪いので早くあてがわれた部屋に引っ込みたい所存。 『好かれているな』 「物凄く嫌です」 『私も?』 「そこそこ嫌です」 『それは良かった』  嫌だと言われて笑っていられる王子はなかなか手強い。  彼自身は差別しないよう気をつけているし、育って来た環境で差別と知らず差別してしまっていたら謝れる魔族なので好感は持てる。  恋愛さえ絡まなかったら良い情報源になったのにと残念な気持ちになる。男と疑似恋愛して情報を集めるのは俺には無理です。  時折父に送る報告書に男だとバレて王子二人から好かれていますなんて事を書けば大爆笑間違い無しであろう…。 『着替えを手伝ってくれるかい?』 「喜んで」 ~~~~~  ちょっとした夜会とあの貴族は言っていたが、なかなかに豪華だった。  そりゃそうか、王子が視察に来ると分かってるんだから準備もするわ。  俺は気配を消して飲み物や食事を出しながらそれとなく情報収集していく。 『最近王子二人がとある女に夢中らしい』 『女に骨抜きにされたとかあり得ないだろう!』 『この国の行く末が心配になって来た』  やはりここでも差別は根強い。  だがしかし、その女は実は男である。  知られたら手の平を返されたりするのだろうかと少し想像してゲンナリした。 『あんな噂が無ければ王太子に家の息子を推したかったが…いや、第二王子も第二王子で素行が良くない。どちらを選べば良いのか』 『女にうつつを抜かすような王族に仕えるのは御免だ。いっそクーデターでも…』 『クーデターはまずいでしょう。王太子も表立って悪い事をしている訳ではないのだ…ただ女に振り回されているだけかも知れぬ』 『ただ王太子が連れてきた侍女と妙に親しげだったのが気になりまして』  いや向こうが来るんです、俺じゃないんです!  そう声を上げられたらどれほど良いか…。  その他の魔族達の所も似たり寄ったりな話ばかりで実入りは少ない。  俺の女装が魔王国に暗い影を落としているなんて笑えないんだが。  父に報告してそろそろ戻った方が良いのかどうしようかと悩んでいると、給仕の一人に休憩に入るように言われた。 『クレイモンド王子が君にと言っていた。ここの仕事は終わって構わないから自室でゆっくり食事を取るようにと』 「分かりました。有難う御座います」  クレイモンド王子め、余計な事を…!  とは思いつつ、考えたい事もあるのでこれ幸いと料理の皿とワインを持って与えられた自室に戻る。  城での愛人の噂だったり、クーデターとか王子に対しての不信感とかどんどん悪い方向に向かっているんだが王や王子達はどうする気なのか。  まさか俺の抹殺計画が進んでたりする!?  三年どころか二ヶ月も経たない内に家に帰る羽目になるとか笑えないんだが、このまま侍女やってると身の危険が高まる予感しかしない。  ましてや男尊女卑が激しいこの国だ。  本気で殺される可能性もある。 「やはり……指示を仰ぐまでも無く潮時、か」  引き際を誤って殺されたスパイは数知れず。  俺もそうならないように視察から帰ったら暇を貰おう、そうしよう。  チキンと言われようともここが俺にとっての引き際だーとお上品な鳥のムニエルを食べてワインをぐびぐびと飲んでいたのだが。 「ん…、あれ……」  なんか、ぐらぐらする。  酒に弱いスパイなんて話にならないのでそれなりに酒には慣らしてあるはずが、ワイン瓶半分も飲まない内に視界がふわふわとし始める。  美味いワインについ警戒を怠ったのと、毒には慣らしてあるから平気という驕りがあったせいで、今俺の体に何らかの毒が急速に回っていくのを感じる。 「く、なんの、毒だ……?」  手持ちに少ないがいくつかの解毒薬があるからどれか当たってくれと思いつつガサゴソと漁る。  が、どんどん手に力が入らなくなっていき、まずいと焦りばかりが増していくのに薬が手に触れない。  いや、これは指先の感覚が無いのか?  視認しようにもぼやけて目がちゃんと見えない。  俺はどうやら引き際を間違えてしまったらしい。 「く、そ……」  は、は、と荒い息が洩れる。  