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個人的な話 8

「ごめんなさい……」 謝っていると、沙凪の手が優しく頭に触れてくる。 「…っ、もう…!」 どこか苛立ったような声が聞こえて、びく、と身体が震えてしまう。 怖々と顔を上げると、沙凪の瞳がこちらを見下ろしていた。 「橋名くん…立って…」 眼鏡の向こうから、その鋭い視線で睨まれる。 力が入らなかったはずなのに、橋名はどうにかふらふらと立ち上がった。 「ゆきくん…俺のこと心配してくれるのはありがたいけどね 橋名くんを巻き込むのは許せないよ」 沙凪は橋名の腕を引っ張ってくる。 「次…橋名くんにちょっかい掛けたら許さないから」 彼の怒っているような低い声には、身体が勝手に震えてしまう。 沙凪は橋名を引きずるようにして喫煙スペースから脱し、そのまま会社からも飛び出した。 「…さな、ぎさん…」 彼に腕を引っ張られるまま歩いて、怒らせてしまっているとかまた迷惑を掛けているとか、様々な罪悪感で壊れそうになっていた。 「橋名くんごめん」 「ちが…俺が……」 「俺は最低だよ。だからやめとけって言ったのに」 否定したかったけど、そうしていいのか分からなくて橋名は覚束ない足取りで彼に引っ張られている事しか出来なかった。 今彼が傷付いていないといいのにと、無謀な事を考えてしまう。

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