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【第2部 ヘルボルナ大陸】 第6章 旅の終わり編 第4話
もはや慣れた転移の魔法で戻ってきたのは圭がシルヴァリアで最も滞在時間の長い部屋でもある寝室だった。
「あ~~~~~疲れたぁ~~~~~~」
靴を脱いでベッドへとダイブする。ボスンとスプリングが跳ねる。慣れたベッドの弾力。それに、僅かに残る自分たちの香り。クンと嗅いでフニャリと笑んだ。
どんなに旅が楽しかろうと、自分たちの居場所が一番落ち着く。
「アレク~、髪! 髪戻して~」
ヴァラーラ滞在中、ずっと魔法で髪を伸ばされていたため、少しは慣れてきたと言ってもそれなりに違和感は大きい。たまにならば良いが、やっぱりいつもの髪の長さが安心する。
アレクは圭の言葉を聞くと、すぐに魔法を解いてくれた。肩の下まであった黒髪が元のショートヘアへと戻る。頭が軽くなった気がしてホッとした。
「あぁ~、メイクも落とさなきゃぁ……」
頭の違和感がなくなると、今度は化粧特有の肌のごわつき感が気になる。日本にいた時は化粧なんてせず、夏に日焼け止めを塗れと母や姉から口うるさく言われて塗る程度だった。そのため、顔全体に異物を付けられているようなこの化粧の感覚というのは正直不快以外の何物でもない。
「ならば風呂に入るか? その服も早く脱ぎたいだろう」
アレクの提案に何度も頷き、全力で同意する。凶悪な靴やコルセットはなくとも、女性物の服というのも着慣れている訳ではない。いくら女顔だといっても、だからと言って女性用の服が好きという訳ではない。可愛らしい服を着た女の子を見るのならばそれは別の話だが。
大の字になっていたベッドから起き上がり、アレクと浴室へと向かう。洗面台に用意されているクレンジングでメイクを落とせば、絶世の美女からいつも通りの見慣れた顔が鏡に映る。メイクを施してくれる人たちには申し訳ないが、こっちの方が安心する。化粧をされた時点でシルヴァリアの皇后という肩書きが重苦しく圧し掛かり、肩ひじを張った感じがひどい。自分らしさは全て封印し、重責に押し潰されそうな窮屈感が嫌だった。
ポイポイと着ていた服を脱ぎ捨て、部屋の備え付けにしては広い風呂場へと入る。どんな時でも好きなタイミングで入浴できるようにと整えられた浴室は長旅を終えた圭たちを待っていてくれたかのように今日もホコホコと湯気を立てていた。
かけ湯をしてから浴槽へと肩まで浸かる。温かい湯に全身包まれ、大きく一つ息を吐いた。
圭の後から入ってきたアレクも同様に湯へと全身を沈め、もはや浴槽内での定位置となった圭の背後へと回る。後ろから抱き締められ、逞しい腕の中で安堵する。
湯を掬って顔にかける。薄桃色をした湯はほんのりと甘い香りがして長旅の疲れを癒してくれる。
アレクにお願いして風呂用の水鳥のオモチャを浮かべてもらえば、いつもの光景の完成だ。
「あぁ~~~~~やぁっぱ、これだよなぁ~~~~~」
水面にはプカプカと浮くカラフルな水鳥たち。
そして、背後には大好きな人がいる。
圭にとっては当たり前でありながら、とても大切な時間。
「旅は楽しかったか?」
「うん、すっげー楽しかった!」
体ごとアレクへと振り返る。目の前の体躯へと抱き着き、肩口へと顔を埋めた。
「でも、やっぱ俺にはシルヴァリアが一番ホッとする」
スリッとアレクの首筋へと頬を擦り付けた。
どんなに素敵な所でも、慣れ親しんだ居場所には敵わない。
今の圭にとってそれはシルヴァリアであり、アレクの傍だ。
なかなか外に出してもらえなくとも、気兼ねなくいられるのはここだから。
「ケイにそう言ってもらえると嬉しいものだな」
腕の中の圭をアレクも抱き締める。背に回る腕の感触。この定位置が好きだ。
しばらく抱擁による安堵感を満喫した後、どちらからともなくキスを交わす。舌を絡ませ合い、互いの口内を貪る。唾液を飲み込ませ合い、溢れたものは湯の中へと落ちていく。何を汚す訳でもなく、好きにして良い唇に夢中になってキスをし続けた。
