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番外編アツメターノ⑦ 新婚の元暴君サマは伴侶を愛し過ぎています。

 窓から執務室の中へと差し込んでくる外光は既に茜色へと変わっていた。書類へと走らせていたペンを置く。閲覧した証である己の名を末尾に記し、書類の束の上へと置いた。今日目を通した書類の山は10センチ程になっている。速読は苦手ではないが、さすがにずっと書類仕事を続けていると疲れが蓄積する。  首を回すと凝り固まった肩がゴリゴリと鳴った。目と目の間を指先で摘まんで押す。少し眼精疲労に効く気がする。以前は目にくることなどなかったような気がする。もしかしたら老化かと考え、苦笑した。そんな歳などと考えていられない。伴侶は自分の半分を少し超える程度の年齢なのだから。  魔法で癒しても良いのだが、魔法を使えば別の疲労が溜まり、あまり効率の良い方法とは言えない。魔法は生気をエネルギー源としているため、それなりに疲れるのだ。  それに、アレクにはとても優秀なヒーラーがいる。魔法は一切使えないが。  執務室に設けられた大きな窓の方を眺めてみれば、空の色はオレンジから群青に変わりつつあった。もう、いい時間だ。まだ執務は山程あるが、今から別の案件に手を付ければしばらくは終われないだろう。そうすれば、腹を空かせたアレクだけのヒーラーが一人で夕飯を食べる羽目になってしまう。孤食を嫌う彼にそんな寂しい思いはさせられない。急を要する事案もないし、今日はこれくらいが潮時だろう。  執務室を出れば、扉の横には衛兵が2人。アレクの姿を見て頭を垂れた。部屋へ戻ろうと歩を進めた瞬間、30センチ程の書類の束を抱えてやって来たユルゲンが視界に入り辟易した。 「急ぎは」 「ございません。全て明日以降で十分です」 「置いておけ。明日、処理する」 「かしこまりました」  深々と礼をするユルゲンの前を通り過ぎる。これで明日も書類作業に明け暮れることが確定した。たまには視察と銘打って騎士団の元へでも行って体を動かしたいものだが、そうすればその時間分だけ執務が滞ってしまう。執務が停滞すれば、それはその日の業務終了が遅くなるということ。それだけは避けなければならない。  カツカツと足音を鳴らしながら目的の部屋へと戻る。近づく毎に心が軽くなる気がする。この時間のために1日頑張ったと言っても過言ではない。  彼に出会う前であれば、好きな時に休息を入れていた。それにアレクは元来、体を動かすのが好きなタイプだ。剣術の鍛錬だと言っては騎士団の団長らと刃を交えてストレスを発散させていた。近頃はすっかりご無沙汰となってしまっているが。  今はそれよりも大切なものがある。さっさと執務など終わらせなければならない。作業の手は以前よりも格段に速くなった。従者たちから重ね重ね感謝をされる。その分、仕事が減っても良いはずなのだが、日々膨大になっていくのだけは解せないが。  目的の部屋の前に辿り着いた。軽く髪を整える。彼の前ではいつでも格好良くありたい。それは出会ってからずっと変わらず、思いは増すばかりだ。慣れや飽きなどといったものとは無縁である。 「ただいま、ケイ」  ドアを開くと室内はシンと静まり返っていた。  おかしい。普段ならば開けた瞬間、愛しい人が嬉しそうな声を上げながら駆け寄ってきてくれるというのに。  少し心配になりながら部屋の中へ入る。その懸念はすぐに払拭された。  窓辺のソファに横たわる人の姿。胸の上には分厚い本が乗っている。先日、城下で流行っていると聞いたため教えたところ、圭が読みたがっていたために取り寄せた活劇小説だ。  くぅくぅと小さな寝息が聞こえてくる。ソファへと近寄り、真っ黒な髪を撫でた。この世界には誰一人として存在しない、唯一の漆黒の髪。  本人は16歳だと言い張っているが、どう見たってその外見は10歳を少し超えた程度にしか見えない。大きくクリクリとした黒い瞳は今、閉じられてしまっている。  寝ている姿は更に幼く見える。シルヴァリアでは16で成人の仲間入りをするが、その頃には誰しもそれなりにガタイが良くなる。彼の見目で成人だと言っても誰一人として信じはしないだろう。アレクですら実は心の奥底ではまだ疑いが残っている。  しかし、絶対に否定はしない。否定してしまえば、法の下に許されている彼との婚姻が取り消されてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。  もう二度と彼を失うことなどできないのだから。 「こんな所で寝ていては風邪をひいてしまうぞ?」  丸みを帯びた彼の頬をそっと撫でる。スベスベとしていて触り心地は最高だ。出来物やシミの一つもない。  どうしてもその頬に唇を寄せたくなる。