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第8話 だったら僕もタカをセフレにするよ

 「…急に何。」  少し驚いた表情で突っ立っているタカの脇をすり抜けて、僕はタカの部屋に入った。想像通りに少し散らかった部屋は、それでも案外無駄なものなどなくて小ざっぱりしていた。  僕は本棚に並ぶ難しい本を指でなぞって、部屋の入り口からぼんやり僕を見つめるタカを見返して言った。 「僕、ムラムラするからタカに慰めて貰おうと思って来たんだ。時間ある?」  今はまだ10時前だ。ここで時間が無いなんて言われたら、僕は赤面ものだ。今でさえ、足元は揺れてるってのに。  眉を顰めたまま、タカは肉食動物の様にゆっくり僕に近寄って来て言った。 「…どうかしたのか?何か変だぞ?…奏?」  僕はクスクス笑っていた。なぜか可笑しくて笑っていた。本当茶番だ。僕がヤリたいって言ったらどうかしてるってさ。自分がやりたい時はお構いなしなのに?  あんなに勇気を出して来たのに、僕は自分のセフレと#する__・__#事も出来ないなんて。僕はタカを見てもう一度言った。 「だから、しようって言ってるんだけど。僕がしたい時はしないの?自分はいつだって勝手に僕に触れるくせに…。」  途端にタカは僕に近づいて、あの時のように顎を掴んで僕の顔と目を合わせると苦しげに言った。 「俺をどうしたい?謝って欲しいのか?お前を…セフレにした事を?」  僕は首を振りたかったけれど、顎を掴まれて出来なかった。本当、馬鹿力。僕はタカの何を考えているのかわからない暗い眼差しを見つめて言った。 「アザになるから、顎を掴むのをやめてよ。僕、そんな難しい事言ってない。僕のセフレなら抱いてくれって言ってるだけだよ。」  すると、タカは項垂れて僕の顎から指を離して部屋の扉を指差した。 「…帰った方が良い。もう、奏のところにも約束もなしに行くのは止める。俺は…、言い訳になるかもしれないけど、奏をセフレにするつもりは無かった。奏が他の奴らと仲良くしてるのを見るのが何か嫌だっただけだ。  でも俺が全部悪い。いきなりキスして、乱暴な事言った。どうして良いか分からなくて焦ったんだ。俺が本当に悪い。だけど、奏をそんな風にしたかった訳じゃない。奏はそんな事言う様な人間じゃ無いだろう?済まない。本当に。」  タカは僕に謝りながら、僕の顔なんて一度も見なかった。僕をセフレ扱いしておいて、そんなつもりなかった?それでいきなり僕を知ったかぶりして捨てようとしてる。僕はそんな清廉な人間じゃないよ。タカを手にれる為なら身体を投げ出す男なんだ。  僕はムカムカしてタカの側に近寄ると、首元のTシャツを両手で掴んだ。  僕がそうしたらところで、タカなんてびくともしないのが悔しくて堪らなかった。僕はタカの動揺して見える眼差しと目を合わせて言った。 「僕は!…自分がこんな事出来る人間だなんて思いもしなかった。でもしょうがなかったんだ。タカが望むから応えたいと思ったから!でももうオナホの代わりはしない。…今度は僕がタカを利用してやろうって思ったのに!」  僕はダラリとタカから手を離すと、扉に向かいながら震える声で呟いた。 「…僕はタカが好きだった。だから特別な相手になれるチャンスを逃したくなかった。でもダメだね。タカの言う通り、僕はセフレになんかなれないみたい。…執行部辞退しても良い?流石にタカの顔を見て続けるのは無理だから。」  僕が扉のノブを引いた時、バタンとタカの手が扉を押さえつけた。僕がその手をじっと見つめていると、僕の背中越しにタカが息を殺しているのが分かった。  今更何なんだろう。僕は自分の頬に涙がこぼれているのを感じて、振り向く事も出来なかった。その時耳の側で、タカが聞いたことのない優しい声で囁いた。 「かなで。…言い逃げするつもりなのか?俺は逃すつもりないよ。」

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