当然のように勃ち上がる陰茎。それは圭だけでなく、アレクも同様だった。抱き着いてキスをしながら、腰を蠢かして互いの屹立を押し当てる。圭の2.5倍近い大きさを誇るアレクの陰茎は硬く力を漲らせていた。ヘコヘコと腰を振って裏筋同士を擦る。ジワリと滲む先走りは温かい湯の中に混ざる。
「アレクぅ……」
キスの合間に名を呼び、強請る。まだ日中であることや、アレクには溜まった仕事があることなんて何一つ頭の中に残っていない。昨夜、踊り疲れて寝室に戻るや否やすぐに眠りについてしまった体はアレクを求めてやまなかった。
圭の求めに応じるようにアレクの指が後孔へと挿入り込んでくる。いつでも愛する人であらば受け入れられる態勢を整えている蕾がキュウとアレクの指を締め付けた。
後孔で感じる指の感触。アレクの体の一部だと思うだけで胸が締め付けられる程に愛おしくなる。
「んっ、……んっ」
中で蠢くいたずら好きな指。前立腺を掠めては離れを繰り返す。そのじれったい刺激に圭は体をくねらせる。
「アレク、ちゃんと欲しいよ……」
こんな中途半端な愛撫なんかじゃ物足りない。アレクを知ってしまっている体は貪欲に彼を欲する。
太く、硬い長剣で刺し貫かれる快感を知ってしまっている。圭の中は期待に疼いていた。
「んっ……」
指を引き抜かれ、僅かに体を持ち上げられる。アレクの剛直の切っ先が圭の後孔に触れた。
「んぁあああっ」
ズブズブと遠慮なしに挿入り込んで来た陰茎。求めていた物を手に入れ、ヒクヒクと直腸が歓喜する。結腸まで到達し、動きを止めた陰茎に圭は一つ息を吐いた。
キュッとアレクの首筋に抱きついた。中を占める剛直。一つになっているこの感覚が堪らない。
「アレク、大好き。好きすぎて、俺、おかしくなっちゃうかもしんないくらい、アレクのこと好き」
中にいるアレクの体積が増す。圭を抱き締める腕の力も増した。
「俺もだ。もう、ケイのいなかった頃になんて戻れないし、どうやって過ごしていたのかも思い出せない」
互いに想いが通じ合う。日本での生活も幸せではあったが、ここまで満ち足りた経験をしたことがない。最上級の幸福の中、与えられる悦楽。この時間がずっと続けば良い。
中にいるアレクが再び動き始めた。圭の腰を掴み、上下に揺すって来る。更にアレク自身も下から突き上げてくるため、自重と突き上げの2重の刺激に酔いしれる。
「ああっ、あれく! イイ! すき、らよぉ!」
ドチュドチュと容赦のない責めが直腸を襲う。結腸を打たれる度に中にいるアレクを愛おしい気持ちで締め付けた。
圭の体にはサイズオーバーな剛直の存在で頭がいっぱいになる。一緒になっているという高揚感。括約筋は常時、中にいるアレクを抱き締める。襞の一つ一つまでもがアレクの剛直に縋り付いていた。
中を穿たれ続けるが、その先……更に奥のS状結腸の壁が欲しいと喚く。結腸ばかりでは物足りないくせにと圭の脳に直接訴えかける。
「奥ぅ! もっと、おく、ドチュドチュしてぇ!」
「まったく、欲しがりな淫乱だ。そういう素直なところも愛してるよ」
「んぁあっ!!」
一気に結腸を貫かれる。欲していたS状結腸の肉壁に突き刺さる熱い切っ先。渇望していた場所に埋められた待望のイチモツにアレクの体をギュッと抱き締めた。
最奥まで占めた剛直はすぐに抜き差しを始める。窮屈な中を奥深くまで挿し込むことになり、水面がパチャパチャとそれまで以上に波打った。
「ふぁっ、ぁあっ、あっ」
気持ち良すぎる悦楽に包まれながら、目の前の愛おしい人に縋り付く。普段よりも少しばかり熱く感じるのは、性交による興奮か。はたまた、適温とはいえ、ずっと入り続けている湯のせいか。
どちらかなんて分からない。圭の中を穿つ陰茎の熱さに翻弄され、圭自身もクラクラするほど熱に浮かされていたから。
腹の中を本能のまま好きにかき回されているようで、その実、圭の快楽スポットを隅から隅まで熟知しているアレクは気持ちの良い場所を狙いすましてピストンをしている。前立腺も、結腸の奥も、圭がちゃんと善がるようにと擦り、突いてくれる。そんな風に抱かれては夢中にならないはずがない。
「んっ、んぁっ、は、ぁッ」
次第に湧き上がる射精欲。湯の中で吐き出したくなどないのに、高ぶる熱は止められない。
「らめ、も、れひゃう……」
