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最終話

 「おかえり、ぷよぷよちゃん」  「そんなにぷよってないから!」  「でもまた太ってきたのは事実だろ?」  「うっ」   萩原の言葉に反論できない。それが事実だからだ。  郡司と付き合うようになって毎日が幸せいっぱいだった。昼休みには一緒に弁当を食べて、週末は熱い夜を過ごすのは変わらないが休日もどこかに出かけることが増えた。  もっぱら食べることが好きな二人なだけにカフェや有名なラーメン屋さんを巡ることが増え、それに比例するように体重も増えてしまった。  (でもまだ五キロだから大丈夫)  またぽっちゃりにも片足を突っ込んでいない。いまならまだ挽回できるはず。けれど一度たかが外れた食欲センサーはなかなか修正できなくて苦戦している。  「ま、俺は久々にぷよぷよちゃんが触れて嬉しいけど」  なおもしつこく潤の腹を摘もうとする萩原との間に逞しい背中が遮った。  「佐久間さんが嫌がってるので辞めてください」  「おーっとここで救世主か」  「なんですか、それ」  白い目で萩原を睨みつけた郡司は呆れている。  「もうすぐ始業の時間ですよ」  「あ、やべ。じゃあまたな」  「もう来なくていいよ!」  潤が言い返すよりも先に経理部を出て行った萩原には届いていないだろう。相変わらず風のようにつかみ所のない性格だ。  「大丈夫ですか?」  「うん……ありがとう」  郡司は潤にだけ笑顔を向けて、すぐにパソコンに向き合った。  同じように食べてばかりいるのに郡司は太るどころか筋肉量が増している。  郡司は強靱な精神でジムに通いつめトレーニングに勤しみ、食べ過ぎた日の夜は小食にするなど自制を保っているが潤は元々欲に弱い方だ。食べてもいいと言われると際限なく食べてしまう。  それに太っていてもいなくても恋人は好きだと言ってくれるので我慢のしようがない。  「あ、そういえば」  郡司が思いついたように潤の耳元に口を寄せた。  「駅弁ってやってみたいんです。だからまた少し痩せましょう」  「きみって」  とんでもないワードに顔が熱い。しかも想像してしまったお腹がきゅんとした。  「また今日からダイエット頑張りましょうね」  「……わかったよ」  (早く痩せよう)  そう誓ってキーボードを叩く手に力が入った。

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