それを咎めるような者はこの世にいない。  いたとしても圧倒的な力でねじ伏せてやるが。  唇に触れた肌はモチモチとしていて温かかった。その温もりに心もほっこりする。それだけで今日一日の疲れなど一気にどこかへ吹き飛んで行ってしまう。目の前のヒーラーの存在は絶大だ。 「ん~……………あれ? 俺、寝てたぁ?」  薄っすらと圭の瞳が開く。現れた黒曜石を思わせる黒い瞳。その中に自分の顔が映り込んでいる。  それを見てアレクは自然と笑んでいた。  愛おしい人の視界の中にいるのは自分だけ。それは何とも甘美なことである。そんなことを教えてくれたのも、目の前の彼だ。 「ダメだろう。寝るのならきちんとベッドへ行くか、かける物くらいはなければ」 「寝るつもりはなかったんだよ。ただ、今日の勉強、結構難しかったから、ちょっと休むだけのつもりが寝ちまったみたい」  圭はそう言いながらファァと大きなあくびをする。そんな姿も愛らしい。  基本的に圭がすることなすこと全てが愛おしい。今まで誰かに対してこんな風に感じたことなどない。  上半身を起こした圭の顔にチュッチュッと大量のキスをする。  やっときちんと触れられた。朝ぶりの満足いくスキンシップで悦に入る。 「アレク、今日もお疲れ様」  くすぐったそうにアレクからのキスを受けていた圭が腕を伸ばしてきた。満面の笑みを湛えながら。  その腕はアレクの体を包み込む。引き寄せられるように体を近づければ、圭の方から抱き締めてくれる。  この瞬間が堪らない。彼に抱かれると安堵に包まれる。アレクも圭の体を抱き締めた。  アレクの胸に頬を摺り寄せていた圭の顔が上を向いた。背筋を伸ばして唇を寄せてくる。当然のように重なる口づけ。執務に向かう直前にも濃厚なキスをするが、終わった後のご褒美のキスは格別だ。 「んっ……」  舌同士を絡ませる。圭の口内はほんのりと甘く感じる。圭が纏う甘い香りも相まって、その存在自体が極上の甘味のようだ。同じ石鹸やシャンプーを使っていても、アレクと同じにはならないから不思議だ。  くちゅりくちゅりと鳴る水音。圭と2人で奏でているというのが良い。嬉しくて圭を抱く腕に力が籠る。 「うぅ~、アレク~ぐるじぃ~」  プハッと息継ぎをした圭がうめきに近い声を出した。 「ああ、すまない」  圭を抱く腕から力を抜く。  ついウッカリまた加減を忘れてしまった。圭はこの世界の人間よりも華奢で繊細だ。夢中になってしまうと、思ったよりも力を入れ過ぎてしまう。それで圭にツラい思いをさせてしまうのは申し訳ない。  しかし、よくあることでもあった。その度に圭が愛らしすぎるのが悪いと思ってしまう。  さすがに文句までは言わないが。そんなの、ほぼ言いがかりであることはアレク自身も分かってはいる。 「ケイもよく勉強頑張っているな」  頭を撫でれば圭は気持ち良さそうに目をそばめた。  圭はスキンシップを好むタイプのようだ。触れると嬉しそうにする。その顔を見るのがアレクも好きだった。  ただ、それがアレクだけでなく、割と誰が触れても喜んでいるのではないかとたまに心配になるのだが。 「さあ、風呂に入りに行こう。きちんと温まらねばな」  まだ少し眠そうな目を擦りながら圭はぽやぽやした顔で小さく頷いた。その体をソファから抱き上げる。  16歳というには軽すぎる体も心配になる。圭曰く「全く問題ない」らしいが、体格が小さいからか、同じ年頃の男よりも食べる量は少ない。アレクも16の頃にはそれなりに食べていた。その半分程度しか圭は食事ができない。無理に食べさせるのも可哀想だからやらないが。  圭を抱えながら浴室まで辿り着いた。服を脱がせると、痩身の体には胸のピアスと至る所に昨夜付けたキスマーク。その前日も、そのまた前の日にも大量に付けているため、圭の体には数多くの紅い華が咲き乱れている。  この痕を見る度、アレクは自分の中の欲求が満たされるのを感じていた。  圭が自分のものだと実感できるから。 「なあ、今日、オモチャ浮かべても良いか?」  鷹揚に頷けば、圭は嬉しそうに脱衣所の端に置かれた箱の中から水鳥の玩具をいくつか手に取った。  圭の国では、水鳥の形をしたオモチャを湯に浮かべて楽しむ習わしがあるらしい。その微笑ましい姿を見るとアレクの方が嬉しくなる。アレク自身が16の頃など、殺伐とした生活ばかりで全くと言って良い程そんな遊びに興じたことがなかったし、やりたいとも思ったことがなかった。  互いに体を洗い合い、浴槽へと体を沈める。圭は持って来た水鳥の玩具を湯に浮かべて遊んでいた。数匹の水鳥たちは規則性もなくあちらこちらへと進んでいる。 「アレク、あれやって!」  圭が期待を込めた眼差しで見つめてきた。鷹揚に頷き、水鳥たちへと向けた指先を光らせる。僅かな風が指先から吹き、水鳥たちがその風に煽られてプカプカと進む。