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第4話 貴正side気になる奴※

 俺が蒼井奏を初めて認識したのは中学三年生で同じクラスになってからだった。その頃から目立っていた俺はひどく調子に乗っていた。俺は皆より一回りも二回りも体格が良くて、上級生とつるむ事が多かったせいで、親友の安田晴美を除けば、同級生というのはどうしたって幼く感じた。  そんな俺の目に留まったの奏だった。人より目立つわけでもない奏になぜかクラスメイトが近寄って行く。クラスメイトの話を微笑みながら熱心に聞くその口元のエクボが、なぜか俺の視線を捉えた。 「なぁ、蒼井ってどんな奴?」  普段奏と交流のない俺は、晴美に尋ねた。晴美はぶっきらぼうだけど他人をよく見ている。そんな晴美がニタリと笑って言った。 「そろそろ聞いてくると思った。あいつはちょっとこの学園には珍しいタイプだ。名門だけあって、皆自分に自信がある奴らばかりで、ともすればぶつかってばかりだろう?お前みたいにな。まぁ聞けよ。  だけど蒼井は空気が違うんだ。あいつだけ住んでる空間が違うって言うかな。大人っぽいとも違う。そう言うスカした態度ではないんだ。そうだな、陽だまり。あいつは冬の日の陽だまりみたいな男だよ。」  晴美の言うことは要領を得なくてぼんやりと抽象的だった。だけど俺の目を惹きつける何かが奏にはあった。それから俺は奏と時々話をする様になった。とは言えそれは単なるクラスメイトとしての枠を出なかった。  押しの弱い奏と、俺の様な男が仲良くなるのは時間を掛けても無理な気がした。奏は俺には余計な事を言ってこないし、黙って見つめてくるだけだからだ。  でもそのうち、俺はその奏の目の中に何かを感じる様になった。多くの生徒から向けられる羨望とは違う何か。俺が目を合わせた瞬間に消えてしまうその光は一体何なのか。  そうして俺は蒼井奏を気にしながら、高校三年になった。当然の如く俺は生徒会長に抜擢された。会長権限で執行部は選べるので、諦め顔をした親友の安田晴美を筆頭に、役員に向いている気の合う奴をチョイスして行った。  だが書記が決まらない。向いていそうな奴は数人候補に上がっても、誰も良いとは思えなかった。すると候補を眺めていた晴美が顔を上げて言った。 「なぁ、蒼井奏はどうだ?お前結構気に入ってたろ?あいつ成績も悪くないし、今の執行メンバーじゃぶつかり合って弾け飛ぶぞ。そうだ、蒼井が良い。」  そう言って、満面の笑みを浮かべる晴美がなぜか気に入らなかった。蒼井奏は俺の側に置きたく無かった。置いたら、色々不味い気がした。顰めた顔の俺に、晴美は首を傾げて尋ねた。 「なんかダメだった?」  俺はため息をついて言った。 「いや、良いけど。…それ以上の案がないしな。」  そう言いながら、なぜか気分が上がって行く気がした。  結局執行部に選ばれてびっくりしている奏を、俺は毎日昼に眺めることになった。最初は気分の良いその事実が、段々イライラに変わるのは早かった。奏を買っている晴美と奏が楽しげに話すのが気に入らなかった。奏に甘える押しの強い他の執行役も気に食わなかった。  俺は自分のこの感情に気づいてしまった。俺は蒼井奏を独占したがっている。子供じゃあるまいし…。俺はそう、子供じゃないから、大人のやり方で蒼井奏を独占しようと思った。  だからあの日衝動的にメッセージを送って、部屋を訪ねた。狭い密室に入って仕舞えば、俺のこの独占欲は欲望と焦燥感だと言うのが自分でも自覚出来た。考えるより先に動いた身体は、奏を捕まえて強引に口づけていた。  そして奏の驚きの眼差しの中に滲む、俺への焦がれる感情が読み取れて舞い上がった俺は、すっかり間違ってしまった。俺は傲慢にも自分の柔らかな気持ちを差し出さずに、あろう事か俺にとって都合の良い相手として奏に認識させてしまった。  俺とはまるで違う白い肌と柔らかな感触に、俺は夢中になった。おずおずと舌をなぞり返す奏の口の中は甘かった。淡い色の、女とはまるで違う胸のてっぺんを執拗に吸い上げて、硬くなった小さな尖りを喜んだ。  男を相手にしたことなんて無かったのに、俺は奏の全てを撫で回してキスしたかった。服を乱暴に脱がせると、柑橘のボディソープに混じるいやらしい匂いが、染みになって張り詰めた下着から感じられた。俺もズキズキする自分の股間を服から自由にさせるしかなかった。  目を見開く奏に見せつける様に、俺は奏自身を撫でて、そのかわいらしい昂りを舌で可愛がった。女と違って自分にも覚えがある良い場所を刺激すれば、奏を呻かせてあっという間に逝かせてしまった。  自分のビンビンの昂りを奏にも触れさせてキスさせる頃には、興奮が止まらなくなった俺は、柔らかな唇に昂りを押し付けると、ビクビクと奏の口と顎に白濁を飛び散らせた。  慌ててティッシュで拭うのを手伝ってやると、奏は赤らんだ顔で俺を困惑した表情で見上げた。俺はその奏の顔を見て一気に混乱して、心臓がおかしくなるほど拍動した。  そのせいで俺は、自分がこの目の前の弱々しい男に支配されるのが怖くて、馬鹿みたいなことを言い放って俺と奏の関係を複雑にした。その結果、俺はまた次々に間違いを犯す羽目になったのだけれど、それは振り返れば、苦しさと喜びの二重螺旋の様な日々の始まりだった。

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