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橋名くんになら 6
橋名に朝食を無理矢理摂らされたお陰か、実に仕事が捗り
なんだかやる気があるみたいだな!と上司に目をつけられ
実に多くの案件を横流しされてしまった。
沙凪は疲れ果てた身体で自宅に戻ってくると、
朝の満たされた心地が嘘のように、そのほとんど何もない部屋が虚しく思えて
フラフラとベッドに直行しては倒れ込んだ。
「……疲れたぁ…」
布団の上で声を溢す。
どこか、彼の香りが残っているような気がしないでもないその寝床の上で思い切り深呼吸して
息を吐き出すと同時に、じわじわと涙が溢れてくる感覚に襲われた。
すき。
すき。
すき。
橋名が何度も言ってくれた言葉が再生されて、
胸の中が暖かくなると同時に、冷たい闇が背中に纏わり付いてくる。
沙凪は寝返りを打つようにベッドの上を転がって天井を見上げた。
ねえ、なんで
なんで分かってくれないの。
脳内で反芻が始まって、まるで今浴びせられているように言葉が再生されていく。
私を見て、
どこにも行かないで
私を追いかけて
私を閉じ込めて。
ねえ、分かって。
分かって。
急に息苦しくなって、沙凪は自分の首に触れ
昨日橋名が噛み付いてきた場所を指でなぞると、ちょっとだけ痛いような感じがして苦笑した。
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