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女性向け風俗でガチ恋客(男)に指名されました①

「みっ、店に通報してもらってっ、かまいません……!」 「え、えっと……」  土下座する青年を前に、研修で渡された従業員向けマニュアルの記憶を頭の中でかき集めるが、こんな状況の対応なんて載っていなかったと思う。  女性向け風俗で働き始めて2週間。まだ仕事にも業界にも不慣れな俺は、突然の非常事態に立ちすくんで青年の後頭部を呆然と見つめるしかなかった。 「予約は女友達に協力してもらって、出禁覚悟で呼びました……まひろ君が入った時から、好きで、我慢出来なくてっ……!一度だけでも、会ってみたくてっ!ごめんなさい……!」 「と、とりあえず顔上げてください!土下座なんかしないで!」  ビジネスホテル特有の硬くごわつくカーペットに額を擦り付ける青年の姿に我に返り、慌てて駆け寄り身体を引き起こす。  ごめんなさい、と未だに繰り返す青年をベッドに座らせ、仕事用のスマホを取り出して予約情報を確認する。 「えっと……この予約してある女性の情報があなたの女友達ってことですね?」 「はい……、」 「そしたら、えっとー……、一応あなたの性別聞いてもいいですか?」 「……男、です……」 「ですよね……」  今すぐ『女性向け風俗に男の客が来た時の対処法』をネットで検索したい。でも、それをしないのは俺の中でとっくに対処法を見つけているから。  それは店に連絡するだけ。簡単なこと。  そうすればこのなんとも気まずい空間は問答無用で終了し、この青年は規約違反者として本人の希望通り今後一切うちの店を利用出来なくなる。それだけのこと。 「でもうちの店のペナルティ、怖いんだよなあ……」  以前プレイ中に違反行為である盗撮を行った客の女の子。店の人にキツく詰められてエグい額の罰金を請求されていたことを思い出して身震いする。  女の子でもあんな目にあうんだから、男の人なんかもっとひどいペナルティが…… 「……よし、お兄さん先にシャワー浴びてきてください。あ、そういえばお名前は?」 「え、あ、森本です……えっと、シャワーって……」 「森本さん今回のコースの代金はしっかり前払いで入れてくれてるでしょ?それなのに男だからってだけで追い返すなんて俺出来ないです。うちの店安くないですし」  仕事終わりに店に提出するカウンセリングの資料に森本、と名前を書き、残りの項目は適当に埋めていく。  もちろんその『男だから』の部分が重大な規約違反なのは理解している。だが目の前でひたすら頭を下げる青年を、ペナルティとして酷い目にあわせるような度胸が俺にはなかった。 「本当はちゃんと頂いた料金通りのサービスをしたいんだけど、男性向けのプレイは想定されてないからサービス出来なくて……だから添い寝だけでも。どうですか?」 「いいん……ですか?」 「ほら、せっかく120分コース入れてくれたんだから時間もったいないですよ?シャワー先にどうぞっ」 「まひろ君っ、ありがとう……っ、」  にこりと微笑んでシャワールームの扉に促せば、今にも泣きそうに潤む瞳と初めて目が合った。 「へぇー、森本さんって24歳なんだ。俺の2個上だ」 「まひろ君22歳?プロフィールだと23歳だったから1歳だけサバ読みしてるんだね。やっぱり身バレ防止?」 「そうそう。本当はもっとプライベートとかけ離れたプロフィールにしろって言われたんだけど、俺馬鹿だから設定とかごっちゃになりそうで。だからずらすのは1歳だけにしたんだ」 「ふふっ、まひろ君は嘘つくのが苦手なんだね」  弱点を指摘されもぞもぞと寝返りを打って頬を膨らますと、森本さんは楽しそうに笑った。  女性と並ぶと余白が出来るような広いベッドも、男2人で横になると寝返りもぎこちなくなるくらいスペースに余裕がなくなる。それでも森本さんは嫌な顔ひとつしないでこの特例の添い寝コースをリラックスした表情で楽しんでいるので、密かにほっと胸を撫で下ろしていた。  かく言う俺も同性であり歳も近い森本さんとの会話が楽しくて、いつも女性のお客さんの前で感じる緊張感やプレッシャーは一切消えていた。 「ごめんね、俺の方が楽しんじゃってる。仕事まだ慣れなくてさ、なんかずっと緊張してたから森本さんと話すの楽しくて気が抜けちゃって」 「まひろ君入店してまだ日が浅いもんね。今が1番大変な時期だね。休息はしっかり取れてる?」 「うん、休みの日はちゃんとダラダラしてるよっ。森本さん優しいね。ありがと」 「っ……、」  微笑んで感謝を告げるが目線を逸らされてしまい、不思議に思って顔を覗き込む。そこにあった森本さんの顔は耳まで真っ赤に染まっていて。 「えっと、どうしたの……」 「ほ、本当に、まひろ君が入店した時から追ってて……好きで……」 「う、うん」 「俺、男なのに、リアルで会えただけでも奇跡みたいだから……添い寝も実はさっきから結構、やばくて……」 「っ、」  やばいって何が?なんて野暮なこと聞いて茶化すことも出来た。  ソレに気付かないフリをしてまたダラダラと会話を続けることも出来た。  でも、俺にはそのどちらも出来なかった。決して安いとは言えない金を払って、規約違反のペナルティを受ける覚悟で、そこまでのリスクを負いながら俺を指名してくれた。俺に会いに来てくれた。  だったら、俺は、 「ほんとだ。ここ、もうガチガチだね、」 「ま、まひろ君……!何してっ、」 「森本さんの、熱い……」  バスローブの隙間からそこに手を伸ばし、ボクサーパンツの中で硬く脈打つソレにそっと触れる。男のソレに触ってる不快感なんて一切感じなかった。  2人で肩まで被っていたシーツを剥ぎ取って、自分のバスローブに手をかけ脱ぎ捨てる。 「カウンセリングしてないからNGあったらその場で止めてね?」  びくりと肩を揺らして身構える森本さんが途端に可愛く思えた。

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