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第19話
ぱん、ぱんと尻に引き締まった紫央の腹が打ち付けられる。痛み、快感、熱くなる身体に逃げる腰をぐっと逃さない紫央の掌の力強さ。
色々な感情や感覚が身体を一気に駆け上る。
「ああっ、入りたい。薔太!」
ぐいっと一層強く紫央の腰が打ち付けられた瞬間、薔太の戒めは解かれ太腿の間に熱い飛沫が破裂した。
「薔太、俺の……」
肩口に所有の印を刻むように噛みつかれ、薔太は脱力する。布団に顔を埋める。ぬるぬるとぬめる股への紫央の抽挿は止まらない。そのまま今度は前に返され、胡坐を組んだ逞しく長い脚の間に股を開いて座らされた。
「足りない。薔太。愛してる。お前だけが、俺の最愛だ」
嬉しい言葉を夢うつつのまま聞いた薔太は、首をさらしてくったりとしたままで微笑んでいる。片手でぐらぐらと揺れる薔太の背を軽々と支えたまま、紫央は薔太と自らのものを掌でまとめて摺り上げていく。
薔太は半分気を失いそうになりながら喘ぎ身じろぎ、再び放ったのちは意識すらも手放した。
※※※
早朝。気だるげな夕べの余韻が熾火のように残る身体は気怠いが心は満たされていた。
薔太は紫央が成人の祝いの一つにと贈ってくれた、とっておきの雪輪絞りの藍色の浴衣にカーディガンを羽織っただけの姿でテラスから庭に下り立った。
日差しがまだ白々とし、青みが強く見える庭で、薔太は大輪の黄薔薇を選ぶと鼻を近づけ瞳を細めた。
もっとも紫央が好むダマスク系にティーが混じったフルーティーな香り。薔太は祖父が愛用していた剪定鋏でその薔薇を切り取ると、紫央を起こさぬようにと静かに和室へ持ち帰ろうとした。
しかし振り返る前に背後から抱きしめられてハッとする。
「薔太」
「紫央さん」
「置いてけぼりは酷いな」
そのまま身動きがとれぬほど強く抱きすくめられ、首筋に残った情欲の痕の一つに口付けられる。それだけでまた身体が火照ってきてしまいそうだ。
「床の間に挿そうと思って。夜明けの薔薇は香りがよいから」
薔太はそう言いながら薔薇を恋人の高く形よい鼻先に翳した。
「よい香りだ」
腕の束縛が緩む。薔太は振り返って柔らかく微笑むと、恋人は薔太の手ごと、薔薇を掴んだ。紫央は途端、声を立てることは忍びつつも眉を顰める。
薔太はすぐに感づいて、慌てて「手を見せてください」と声を張り上げた。
「棘が刺さりましたね」
「大丈夫」
「大丈夫じゃないです。俺がまだ棘を落としてなかったから……」
紫央の人差し指の先には、ぷっくりと血が盛り上がっていた。薔太は間髪入れずにそれを口に含んで舐めとった。口の中に錆臭い味が広がる。しかし紫央の悪戯な指先がくるりと反転し、薔太の上口蓋をなぞりながら喉に向け軽く擦り上げながら犯してきた。
薔太は大切な薔薇を取り落とす。上目遣いで紫央を見つめながら、左手で紫央の手を取って自ら舌で紫央の指に吸い付き舐め上げる愛撫を繰り返す。
そして音を立てて指を引き抜くと、陶酔した顔つきで目を閉じた。
口付けを待つ薔太を紫央がそのままにしておくはずがない。庭とはいえ朝日がゆっくりと昇る清らかな庭に似つかわしくないほどの口付けを交わすと、紫央は両手で薔太の小さな頭を掴んで覗き込んできた。
「どこでこんな事を覚えたんだ?」
薔太は睫毛を伏せて色っぽく微笑むと呟いた。
「昨日、色恋の教科書を読んだから……」
「『甘い束縛』か。おじいさまはとんでもないものを薔太に与えたな」
紫央は薔薇を拾い上げて今一度その香りを嗅ぐと、薔太と手を繋いで歩き出す。
「ところでお前、昨日俺の事を甥っ子といっていたが、あれはどういう話なんだ?」
連れだって歩きながらそう問われて、薔太は目をぱちくりとさせた。
「それは……」
朝食すら食べていないこんな朝早くから、大事話をしてもよいものか。だが今誰の邪魔の入らぬ二人きりのこの場所で、結ばれた後のちに朝に話すのが一番相応しいのではと思えたのだ。
逆に薔太が手を引いて、あの濃紫のクレマチスと深紅の薔薇が共に花咲く場所までやってきた。そこで祖父たちに勇気を貰いたかったのだ。どんどんと朝日が昇り、周囲の風景に色がついていく。今日も蕾だった薔薇が綻び、クレマチスは薔薇を絡めとったまま静かに咲いている。
薔太が昨日の大場たちと交わした会話の一部始終を一生懸命に話した。紫央は一度も話を遮ることなく、頷き、時に思案気に口元に指を這わせた。
薔太は最後まで話しきると、審判を待つもののように青ざめた顔で紫央をじっと見守った。
「それで、薔太は俺が甥っ子だったとしても、俺を愛していると」
「うん」
「そうか」
「しぃちゃんは? しぃちゃんは俺が叔父だとしても……」
「もちろん。お前の事を深く愛している。生涯変わらない自信がある」
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