それらを嬉しそうに眺めている圭を見て、アレク自身も笑みを浮かべる。  圭は高価な物を与えても喜ばない。むしろ、申し訳なさそうに困った顔をするばかりだ。そういった贈り物は喜ばない質らしい。  だから、こんなことくらいで彼の笑顔を見られるのなら、いくらでも微風くらい吹かせてやろうと思う。この程度の魔法であれば全くと言って良いほど体への影響はない。むしろ、圭の笑みを見られて全ての憂いが吹き飛ぶ。  ただ、水鳥のオモチャばかりに圭の意識を持っていかれているのは少し面白くはない。アレクは腕の中に抱いている圭の頬へと唇を寄せた。  浴槽はそれなりに広いが、風呂に入る時は大抵、圭の体を背後から抱き締めながら入浴する。日中ずっと圭と離れていたのだ。触れられる距離にいないなんて到底認められない。  圭はアレクがキスをするのを嫌がりはしない。しかし、水鳥で遊ぶのもやめない。互いに好きなことをしていた。  圭の体を撫でさすっていると、段々とアレクの手が圭の下腹へと近づいていく。イヤらしい意図などない。ただ、自然と手が滑ってしまっただけだ。  しかし、さすがにそれは圭も認めなかったようだ。風呂の中での性行為は圭の頑なな意思によって禁じられている。 「はい、アレク、ダメ~」  あと少しで性器に辿り着きそうだった手の甲を圭が抓った。痛くはない。苦笑しながら手の位置を腹へと戻す。  絶対に何が何でも今ここで性的行為に耽りたいという訳ではない。それよりも、ここで圭の機嫌を損ねる方がよっぽど都合悪い。拗ねてベッドで好きにさせてくれなくなる。  圭の可愛らしい性器を愛でたくはあるが、それは後でじっくりとすれば良い。夜は長いのだから。  しばらく水鳥のオモチャで遊んでいた圭の首筋が薄紅色に染まる。 「そろそろ上がるか?」 「うん。もう結構あちいかも」  フーと息を吐きながら腕の中の圭がアレクを見上げてきた。火照った顔と、潤む黒曜石の瞳。何とも性欲に訴えてくる。ここが我慢のしどころだ。アレクはグッと己の中に渦巻く欲望を抑え込んだ。  圭はよくアレクを煽る。だが、その全てが無自覚だから質が悪い。今まで何度こうして己を律してきたかなんて覚えていない。あまりにも多すぎるのだ。  だから、他の者の前に圭を出したくはない。人懐こい圭は誰しもが彼に好意を寄せる。いくら結婚したと言っても、いつまでも不安はなくならない。  2人で浴槽から上がり、体を拭いていく。圭の体をまんべんなく触れられる。赤く火照った体は何とも淫靡だ。垂れ下がった性器も愛らしい。こんなに小さくて役目を果たせるのかと疑問になるが、きちんと褥では精を放つ。もちろん、圭の精が子をなすという男としての責を務めることは死ぬまでないのであるが。  可愛らしい性器を愛でたくはあるが、それはまだ。今じゃない。このタイミングを間違えて何度か愛撫してしまったことがある。圭はその度に拗ねてしまった。だから、どんなに美味しそうでも、きちんと我慢をしなければならない。  圭に出会うまでアレクに「忍耐」などの言葉は無用の産物だった。それが、今はしっかりと機能している。  全てはこの愛おしい伴侶のためだ。  風呂から上がると夕食の準備が整えられている。いくらでも豪華な料理を用意できるが、圭はそれを好まない。品数も栄養バランスさえ整えてくれれば充分だと、5品もあれば満足する。腹に入れば何でも良く、食事など一切こだわってこなかったアレクであったが、圭がしたいようにするのが一番だと全て彼の意向に任せている。その分、圭好みの味や食べ物をなるべく用意させ、美味しそうに食べている姿を見ては満足するのだ。 「あ、これ、初めて食うやつじゃね?」  圭が口に入れたのは、ヘルボルナ大陸の南で栽培されている果実だった。希少価値が高く、あまり流通していない。どうやら今日の料理の中でも一番のこだわりはこの一品のようだ。圭があまり多くを食べられないため、厨房のシェフたちは出せる料理の中で毎日こだわりを持って作っている。 「おっ、甘くてモチモチしてて美味い」  嬉しそうに咀嚼している姿も愛らしい。まるで小動物のようだ。見ているだけで心が休まる。 「今度はその果実で菓子でも作ってもらうか」 「良いね! それも美味そう。どんなのが出てくるか楽しみだな~」  その見目から圭をあまり外に出してはやれない。その分だけ彼が喜ぶことなら何だってしてやりたい。その思いはいつまでも変わらない。 「あ~、食ったぁ……もう食べれない~」  腹をポンポンと叩く圭は満足そうだ。アレクの半分程度しか食べていないが、それが圭の限界だろう。アレクが食べているのを見ながら圭は嬉しそうにしていた。  食事が終わると2人きりでの憩いの時間だ。大抵はソファでスキンシップを楽しんでいる。  圭の世界では、食後は家族で「テレビ」という物を見ながら団らんの時間を過ごしていたらしい。