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第4話
――翌日、ルイスは王弟殿下に呼び出された。執務室に入ると、ワルツの姿もあった。
「やぁ、ルイスくん。君の生家の伯爵家の爵位を戻しておいたから、今日から君は貴族籍に戻るように。もう、後ろめたいことはやめるんでしょう? 過去は忘れて、堂々と生きればいいよ。たまぁに、私が暗い仕事をお願いする場合は在るかも知れないけれど、その指揮は大体はワルツがするから、安心だ。いやぁ、頼りになる凄腕だと聞いているけど――やっぱり恋は人を惑わせるね」
つらつらと笑顔で王弟殿下が語った。
最初、ルイスは何を言われているのか分からなかった。てっきり、処罰が下るのだろうと考えて入室したため、肩から力が抜ける。代わりに、冷や汗が出てきた。
「ワルツの実家は侯爵家だし、やっぱり挙式は貴族同士の方が釣り合いがとれるとされるからね、一般的に」
「――へ?」
今、挙式と言わなかっただろうかと、ルイスはパチパチと瞬きをしながら首を激しく捻る。
「うん? ワルツに頼まれて、既に王都大聖堂での式の予約は終わってるよ?」
「――はい?」
「結婚するんだよね? おめでとう」
「え、えっ」
驚愕してルイスはワルツを見る。ワルツは仕事中だからなのか、無表情に近い。
「はい、これ。婚姻届。それと、伴侶がいる騎士団員には寮じゃなく一軒家を貸しているから、そこの鍵。もうワルツには渡してあるし、婚姻届もワルツのサインは終わってる」
「……、……」
「あと、指輪はワルツが特注すると言うから、なんとか式に間に合うように王宮からもお願いしたから安心してね」
「は?」
「それと肖像画も欲しいらしくて、宮廷画家を手配したから、そちらの対応もお願いね」
「え、ええと……」
「既に全騎士に君達が無事に結婚することになったと通達してあるよ。きっとお祝いされるだろうから、素直に喜びなさい。もっとも君達が相思相愛だというのは、特にワルツが溺愛しているというのは、最初から周知の事実だったから驚いた人は少なかったけどね」
何が起きているのか、ルイスには理解が追いつかない。完全に外堀が埋まっている。
その時、書類仕事を終えた様子で、羽根ペンを置いたワルツが立ち上がり、ルイスの隣に立った。そして不意にルイスをギュッと抱きすくめる。そうして耳元で囁いた。
「いやか?」
この声に、ルイスは弱い。
「いやだと言っても、もう離さない。愛している」
ワルツの声音に、ルイスは頬を染めて額をワルツの胸板に押しつける。それから――少しして勢いよく顔を上げた。
「式はいつなんですか?」
「半年後だ」
「それ、準備間に合うのか……?」
「これから忙しくなるな」
「なにを他人事みたいに……っ、人生の一大事だ! はぁ。肖像画なんて後回し!」
「そうだな、招待客のリストはここに用意してあるが」
どうやら仕事ではなく、リスト作りをしていた様子のワルツを見て、ルイスは脱力しそうになる。そんなルイスをぎゅーっとワルツが抱きしめる。
「絶対に逃がさない」
「……逃げないから」
二人がそんなやりとりをしていると、王弟殿下が「痴話喧嘩は、羨ましいね」などと感想を述べた。
このようにして、一つの恋が成就し、暗い道から、闇堕ちしていた一人――ルイスが日の下へと舞い戻り、そのルイスの存在に光堕ちしていたワルツと結ばれることになった。その後生涯、ワルツは愛妻家として名を馳せ、冷徹という噂が次第に払拭されるのだが、それはまた別のお話である。
―― 終 ――
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