ブンブンと頭を振る。立ち上がって浴槽から出ようとしても、当然アレクが許してくれない。強く掴まれた腰を一気に下へと引かれ、勢い良く根本まで刺し貫かれた。
「んああああっ!!」
予測していなかった唐突な刺激に絶頂を極める。ヒクヒクと全身を痙攣させながら湯の中に吐精した。入浴剤の混じった薄桃色の湯に白濁が浮く。
「らめ、っへ……いっら……のにぃ……」
湯を汚してしまった罪悪感。目の前で浮いている白濁に羞恥で目の端に涙が溜まる。
「んぁっ!」
中にいるアレクが更に体積を増した。未だ吐き出していない性器は力を漲らせたまま圭の中に居座っている。
「堪らないな、この締め付けは。ケイが俺のことを好きだって体でも示してくれてるのがよく分かる」
「ぐぇっ」
ギュウゥと抱きすくめられる。若干苦しい程だ。
アレクの腕力を持ってすれば、小柄で痩身の圭など潰してしまえそうだ。一応、アレクもどんなに高揚してもそうならない程度には加減をしてくれている。それでも十分苦しいが。
「あれくぅ、俺、ちっそくするぅぅ……」
「ああ、すまない」
パッと力を抜かれ、やっと満足に息を吸えるようになった。
「ね、続き、ベッドが良い」
プカプカと水面に浮いている白濁から目を逸らして懇願する。このままでは再び湯を汚してしまいかねない。
一度放ってしまっているのだから2度も3度も変わらないと言われるかとも思ったが、アレクは圭の体を抱き締めたまま立ち上がった。クラクラする頭のまま、アレクの体を両手両足で抱き締める。適温とはいえ、湯の中で温まっている状態の中、更に熱くなるような行為をしてしまったため、少し湯あたりしてしまったようだ。刺し貫かれたままのため、一人で歩かされることはないと思っていたが、歩けたかどうかも怪しい。歩けたとしても、よろけてしまいそうだ。
脱衣所で一度性器を抜かれ、バスタオルにくるまれる。柔らかな布に包まれる心地も気持ち良い。城で使われている素材は全てが国内最高の物ばかりだ。その中でも特に圭の身の回りの物は最上でなければならないと厳選されている。
水滴を丁寧に拭き取られた後、抱えられたままベッドへと運ばれた。湯あたりで火照った肌に寝具の柔らかくも湯よりはひんやりとした肌触りが堪らない。本能が涼を欲して布団にしがみつく。アレクは再び圭の腰を掴み、持ち上げた。
「んやぁっ」
ひんやりとした布団の感触が名残惜しい。嫌々と首を振ったが、当然ながら許すアレクではない。
「まだ俺がイってないだろう?」
「んああっ」
昂ったままの剛直が挿入り込んでくる。ズブズブと遠慮のない挿入。先程までアレクを易々と受け入れていた後孔は圭の意思とは関係なく悦んで剛直を抱き締めた。
次はアレクの番だとばかりに勢い良く突かれる。ズバンズバンと肌を打つ音が寝室に響いた。奥に到達する度に声が漏れる。ギュッと目の前の布団を握り締めた。何かに縋らないと行為の激しさで我を忘れてしまいそうだった。
「イくぞ、ケイ」
「いっへ……はやくぅ……ッ!」
何度もイイところを突かれ、放ったばかりの圭の性器も再び力を取り戻していた。アレクと違って早漏な分、愛撫されればすぐに勃ってしまう。ただ、体力オバケのアレクとは違い、行為に耐えられる時間は大いに差があるが。遅漏で無尽蔵な体力を持つ伴侶というのはなかなかに相手をするのが大変だと常日頃から感じてはいる。
そんな差があっても、少しでもアレクには満足してもらいたい。他の人になんて目もくれず、アレクによって彼の好みになるよう開発されたこの体だけを愛でてもらいたい。だから、たくさん抱いてほしいとは思う。アレクの好きなようにしてほしい。
ずっとこの体を愛してもらえるのなら、どんなことをされたとしても圭としては本望だ。
「くっ」
「んあっ、あああっ!」
ひと際深く突き入れられる。S状結腸の柔肉に埋められた亀頭の先端から勢い良く放たれる精液。ガッチリと腰を掴まれ、一滴たりとも零さないとでも言わんばかりの強さがあった。
本日2度目の深い絶頂に襲われる。浴室での吐精時以上にアレクの性器を締め付けた。
中にいるアレクから全てを搾り取ろうとする動きで竿を包む。圭からのそんな希望を聞くようにアレクの吐精は長く続いた。S状結腸の中が温かい粘液に満たされる心地。腹の奥までアレクでいっぱいにしてもらえる喜び。