あと「スマホ」と呼ばれる道具を使い、ゲームなどをして楽しんでいたそうだ。そのどちらもこの世界にはないため、アレクがいない時には手持ち無沙汰になることも多いらしい。  そのため、圭の気を紛らわせられるよう、城下で話題の本などを多く取り寄せてはいる。愛しい圭に退屈な思いなどさせたくない。  今、圭はアレクの上に乗って寝そべっている。軽い圭に乗られたところで全く重くはない。むしろ密着していて嬉しい。  圭の頭を撫でていると、彼はフニャリと顔を緩める。愛らしすぎて胸に込み上げてくるものがある。この伴侶は本当にアレクを翻弄することに長けている。  圭がアレクの手を握ってきた。ゆるゆると指で遊んでいる。すると、うつ伏せでアレクに乗っかっていた圭が体勢を変える。仰向けになって今度はアレクの手を顔に当てたり甲にキスしたりしてくるのだから堪らない。さすがにもう我慢の限界だ。 「おわっ!」  圭を抱え、寝室へとなだれ込んだ。ベッドに横たえ、彼に覆いかぶさる。 「アレク、もうそんなにしたいのか~?」 「ケイが悪いのだろう。そうやってすぐに俺を煽って」  ニヤニヤしている顔を見ていると確信犯だったのだろう。たまに圭は小悪魔のようになる。  圭の顔中にキスを繰り返す。圭は気持ち良さそうに受け入れていた。恋人繋ぎの手をベッドへと押し付ける。絶対に逃しはしないという確固たる意思を表すように。  圭の首筋に唇を寄せた。ジュウゥと音をさせ、肌を吸う。また淫らな華が一つ咲いた。その痕を見て悦に入る。  キスマークを量産しながら圭の服を脱がせていく。毎日毎日、もう何度も見ているのに全く見飽きない。むしろ、もっと見たくなる。圭の幼い体を飾るピアス。胸を愛撫する度、乳首は少しずつ大きくなっている。始めは可憐な豆粒だったというのに。今やふっくらと膨らみ、存在を主張している。何とも淫蕩な光景だ。アレクの性器を苛つかせるには十分だった。 「んっ、んぅ……」  胸の尖りにむしゃぶりつく。舌でねっとりと乳頭を愛撫すれば、淫猥な声が圭の口から洩れる。その声を聞いているだけでアレクの性器はビクリと反応してしまう。 「あっ……は、ぁ……」  夢中になって乳首を舐めていると、圭の口から熱の籠った喘ぎ声がとめどなく零れるようになった。圭が両腿を擦り合わせている。その中心では、愛らしい性器がフルフルと屹立の角度を増し始めていた。敏感な圭の乳首は少しばかりの愛撫ですら快感をしっかりと感じ取る。愛らしく、アレクの好きな場所の一つだ。胸を飾るピアスもとても似合っている。アレクを象徴する色を圭が身に着けているというのが良い。圭が自分の物だと実感できる。 「んっ……んうっ……」  胸への愛撫に圭が身を捩らせた。ほんのりと全身が赤く色づき始めているのも堪らない。下腹の屹立も腹へとつくほど勃ち上がっていた。先端から零れる透明な粘液が圭の腹を濡らしている。感じ入っている伴侶の姿というのは何とも目の毒だ。早く中に挿入りたいとアレクの性器が疼く。しかし、まだこの程度で入れるには早すぎる。もっとトロトロに溶かして、圭の方から入れてほしいと懇願しなければダメだ。その姿がとても良いのだから。  ぷっくりと膨れた乳首を細めた舌先で何度も左右に捏ね繰り回す。舌の表面のざらつきが過敏な場所を擦るのは快感だろう。圭がそれを好きなことは十分すぎるほど知っている。  次いで唇を使って柔らかく食んだ。圭の口から快楽に塗れた声が漏れる。何をされてもこの淫乱な乳首は弱いのだ。やりがいがあるというもの。 「んっ、あれ、く……おっぱ……も、やめ……」 「なぜだ? 気持ちが良いだろう?」 「いい、けど……ぉ……もっと……他も……」  暗に圭が性器や後孔を触れと言っていることが分かっている。だが、安易に伴侶を煽って褥へと誘ってくるような淫乱な妻には仕置きが必要だ。今日はそう簡単にしてやるつもりはない。 「ここじゃないとすると、こっちか?」 「あっ」  アレクは舌で圭の肌を舐めながら顔を下半身の方へと移動させていく。そして、圭のヘソで止まった。再び舌先を窄めて穴の中を舐める。 「ちがっあ……そこ、じゃな……んっ」  嫌々と顔を横に振りながらも圭の体はビクビクと反応している。どこもかしこも感じやすいというのは少し問題かもしれない。これでは他者に触られただけで悦楽に耽ってしまうのではなかろうか。伴侶としては心配になってしまう。 「ひぁっ! ぁあっ、んっ」  ヘソを舐めながら脇腹を撫でる。スベスベとした肌が気持ち良い。触っているだけで性欲に訴えかけてくる。既に下腹の愚息が痛い。圭は愚息を苛立たせる天才だ。酷く突き上げたくなるのをグッと堪えた。余裕がないと悟られたくはない。いつでも翻弄する側でありたいのだ。圭をいつまでも自分に惹き付けておくために。未来永劫。  