そして体がおかしくなっていくのを自分の体を抱き締めながら唇を噛む。  助けが来るはずもなく、俺に出来る事はもう無い。  諦め掛けたその時自室の扉が開き、誰かが室内に入って来た。 『くくく…魔王国の媚薬ははじめてか?』  ねっとりとした視線。  一瞬クレイモンド王子が助けに来たのかと勘違いした自分に無性に腹が立った。  そんなはずが無いのに。 「び、やく…?」 『魔王国の媚薬は魔法薬…つまり、魔法が込められた薬。  抱かれるまではその体の狂おしい程の熱は無くならない』 「な、んっ…! は、んん…っ」  この体に回った毒は媚薬だったのか。  殺す毒では無かった事に安堵したのも束の間、その効果に別の危機感が募る。  モラントリオ王子の舐め回すような視線と言い、この毒を仕込むように言い付けたのはこの男であろう事はハッキリとしていた。 「く、う…」 『ああ、良いな…その意思の強い瞳。  容易くモノにならない強固な身の固さ。  俺のモノにしてぐにゃぐにゃに解して他の男を感じなくさせてやりたい…』  すすす…とスカートの下の太股に這わされた手に鳥肌が立つ。  敏感になった体には刺激が強く、くぐもった艶声が洩れてしまう。 「ッぁ、さ、さわ、るな……っ」 『我慢する声もなかなかそそるが…快楽に乱れ喘ぐお前はさぞ堪らないんだろうなぁ…』 「ッッ…!」  手が布越しに局部に触れた途端、ビリッと強い快感が走り、いつの間にか勃起していた自身に顔が歪む。 『いつまでも意地を張るな。…辛いんだろう?』  辛い。  理性がはち切れそうな位体が疼いて挿入れた事もない男を欲しがって暴れ回りたくなる。  こんな感覚、知りたくなかった…! 『兄上じゃなく、俺に仕えろ。  そうすればお前を愛人にして可愛がってやっても良い』  見下しの視線に俺は睨み付ける事で視線を返す。  が、媚薬で蕩けた顔の筋肉にどれ程の力が込もっていたかは、いやらしい笑みを深めたモラントリオ王子の顔で推して知るべし。  ヒクヒクと物欲しそうなペニスがモラントリオ王子の手でくりくりと弄られ、嫌悪感と強烈な快感に板挟みにされ、涙が盛り上がってくるのを感じて瞬きを繰り返す。  涙を見せてしまえば喜ばせると思った。  グッと歯を噛み締めても生理的なソレはすぐに止まりそうに無かった。 『チッ、ほんとに強情だな…。  まぁ良い。屈伏させるのは後ででも出来る。  今は火照った体を可愛がってやらないとな…?』  ビリッビリ、ビリビリ…!と音を立てて服が引き裂かれる。  胸を盛り上げていたパッドが虚しく床に転がり、平らな男の胸が露になる。  モラントリオ王子がべろりと唇を舐めたのを見て一気に体が穢されたように感じて身震いした。 『美味そうな白い肌だ…』  そう言ってねろりと舌を這わされ、体がぴくんと反応する。  それに気を良くしたのか、ベロベロと肌の上を走る舌の動きが速まる。 「ん、や…め……っ♡」  想像以上に弱々しい声が出て自分で自分を気持ち悪く思った。  まさかこんなちょっと股間をまさぐられ、胸を舐められているだけでこうも弱ってしまうのかと。 『はは…っ! 乳首が俺を誘って膨らんでやがる…!』 「んひッ…!♡♡」  強く胸の膨らみを吸われ、全身がびくんっ! と大きく跳ねた。  そのままチロチロと先端を舐められると、じんじんピリピリとした甘い刺激が広がり、下腹部がきゅうんと強く疼き、早くソコへ何かを詰め込んで欲しくて堪らなくなる。  理性が霞んで行く中、悶えるように股を擦ると、挟まれたモラントリオ王子の手が嗤うように下着の中へするりと滑り込んだ。 「ぁ、ああ、あぁぁぁ…!♡♡♡」 『欲しいか?俺のペニスが。  ほら、欲しかったら舐めてみろ』  モラントリオ王子がズボンをぐいっと下げると、ガチガチに興奮したペニスが目に入り、ますます下腹部の疼きが酷くなった。  欲しい、欲しい欲しい欲しい…ソレが欲しい!!!  口からだらだらと涎が垂れ、嫌悪しているソレから目が離せず、はあはあと荒い息ばかり上がっていく。  目の前でふるりと揺らされると、背中にゾクゾクした何かが走り、力が入らなかったはずの手が自然とソレに伸びて━━ 『何をしている!?』  