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第7話七夕の願い事

七夕・イルミネーションの会場までは駅から数分とかからない場所のようで2人は歩いていた。歩く道中、ほとんど周りはカップルや若い男女のグループなどが多くいたが、卓と遼のような20代後半の男子2人組はほぼいなかった。 「俺ら、浮いてる?」 卓は、遼が嫌ではないかと思って聞いた。 「ほんとっ!リア充や陽キャばっかだなぁ。爆発しねぇかな」 笑いながらそういう遼。 そうか。俺みたいな普通じゃない変わり者でも受け入れてくれる奴だ。そんなこと気にも留めていなんだ。 卓は、少し安心して遼にいつものようにギャグを入れながら話しかけた。 「まぁこの企画自体、リア充ホイホイみたいな所あるもんな。『ねぇ?願い事なんて書いたの?』みたいな感じでイチャつくんだろ?」 「ははっ!そうやってみんなイチャイチャしてそう。見せ合ってキャッキャするんだろ?」 2人は、他の恋人同士の会話を想像して楽しみながら会場までの道のりを過ごした。 会場に着く頃には辺りは徐々に暗くなり始めてきていた。イルミネーションが点灯する夜7時もうそろそろだった。 「短冊俺たちも書こうよ」 卓は、そう言いながら、短冊を書くスペースへと遼を誘導しようとしたが 「良いけど、少し混んでるからちょっと待ってからいこうぜ」 遼は、そう言いながら、スマホを取り出して七夕の笹を写真に収めていく。 「良い写真撮れた?」 卓は、遼に聞いてみた。 「良い感じに撮れたよ」 遼はそう言いながら、スマホをポケットにしまった。 卓は本当は撮った写真を見せてほしいと思ったけれど、やっぱり遼は見せてくれなかったかぁ。と考えていた。 そういえば遼は前々から少し神経質なところがあったなぁ。食べ物も飲み物もきっちり自分と他人で分けるし、遼が1人暮らしを始めてから1度も部屋に招待されたことがない。いっつも俺の部屋ばっかしだし。プライベートの部分を人には見せたくないようだけど、俺には見せて欲しいなぁ。 そう思いながら、卓はスマホを取り出して、遼がギリギリ映る範囲で、あたかも景色を撮ったら写しちゃいましたよ位の位置で“遼が映る景色の写真”を撮った。 「少し、空いてきたな。今のうちに書いちゃうべ」 遼の言葉に、卓も後をついていく。 少し待った後、短冊を書くブースで2人並んで願い事を書いていく。 遼は、一体どんな願い事を書くのだろう・・・ 彼女が欲しい?仕事の出世?健康のこと? 遼の事が知りたくてたまらない・・・ そんで、俺の願い事はなんだろう? 俺は、遼と・・・ 卓は、悩みながら短冊に1文字1文字丁寧に書いていった。 俺の思いは・・・ 夜7時になり、辺りは薄暗くなった。太陽が刻々(こくこく)と沈み、暗闇が訪れ始めた頃、七夕の笹に光が灯った。いろいろな場所に設置された笹がそれぞれ異なる色を放ち、地面に7色の虹が出来ているかのようだ。 幻想的な七夕のBGMが流れ始め、美しい女性の声が語り始める。 『昔々、神様の娘である機織(はたお)りの仕事をしていた織姫と働き者であった彦星は同じ世界で暮らしておりました。やがて2人は結婚しあまりにも仲睦まじくなってしまった為、次第に仕事も手がつかなくなり疎(おろそか)になってしまいました。それを知った神様は激怒してしまい、天の川を境にして2人を引き離してしまいました。悲しんでいた2人に神様は、しっかりと仕事をしていれば1年に1度だけ7月7日に天の川を渡ることを許してあげると伝え、会えなくなった織姫と彦星は心を入れ替え真面目に働くようになりました。その特別な日を七夕とされるようになりました。 それからというもの七夕の日になると人々は、2人のように願いも叶えられますように、とお願いを短冊に託しお祈りをするようになりました。 今年もこの季節がやってきました。 貴方の願いは何ですか? さぁ、貴方の中にある強い願いを織姫と彦星に届けましょう。 』 ナレーションと共にライトが色鮮やかに点滅して幻想的な七夕の音楽からダイナミックな七夕の音楽へと変わり、地面についたLEDライトが天の川運河を作り出していく。 光と音の幻想的な世界に包まれながら音楽が静かに止まり、七夕の笹から放たれた光は元の明るさに戻った。 「すごかったね!」 「うん。めっちゃ感動した」 卓は、強い願いという言葉に心が飲み込まれていった。 俺の…本当の願いってなんなんだ… 「おい!短冊かけに行こうよ」 遼の言葉に卓は遼の元へと駆け寄った。 「どの笹にかけようか」 各場所の笹ごとにライトアップの色が違うので2人は迷っていた。 そして2人は青く光る笹の元へと歩いて行った。 「やっぱりこの色が1番きれいだな」 卓は、そう言うと 「じゃあここにしようぜ」 と遼は、短冊を笹に吊るし始めた。 「隣でも良い?」 「いっぱい場所あるんだからもっと広く使えばいいのに」 「隣が良いの!」 卓はそう言いながら、遼のすぐ隣の笹の葉にくっつけた。 2つ並んだ短冊。まるで織姫と彦星が2人が天の川を超えて出会っているかのように見えた。

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