ヘソを舐めたまま、今度は圭の背中から腰を掌で撫でる。ついでに空いている左手で再度乳首を弄り始めた。唾液で濡れた尖りを指の腹で擦る。たまに爪を立てて刺激を与えれば、ビクリビクリと圭の体が跳ねた。 「あれくぅ……も、そこも、やだ、よぉ……」  圭の声が涙声になってきた頃、やっとヘソから顔を上げた。顔を真っ赤にした圭の目は潤んでいる。  そんな顔をしてはいけない。目に毒だ。  愚息が震える。いい加減にしろと怒っているのが分かる。  それでも、この程度で挿入するのはまだ早い。もっと高ぶらせてからでないと。 「じゃあ、どこが良いんだ?」  ウキウキしながら圭へと問いかける。涙を湛えたジト目で睨まれ、その愛らしさに息を飲んだ。  無自覚だと分かってはいる。分かっているが、やはりこんな凶悪な可愛らしさを他所で出したらと考えただけではらわたが煮えくりかえりそうになってしまう。 「………………どっちも」  しばらく目を泳がせていた圭が不貞腐れたように言う。照れ隠しなのだろう。何とも愛おしい。 「ケイは欲張りだな」  勃ち上がっている圭の性器にフッと息を吹きかけた。それだけで圭は背を反らして甲高い声を上げる。まだ触れてすらいないというのに、何とも敏感すぎる陰茎だ。こんなに過敏で大丈夫なのだろうか。下着が性器に少し触れただけで感じてしまうのではないか。そんなことないとは分かっていても気がかりになってくる。圭の絶頂は絶対に誰にも見せたくない。見た者は目を抉り出し、その記憶を消さねばならない。だったら殺してしまった方が早いのだが。  勃起しても愛らしい大きさの圭の陰茎はフルフルと震えていた。薄紅色で全く使われていないのがよく分かる。女人による穢れを知らない性器。これだけ見れば触れるのすら禁忌と言わんばかりだ。無毛の下腹で存在を主張する屹立。この可愛い性器を好きにして良いのが自分だけだと思うと悦に入る。 「うぁっ!」  ペロリと先端だけを舐めると、圭がひと際大きな声を出した。乳首も敏感だが、やはりここは格別だ。舌で味わう塩味のある粘液。もっと出させたくて仕方がない。  圭の性器の根本から先端にかけてを舌の表面で舐め上げた。小柄な圭の体がブルリと震える。腰を掴み、勃起した性器全てを咥え込んだ。小さな性器は簡単に口内へと誘えてしまう。圭はアレクの男根を口にする時、大きく口を開けてツラそうにしていることがあるが、アレクにとっては易々とできてしまう。体格差があるのだから当然ではあるが。 「あっ! あっ!」  アレクの舌の動きに連動するように圭の口からひっきりなしに嬌声が漏れる。圭は少しの刺激でもすぐに達してしまう。このままではまたすぐに一度目の吐精に至りそうだ。それではこの後がツラいだろう。  圭はたかだか5~6回の射精で気をやってしまう。その程度で満足できる者など、世界中探しても多くはないだろう。  どうやら、圭の世界では1~2回の射精で行為が終わってしまうらしい。最初聞いた時は冗談か性交を嫌がっているのかと思っていたが、圭は大真面目に語っていたから嘘ではないのだろう。  圭の国の国民は性に対して淡泊らしい。毎夜行為を行わずとも平気なのだという。考えられないことだ。愛する者が傍にいて、抱かずにいられるなんて正気でない。病を疑ってしまう。  すぐに果てては可哀想だと、性器の根本を指で握った。痛がる声が聞こえてくる。それでも、これは圭のためだからと心を鬼にして戒める。 「やらぁっ! あれく、くる、しいよぉ!」  圭がアレクの髪を引っ張った。離せという意図は分かる。しかし、この程度の愛撫くらいで終わってしまってはやりがいがない。  それに、もっと咥えたくて堪らないのだ。鈴口から溢れ出る先走りをもっと味わいたい。この全てが圭の中で作られた愛の蜜だと考えるだけで口にせずにはいられない。  男の性の象徴を舐めねぶり、こぞって体液を味わう日がくるなんて思ってもいなかった。むしろ、同性に触られるなんて気色が悪い。考えただけで全身に怖気が走る。それは圭を除いて今も変わらない。  組み敷く伴侶の愛おしさは格別だ。彼の体液の全てが尊い。圭の体で生成されたものが自分の中に入ってくる。この喜びをどう表現して良いのか分からない。  彼の全てが自分のものだ。それは今後、変わることのない事実である。絶対に。  変わるなんて許さない。 「ひぅっ! ひっ、やめ、へ……ッ!」  未だ半分皮の被った性器のカリ首を舐った。アレクの髪を引く圭の手に力が籠る。カリ嵩のアレクと違い、圭の性器は凹凸がそこまでハッキリしていない。アレクのように脈も浮き出ていないし、まだ子供の性器の状態だ。未成年を手籠めにしているような気もしてくるが、既に圭とは婚姻関係を結んでいる。伴侶を抱くことに関して誰も咎めることなどない。  咎められたところで、どんな者が相手であっても返り討ちにしてやるが。 