バンッと大きな音が立てられ、驚きで体が跳ねた。  俺は今、まさに理性が切れる寸前だった。  それがクレイモンド王子が室内に勢い良く入って来てくれたおかげで一瞬だけ正気に戻れ、ペニスに伸ばそうとしていた手はぱたりと床に落ちた。 『チッ! 夜会の真っ最中だろうが…抜け出して来るな』 『ルーシャルとお前が揃って見えなくなれば何かあると思うだろう。  実際、危なかったよう……いや、このワインに紛れた匂い……まさか』  クレイモンド王子が床に零れたワインに近づき、瓶についた液体を指ですくい匂いをしっかりと確認した。  そしてワインの瓶を素手でぐしゃりと握り潰し、低い声で唸った。 『ここまで堕ちたか、モラントリオ…!!』  もしかすると禁薬の一種だったのかもしれない。  体は疼きを強め、目の前がぐらぐらして気持ち悪い。  早く快楽を寄越せと尻がはくはくと動いてそこばかりが鮮明に感じる。 『兄上には分からないだろうな…全てにおいて劣っている弟!!  周りからそう言われて育って来た俺の事など!!!』 『分からないな…努力を怠った者の事など』 『うるさい!!! どれだけ努力したって兄上の才能を上回る事など出来ない!!  だから俺は逃げたんだ…そしていつか兄上の大切なモノをこの手で奪ってやろうとな!!』  間近でビリィッ!!と強い音が響き、俺の纏う服が全て引き裂かれたのだと気付く。  そのままのし掛かろうとされ、尻にぬらりと濡れた感触がしたと思ったら一瞬で重力が消えた。  モラントリオ王子が文字通り部屋から消えたのだ。 『モラントリオ、お前は自分の才能をちゃんと見ていない。  努力し続ければ私を上回るであろう才能はあったよ』  クレイモンド王子が手を下げると、俺のすぐ側に跪いた。  そして頭をそっと撫で、労るように体を抱き起こした。 『ルーシャル、放置していてすまない…。  体、辛いだろう。そろそろ解放してあげよう』  カチャリと音が聞こえ、クレイモンド王子がズボンを下げる音が聞こえた。  解放…この媚薬は魔法薬で、抱かれるまでは消えない…つまりは。 『ん、は…』  くちくちと俺の体の下で動いているそれは、クレイモンド王子が自身を擦っている最中で、つまり。 『出来るだけ、負担を掛けないようにするから』  その言葉と共に体を持ち上げられ、欲しがっていた快楽を挿入された。 「んぁあぁあぁああああああ━━━ッッ!!!♡♡♡♡♡」  体が歓喜している。  雄を隅々まで味わい、貪れると。  じゅぷじゅぷと音がたちそうな程に蠢く体内はクレイモンド王子にも堪えたらしい。 『ッッ…この吸い付くされるような動き…無理やり抱いてしまいそうになるね…』  それでも王子は俺の体を優しく支え、ガクガクと体を揺すりながらクレイモンド王子の背中に爪を立てる俺をあやすように包み込んでいた。 「あぁあ…ひあああ…♡♡♡♡♡」 『我慢しなくて良い。この場の事は無かった事にするから。  後日この事で君を無理やり手元に置いたりしないと誓おう』  暖かな言葉につい身を委ねそうになる。  何故そこまでしてくれるのか。  俺はただの下働きとしてここにいるというのに。  つれない態度だって何度も取って来た俺を欲望の赴くままにぐちゃぐちゃに抱いてしまってそれをわざと外に洩らして既成事実を作ってしまえば良いものを。 「うぁあ…あああ!!♡♡♡♡♡ ああああ!!♡♡♡♡♡」 『く、うっ…!』  暴れるように王子のペニスに向かって腰を振る。快楽を貪る。  ぎゅうぎゅうと中でも腕でもクレイモンド王子を締め付け、涎と涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いもせずひたすらに。  クレイモンド王子のきらびやかな服装が乱れ、俺の体液が染みて汚れても嫌な顔一つせず俺を受け止め続ける。 『君が満足するまで…私はここにいるから』 「あ、あああ…あぐう、ううああああ…!!!♡♡♡♡♡♡」  薬のせいだこれは。  