アレクが体内で作り出した物を体の深い部分で享受できるというのは圭にとっては歓喜でしかなかった。薄い腹を摩る。この中に億という単位のアレクの子種が満ちている。今はまだ互いに子を欲しいと思っていないため、彼らがこの世に生を受けることはないが、いつか、時が来たらアレクの子供なら産んでも良いと思うくらいには彼のことを愛している。
性別という垣根を超え、アレクサンダー・フォン・トイテンヴェルグというこの世でたった一人の男性だけが圭の誰よりも大切な存在だから。
「んぅっ」
力を失った性器が引き抜かれていく。腹を満たしていた剛直がなくなるのは寂しかったが、2度の逐情と旅行による疲労は圭の意識をフワフワと揺蕩わせていた。
2人で布団の上に仰向けで横たわる。目線の先には見慣れた天蓋。心が通じ合う前はこの天蓋を背にしながら圭のことを犯してくるアレクが嫌で嫌で堪らなかったのに、今ではこの空間にある物全てが圭にとっても大切な物へと変わっていた。
コロンと体をアレクの方へと向ける。優しいエメラルドグリーンの瞳と視線が合う。自然と頬が緩む。アレクを視界に入れると、喜びが溢れてしまうから。
「仕事、大丈夫?」
「少しくらい良いだろ。帰って来たばかりなんだ。そんな疲れた頭でしたところで、効率が悪い」
「さっきは溜まってるから早く帰らなきゃって言ってたくせに」
「そうでも言わないと、ケイがまだ帰りたくないとか言い出しかねないからな」
「そんなことないよ。俺だって、シルヴァリア好きだもん」
ギュッと目の前の人に抱きついた。少し汗ばんだ肌。せっかく風呂で汗を流したのに。クスリと笑うも、圭の方もうっすらと汗が滲んでいた。
「好きなのはシルヴァリアだけか?」
「ううん、アレクがいるから。俺、アレクがいればぶっちゃけどこだって良い。アレクがシルヴァリアにいるから俺もここにいて、アレクがシルヴァリアのために頑張ってるの知ってるから、俺もこの国のためにできることは何でもしたいと思うし、この国がすげー好き」
全てを捨てても良いと思うくらい。それくらいにはアレクと、彼の大切にしている物を愛している。
「俺もだ。ケイのためだけに俺がいる。生涯、これだけは絶対に忘れないでくれ」
抱き締められる腕は心地良く、体も心も満たしてくれる。
脚を絡ませ合い、腹もピタリとくっつける。アレクと触れ合っていない場所がないように。
そして、唇を交わし合う。抱き締めた腕の力を強めながら。
いつの間にか再び昂り合った体は互いを求め出す。アレクの仕事なんてすっかり忘れ、情事に耽った2人がその後、圭の2度の逐情の後に意識を失うまで淫らな時をベッドの上で過ごすことになるのを、この時の圭はまだ知らない。
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【次回予告】
圭、念願の学校へ!
新婚旅行後、いつも通りの変わらない日常を送っていた圭とアレク。ある日、久々の城下町お忍びデートを楽しんでいると、放課後を街で楽しむ学生たちを発見。
「俺も学校通いたい!」
「ダメに決まっているだろう!」
突然始まった夫婦喧嘩! アレクの出した通学試験にまたもや離婚危機勃発!?
紆余曲折の末、下級貴族へと身分を偽って通わせてもらえることになった学校は、とんでもない差別社会だった……。
やっとできた年の近い友人に圭、歓喜! そして、当然のように十代に嫉妬するアレク! 皇后業務も新展開? アレクの溺愛も止まらない!
そして、今回もやっぱり圭、命の危機に!? 留まるところを知らないユルゲンの胃痛!
シリーズ中、最も大人げない28歳・職業:皇帝満載でお届けします。
第3部「学園編(別名:友達100人できるかな?編)」シリーズ中、最長記録の予感!? 幕間2話を挟んで冬くらいに公開予定!(希望的観測)
※予告は執筆前の段階での内容です。変更になる場合があります。ご了承下さい。
※タイトルは仮称です。
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