「あぁ……も……ほんろに……らめ、らよぉ……」  ハフハフと苦しそうな息遣いが聞こえてきた。圭の性器もビクビクと手の中で跳ねている。さすがに苦しむ姿は本望ではない。快楽でグズグズに溶けて訳が分からなくなっているのが良いのだから。  仕方なく一度吐精させてやることにした。根本を戒めていた指を離す。ジュッと音をさせて吸った。あっけなく圭の亀頭からは白濁が飛び出した。  今日一度目の射精だというのに量は多くない。圭の世界の者たちはそれが普通なのだと言う。この程度しか出さずにきちんと相手を孕ませられるのか心配だ。この愛くるしい人種が潰えてしまわないか。  精を吐き出し、圭は荒い息のままクッタリとベッドに横たわっていた。アレクたちと違い、圭の性器は吐精後しばらくの間勃ち上がらない。こんなに性欲が弱くて、よくも絶滅しなかったものだ。不思議で仕方ない。  仰向けで息を整えていた圭の体をひっくり返し、うつ伏せの態勢で尻だけを上げさせる。丸みを帯びた可愛らしい臀部。その尻肉も滑らかで触り心地は抜群だ。いつまででも飽きることなく触っていられる。  尻肉を割り、その中央で息づく蕾を露わにする。ヒクリヒクリと蠢いていた。初めて見た時とはすっかり姿を変え、縦に割れた淫らな華と化している。ただの窄まりだった排泄孔とは大違いだ。男を誘う淫靡な性器。見ているだけで堪らない気分になる。  顔を近づけ、クンと匂いを嗅いだ。圭に毎日飲ませている秘薬の効果もあり、排泄孔の香りというよりも少し甘い香りがする。指先で後孔を左右に開いた。クスリのせいで女人の膣のように濡れた後孔の中が見える。ヒクヒクと蠢く襞。中に入ると、たちまち侵入者をきつく締め付けてくるのだ。挿入時の快感を思い出す。アレクの喉が鳴った。  まずは括約筋から。舌先でなぞるように縁を舐める。そんな軽い愛撫でも圭の体はビクビクと震えた。まだまだ序の口だ。この程度でまた出されてしまっては困る。可哀想だが、再び圭の性器を戒めた。 「やっ、痛く、しないれ……」  圭の限界は分かっている。このくらいで握り潰すようなミスはしない。可愛い伴侶の大切な場所なのだ。きちんと扱う。  アレクの掌が白く光った。手を離しても、圭の性器を戒める力は変わらない。こうすることで、アレクが魔法を解くまで圭の性器は射精できなくなった。  再び後孔へと意識を向ける。舌を出して少しずつ後孔内を舐めてゆく。 「ひっ! あっ、ああっ!」  嬌声が激しくなった。圭の後孔は性器以上に敏感だ。中を舐められるという行為にとことん弱い。これで排泄孔な訳がない。圭の後孔は立派な性器である。  舌を伸ばす。夢中になって中の襞を丁寧に舐め続けた。腸だけでなく、括約筋もが舌を締め付ける。うつ伏せでアレクのことを見えない圭に何をされているのかきちんと音でも分からせたい。じゅるじゅると敢えて水音をさせる。圭の細い腰が揺れた。 「あッ! やめ、へ、やめへ……ぇ……ッ!」  静止の言葉など端から聞く気がない。圭の「やめろ」は「イイ」と同義だ。だからもっとしてやらねばならない。  魔法で竿を戒めている性器の先端を指で捏ね繰り回す。半分被った皮を上下させ、次に亀頭を指の腹で撫でる。普段、皮を被っている場所は敏感だ。だから敢えてそこを狙い撃ちにする。 「ひぃっ! あれく、ほん、ろにらめ、……ぇッ!」  圭の腰がビクビクと大きく震えた。ギュッと後孔が締まる。空イキしてしまったのだろう。精を放たずとも圭は絶頂に達することができる。その時の快感は射精を上回るらしい。そして、空イキの便利なところは射精した時と違って連続で何度でもイけるところだ。快感の蓄積は相当のようだが。  キュッと舌を締め付ける後孔は少し痛いくらいだ。力の弱い圭に何をされても痛いと思わないのに。苦笑してしまう。  チュポンと音をさせて舌を抜き出した。ヒクヒクと名残惜し気に後孔が開閉を繰り返している。内部の淫らな肉を見せ、呼吸するように開け閉めする括約筋。誘っているようにしか見えなかった。 「ケイ、そろそろ欲しいだろう?」  本当は入れたくて堪らないのはアレクの方だ。圭の痴態のせいで性器はフル勃起している。先端からは絶え間なく雫を零していた。透明な粘液が竿を伝う。  目の前の淫猥な性器が全て悪いのだ。すぐにアレクを翻弄する。入れれば快楽にすぐ堕ちるメス孔のくせに。一国を統べる皇帝を陥落させるなど、何とも許しがたい場所なのだ。  圭は恥ずかしそうに首だけで後ろを振り向きながらコクリと一つ頷いた。潤んだ瞳に紅潮した頬。どれもアレクの股間を高ぶらせる。  こんなに抱かれておきながら、その魔性の魅力は全く損なわれない。むしろ、抱く度に愛しさが溢れてしまう。今まで、どんなに女を抱いてきてもそんなこと一度たりとて思わなかったというのに。  