体が満たされるような快感も、包み込まれ受け止められる心地好さも。 全て全て薬が錯覚させるもの。 「うぁああ……あああ! ああああ!!♡♡♡♡♡♡」 『気にせず全部吐き出してしまいなさい』  その言葉に僅かに残っていた羞恥心も理性の欠片も全てが吹き飛んだ。  ガツガツと餌にがっつくように腰をくねらせ、王子のペニスを根元から吸い上げてどぷりと飛び出したソレを奥深くに飲み込む。  熱いソレに押し出されるように気持ち悪い感覚が薄れ、ただただ狂おしい快感だけが残った。  いくら尻を振り降ろしても固いままの肉棒を俺は完全に気を失うまで隅々まで味わい尽くしていた。 ~~~~~ 『……ハァ、ハァ……!』  崩れるようにだらりと体を凭れ掛からせた体を魔法で綺麗にしていく。  我慢出来ず大量に中に出した精液も、外に流れ出る度に浄化し、情事の痕跡を消していく。 『ッは、はぁ、はぁ…』  もはやセックスというよりも餌を与えるような色気も何もない行為に体は疲れ果てていたが、妙な充実感を感じていた。  確かにいつかは気を許して貰えればとのんびり構えていた。  だけど気安く接せられる毎日が楽しくて、この変わらない日々を崩したくなくなっていた。  あの笑顔を見せられた日から密かに熱を帯びていく気持ちは冗談交じりで見せていたものの、半分以上本気だったのだ。  結局は呪いのせいとはいえ、最初は本当に彼女を好きかもしれないと思っていたのだ。  今は……疑う余地もない。 『それがこんな風に叶うとはね…』  しっとりとした髪を指で梳きながら寝顔を見ると、胸の奥が疼くのを感じる。  彼はきっと侍女を辞めたいと言い出すに違いない。  その時は、心の中で泣きながらも笑って送り出そう。  ただ、この国で体を繋げてしまったから呪いの影響は体に残っている。  その説明と対処だけはきちんと取らないといけない。  王城に戻ったら弟の仕出かした事の後始末をしっかりしなければ、少しの間忙しくなるな。  少し大きくなってしまった熱にしっかりと蓋をして、私は綺麗になった彼の体をベッドへ静かに横たえた。 ~~~~~  視察から帰って来ても、俺は相変わらず王子の侍女は続けていた。  既に一度襲われてしまったので、ある意味もう怖いもの無しな状態になったのだ。……自棄になっている所も少しは、あるかもしれないが。 「なんですか。ハッキリ言って下さい」  何か言いたげな様子に痺れを切らして先を促すと、王子は観念したかのように苦笑した。 『正直、辞められると思ってた』 「言ったでしょう。俺には夢があると」 『もう一度聞きたいかな』  俺はため息を吐きながらも、もしかすると少しは分かってくれるかもしれないと口に出した。 「女装専門店を作りたいんですよ。女性になりたがってる男もいるだろうし、男だけど違う自分になってみたいだとか…秘めた願望というのはあるものです。  そんな人達の手助けを出来ればと思って…ま、半分自分の趣味ですけど」  半分どころかもっとだが、それは言わなくても良いだろう。  ただ、このまま少し変わり者の王子の侍女を辞めてしまうのは勿体ないと思ったのだ。…言わないけど。 『それはまた大きい夢だね』 「まぁこの国では受け入れられないでしょうが」 『いや、それはどうかな』  ん? それではまるで出しても良さそうな感じに聞こえるのだが…。 『弟がね、あれからも君に会いたいとうるさいんだ。  女装した男の魅力に気付いてしまったらしくてね』 「はあ???」  アイツ、まだ俺を狙ってんのか!!  てか、女装男の魅力ってなんだ!?  男としての魅力なのか男に相反する女としてのスパイスが…いや何言ってるんだ俺!? 『だから…君さえ頑張れるならこの国に女装専門店、開店出来るよ?』 「うっ!!」  なんて魅力的な提案なんだ。  思わず体がぐらりと傾き掛けて踏ん張る。  いかんいかん…いくら夢だからってこの身を売るのは割に合わない。 「何の話してるんですか?」  突然ヒョコっと現れたのはファリラス。  諸悪の根元…!!  ここで会ったが百年目、何か言わないと気が済まないッ! 