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第3話 浅井透side蒼井奏
最近親友の奏の様子がおかしい。生徒会執行部に選ばれた時もそこそこ驚いたけれど、奏をよく知る俺たち友達にしてみれば、執行部の目利きに舌を巻いたと言うところだった。
スラリとした平均的な高校三年生と言う見かけの奏は、自己主張の強い生徒の多いこの英明学園の中では、性格も穏やかで、控えめな目立たない生徒だった。それは一方で、返って目立つことになって、癒しの存在である奏の側には俺の様な案外強引な性格の奴が集まっていた。
色の白さでは目立っていたものの、特徴のない優しげな顔は、柔らかなマッシュルームカットの黒髪に目元が隠れて尚更印象が薄かった。けれど笑うと口元に浮かぶエクボが奏の魅力を引き立てて、二度見する様な花開く魅力があった。
執行部に選ばれるだけあって、普通にそつがない奏は学年順位も30位を落としたことがなくて、俺の様に良い時と悪い時の差が激しい人間からすれば、地道に努力している真っ当な人間だと思う。
そんな堅実で落ち着いている奏が、最近落ち着きがなかった。ぼうっとしている事も増えて、それは奏には珍しい事だった。だからあの日朝から色白の顔を更に青褪めさせて、気分悪そうに授業を受けようとしていた奏を保健室に引っ張って行ったのは間違いでは無かったと思う。
昼休みが終わる頃に、副会長の安田が教室に顔を出して奏の事を聞いて来たので、事情を話すと大して興味も無さげに聞いていたのが俺には何だかムカついた。
生徒会執行部の役員に指名されたら絶対に断る事はできないのだから、だったらもう少し大事にしてくれと親友なら感じるのは当たり前だ。
そんな気分のまま奏の荷物を抱えて授業終わりに保健室に迎えに行くと、やっぱりまだぼんやりしながらもだいぶマシになったと俺に笑って見せる奏に、俺はますます心配が尽きない。
部屋に送り届けて自分の寮室へ帰りながら、階段ですれ違ったのは生徒会長のタカだった。奏の調子の悪さを知ってるのか問い詰めようと顔を見ると、話しかけるのが憚られる様な怖い表情で、流石に話し掛けることは出来なかった。
あんな生徒会長と一緒に執行部の仕事をしていたら、穏やかな奏はきっとストレスも溜まる事だろうと同情しながら、夕食には誘いに行こうと俺は部屋に戻った。
それからしばらく奏は体調を崩す事もなく、変わりなく柔らかく笑う奏に俺はホッとしていた。相変わらず毎日の様に昼休みに執行部へ詰める奏に、俺は思わず尋ねた。
「お前さ、ちゃんと執行部で大事にされてんの?どう考えても会長も副会長も一癖も二癖もあるだろ?会計だってうるさ方だし。広報なんてとんでもない奴じゃん。居心地悪いんじゃね?」
そう尋ねると、少し困った様に奏は微笑んで言った。
「確かにみんなちょっと癖があるけど、根本的にしっかりしてるって言うか、僕より全然出来る人達だから。僕が足手纏いにならない様に頑張ってるんだよ。でも、本当何で僕なんだろうね?」
俺は慌てて言った。
「いや、奏が力不足だって言ってんじゃないんだよ。皆キャラが濃いから、奏が辛いんじゃないかなって思っただけだ。」
すると嬉しそうにクスクス笑って、奏は俺に言った。
「透って、なんか僕のお父さんみたいだね。大丈夫だよ、お父さん。」
それから周囲の連中が俺の事をお父さんだ何だって囃し立てるから、奏はますます楽しそうに笑っていた。俺はそんな楽しそうな奏を見て何処かホッとしたのは間違いない。
丁度その時、教室の外に生徒会長が来て奏を呼び出した。その時の、少しの緊張と興奮の混ざった奏の表情が俺にはなぜか引っ掛かって、思わず廊下に向かう奏をじっと見送った。
その時、生徒会長のタカが俺の事をじっと見つめて来た。その生徒会長の眼差しの強さに俺は戸惑ったけれど、なぜそんな目で俺を見たのかは皆目見当がつかなかった。
ニコリともせずに奏を連れて廊下に消えた生徒会長を俺たちは皆でぼんやり見ていた様で、誰かがポツリと言った。
「…なんか生徒会長、俺たちの事めちゃくちゃ睨んでなかった?」
そう思ったのが俺だけじゃなかったと知ったけれど、だからどうって事もなく俺たちは直ぐに違う話題になった。でも俺は、しばらくこの違和感を忘れることが出来なかったんだ。
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