手練手管の者も抱いたことがあるし、美女と呼ばれる者も幾度も犯した。しかし、こんな風に相手を気持ち良くさせたいと思ったことはない。気が向けば乳を揉み、屹立に奉仕させて突っ込むだけだった。ただの射精するための作業としか思っていなかった。 「まんこ、ズボズボして……俺の中、アレクのでいっぱいにして? 淫乱な俺の、まんこ、アレクのちんぽでグチャグチャにして?」  圭が突き出した尻タブを自ら開く。アレクに見せつけながら尻を振る姿は性器にくる。まだ今日は一度も触れていないというのに、ギンギンに滾った性器から吐き出してしまいそうだ。何と凶悪な性器なのだろう。 「今日もケイは淫乱で実に愛い」  丸みを帯びた尻を撫でてやる。情欲に塗れた圭が嬉しそうに笑んだ。何と愛らしいのだろうか。この顔を見るだけで股間が暴走しそうだ。  屹立の先端を蕾へと当てた。互いに濡れた性感帯同士を擦り合わせるだけでも気持ち良い。 「ああっ!」  ズブリと先端が圭の中へと入った。大きく口を開いた括約筋。食い締めるように性器を食んでくる。その締め付けをものともせず、アレクはゆっくりと性器を奥へと進めていった。キツい直腸を割り開く快感。熱くぬめる襞を敏感な亀頭で押し拓く悦楽に恍惚とする。抱いた女など数知れないが、ここまで気持ち良いと思った者はいない。きっとこの先にも現れることはないだろう。そもそも、アレクにとって抱きたいと思う人間が圭以外いないのだから。 「んぅ、うう……あっああっ」  圭が腰をくねらせた。逃がさないとガッシリ腰を掴む。無理をさせているつもりはない。本当は一気に奥まで突き込んで激しく腰を振りたいのを我慢しているのだ。圭の慣れた後孔はそんなことをしてもしっかりアレクに食いついてくるが。  キツい締付けに僅かに眉をひそめる。凶悪すぎる肉筒の中はすぐに達してしまいそうなほど快感のるつぼだ。入れてすぐ射精なんてみっともないことはできない。  ゆっくり、ゆっくりと腰を進める。辿り着いた最奥の柔肉。結腸だ。普段はしっかりと口を閉じている。その場所を超えると、更なる楽園があることを知っている愚息が苛立っていた。早く抜かせろと喚く。トントンと何度か先端で柔肉を叩いた。 「ケイ?」  できうる限り優しい声で名を呼んだ。圭も分かっているのだろう。尻をいきむ。そして何度か助走をつけるように緩く注挿させた後、一気に奥を貫いた。 「おごっ」  圭の口から悲鳴染みた声が漏れた。ビクビクと圭の体が痙攣する。結腸を抜く時の刺激はアレクにとっても強いが、圭にはそれ以上のようだ。  結腸がアレクの亀頭を締め付ける。そのまま何度も最奥を突いた。ズボズボと結腸を通過する度に得も言われぬ快感に包まれる。アレクにとってもこの場所を抜き差しする時が一番気持ち良い。抜いた結腸がカリ首に引っ掛かるのだ。極上の刺激に眉を顰める。  圭の後孔は油断ならない。すぐにアレクの精液を搾り取ろうとしてくるのだ。それに全力で対抗する。こんな気持ちの良い孔に入れてすぐ出してしまうほど愚かではない。何度もイけるとは言っても、そんな早漏みたいなカッコ悪い真似だけは許せない。 「あっ! ああっ、ひぁっ!」  抜け出る直前まで腰を引いては奥へと一気に突き込む。その際に亀頭で圭の前立腺を押し潰すのも忘れない。何か月も愛撫し続けた圭の前立腺は存在を主張している。そこをガツガツと穿てば圭はあられもない姿を晒してくれる。その証拠に、今だって目の前の肢体は前立腺を当て掘りする度にビクビクと跳ね、幾度か空イキを繰り返していた。空イキする度、ギュウゥと締め付けてくる直腸。毎回その刺激に全力で耐えた。 「あれ、く……も……だひた……い……まほ……とい、てぇ……」  ハフハフと嬌声の合間に圭が懇願してきた。そこで未だに性器を戒めていたことを思い出した。魔法を解けば、圭の体がガクガクと震える。そして白濁を放った。 「あああああ……ッ!!」 「くぅっ……」  それまで以上の締付けに我慢の限界が訪れた。最奥で吐精する。圭の腰を強く掴んだ。  精を吐き出しながら緩くピストンする。全ての子種を圭の中に出したい。この淫らな体の中に己を塗り込みたい。  長い射精が終わる頃、圭の体はヒクヒクと痙攣を繰り返していた。中の性器はそのままに圭の体をひっくり返す。  軽く白目を剥いてしまっていた。圭曰く、後ろで絶頂を迎える時の快感は尋常でないらしい。しかし、まだこんなのは序の口だ。何といっても、たかだか一回射精した程度なのだ。準備運動のようなもの。 「ほら、まだまだ気をやってしまうなよ?」  ぺちぺちと軽く頬を叩いた。絶頂の余韻に浸っていた圭が緩く頷く。  イった体はそれまで以上に敏感らしく、すぐに動くと負担が大きいそうだ。だから暫くはそのまま待ってやってはいたが、圭の中にいる愚息が許してくれない。