「あんたのせいで弟王子に付け狙われる羽目になったんだからね!? 反省して頂戴!」 「えっ? 僕、ルーシャルさんが男だって事言ってません!」  ……今、なんつった? 「……え?」 「僕、あの時思わずルーシャルさんに助けを求めてしまって反省したんです…モラントリオ様に襲われそうになったルーシャルさんを見て成長しようと」 「いや、ちょっと」 「これから頑張ります、ルーシャルさん! フェロモンを抑えられるように!  それでもし抑えられたら…あの…」  顔を赤らめてもじもじと体を揺らすファリラスの様子に嫌な予感がしたので耳を塞ごうとすると、さっと抱き抱えられて驚く。 「のわっ!? く、クレイモンド王子!?」 『彼は私の侍女だからね。  君はまだ忙しいだろう?  仕事に戻りなさい』 「ひ、ひえっ…あ、う、えと、し、失礼しますぅっ…!」  可哀想になる位青ざめてパタパタと走り去っていくファリラスの背中に目を向けていると、ぐっと体を引き寄せ顔を覗き込まれて思わず目を剥いてしまった。  綺麗な顔してるからいきなり顔面いっぱいに映ると今でも心臓に悪い。 『ルーシャル、今日から私手ずから毎日薬を飲んでくれる?』 「は? いや、いきなりなんですか」 『あの事を無かった事にするとはいえ君の中に僕の子種を注いでしまっただろう?  まぁ君が子供を産みたいのであれば別に━━』 「飲みますッッ!! 飲ませて下さいお願い致しますぅぅぅ…!!」  この国の呪いの事を思い出し、俺はザッと顔から血の気を失くす。  形振り構わず懇願すると、クレイモンド王子はクスクス笑って『そう言うと思って君の飲む紅茶には“作り替えられた体を元に戻す薬”を入れていたから安心して』と言われた。  それがなんだか気に入らなくてぶすくれていたら、とうとう声を上げて笑われてしまった。 ━━拝啓お父様、貴方の育てた息子は魔王国の第一王子にはどうも敵わないらしいです。 【その後のお話や補足】 エルシフ=ビージョは明らかに丸分かりですが、腐女子BLを並べ替えたものです。 初登場時のモラントリオ王子は下働きに可愛い男(ファリラス)がいるという噂に下働きエリアに足を伸ばしていました。 そしてファリラスは淫魔の血が入ってるので姿を偽っても体の性別は最初からお見通しだった。 クレイモンド王子はデキる王子なので、実は受けが密かにスパイやってる事もお見通しだったりする。 その上でじわじわ囲い込もうと受けの好きなお菓子をこそっと休憩時間に出させて餌付けしていたり、女装専門店を建てる為に女装男子の良さを弟を影で操って布教中。 弟は兄の思惑には気付いていない。 最後の薬を飲むくだりで、今まで紅茶に入れてくれてたんならそのまま紅茶で飲めば良いんだなと受けは思っていましたが、後日王子の有言実行で手ずから一匙ずつ飲まされる辱しめを受けさせられました。 『毎日って言っただろう?』 「い、いぢわる…」 『意地悪だからね、私は。 さあ、まだ十口残っているよルーシャル』 「ひぃぃいん…!」 本当は既成事実に子供を産ませてしまっても良いのだけど、そうしたら心が壊れるだろうと王子なりに受けに気を遣っている。 毎日のやり取りも何気に楽しんでいたので。 それは実は受けも同じ気持ちである事を受け本人はまだ気付いていない。 また、その後は薬が何故か効かなくて体内に子宮が出来たままの体になってしまい、女性フェロモンが活発になり、どこか色気が出て来てしまった受けに心乱される王子達と一部の使用人達。 女装男子推奨派が予想以上に増えて、長年の呪いの歪みの影響がここで出てきたか…と唸るクレイモンド王子。 受けが女装男子だと気付かれて、なんやかんや人波乱ありそうな気配。 ~~~~~ 色々な種族の人外(人型多)攻め好き、ノンケ受けも好き、人外×人間BLが気になると思って頂けた方は小説、漫画読めますので是非ご支援(制作モチベーションの元)、宜しくお願い致します…! https://nirarole.fanbox.cc/

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