やっと入れた場所だというのに、何をグズグズしているのだと苛立っているのが分かる。生まれた時から共にしているというのに、本当に聞き分けのない奴だ。他の女を抱いていた頃にはそんな我が儘を言うことはなかったというのに。圭に対してだけは言うことを聞いてくれない。  アレクは圭の左脚を自らの肩にかけた。そのまま注挿を再開させる。 「や、まら……、まって……んぅっ!」  愚息の意のままに奥を穿った。圭の背が反る。胸のピアスが揺れた。誘っているようで愚息の苛立ちが増す。 「ほら、まだまだ夜はこれからだぞ」 「んあああっ!!」  ピアスを軽く引っ張りながら腰の前後運動を再開させた。ついでに圭の陰茎も緩く手淫する。3点を同時に責められ、圭はひっきりなしに嬌声を上げていた。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  何度も逐情を果たし、圭の意識が途切れた頃にはすっかり夜も更けてしまっていた。圭の中から萎えた陰茎を抜き出す。ズボリと音を立てた後、括約筋は閉じ方を忘れたように大きく口を開いていた。ドロリと中から出てくる精液。見ているだけでまた股間が疼きそうになる。さすがにこれ以上やったら圭の腰がもたない。明日、拗ねて口を聞いてくれなくなっても困る。そんなところも可愛くて、たまにやってしまうのだが。  圭の体を抱え上げベッドを降りた。寝室の端にぶら下がっている紐を引き、浴室へと向かった。紐の先は侍従の待機部屋へと繋がっている。こうする事で風呂に入っている間にベッドが整えられるのだ。何時であったとしても。  可愛い圭を乱れたベッドでなど寝かせられないし、体もきちんと綺麗にしてやりたい。汗や精液でベトベトのままでは可哀想だ。しっかり寝かせて、翌朝、快適に目覚めさせることが伴侶としての役目である。どうでも良い相手だったらそんなことまでしないが、大切な圭のためであればどんな事でもしたくなる。こんな相手は本当に初めてだ。  アレクにとって、人生の中で大切だと思った人物は母だけだった。その母すら幼い時に亡くなり、ぽっかりと空いた心の穴のせいでどんな時でも満たされることがなかった。皇帝の地位を手に入れた時ですらも。何でも手に入る立場になったというのに、欲しいと思える物が思い浮かばなかった。  湯の中に入り、腕の中に抱えた圭の髪を撫でる。気を失っている伴侶も愛らしい。圭は何をしていても可愛いのだ。起きていても、寝ていても。怒っても、笑っても。  最も好きなのは圭の笑顔だった。彼が笑うだけで目の前の世界が華やかに輝いて見える。それはアレクにとっての最上だった。  悲しむ姿はもう見たくない。性交で泣く姿を見るのは好きなのだが、それは快感に打ち震えて流す涙だと知っているから。  圭には何度も悲しい思いをさせてきてしまった。だから、この後の人生の中では極力そんな状況に置きたくない。それがアレクにとっての圭への償いであり、使命であると考えている。 「ケイ、いつまでも一緒だ」  チュッと目元に口づけた。今夜も大分泣かせてしまった。快感に翻弄されて我を忘れる圭が可愛すぎたから仕方がない。  アレクは意識のない圭の体を自らの方へと倒す。ギュッと力強く抱き締めた。  一度手放してしまったから分かる。愛おしい人を腕に抱けるという尊さを。  圭と出逢って結ばれてからが一番の幸せだった。いつでも胸の中は満ち足りているし、毎日が充実している。  明日になれば圭はどんな風に笑ってくれるだろうか。そう考えただけでワクワクする心を止められない。  大切な人と一緒に過ごせる幸せを教えてくれた彼を抱く腕に更に力を込めた。意識があればまた「苦しい」と文句を言われてしまいそうだ。そんなところも愛くるしい。彼が発するどんな言葉も福音にしか聞こえない。  彼と迎える明日が来る幸せを知ってしまった。こんな幸福、もう逃せない。以前の自分がどう生きていたかすら曖昧だ。色褪せてしまって記憶の片隅に置き去っている。アレクの頭の中には圭との楽しい思い出ばかりでいっぱいだった。  腕の中の愛しい人に頬擦りする。また明日、新たな記憶を共に作れることは感謝しかない。  だから、もしもこの幸せを奪うような者がいれば許さない。  例え、それが圭だとしても。 「愛してる。また俺の傍から離れる時は……×××××」  以前は何度もしてきたことだが、圭が嫌がるから今はしていない。  そんなことはもうしたくないが、圭がいなくなることを考えれば話は別だ。  だから、もうそんな事しなくて済むようにしてほしい。  いつまでも大切にするから。明日も明後日も、そのまた先も、ずっと、ずっと。死ぬまで隣にいるのは腕の中の存在だけで良い。  それ以外、何もいらない。

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