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第1話
世の魔術師には、いくつかの種類がある。
たとえば俺のように、魔術を用いて討伐するしか能が無い魔術師もいれば、トールのように武力もさることながら、魔術の研究に秀でいている者もいる。
「ラピス。まだ一昨日の報告書が出ていない」
俺が病室で手に貼った湿布をはがそうとしていると、トールがやってきた。
一昨日は、まさにここに入院するきっかけになった魔獣討伐があった。
「あ、悪い」
俺はへらりと笑う。ここ、魔術師が集う魔術師の塔においては、この程度の怪我で入院治療になる方が、劣っているといえる。
「すぐに書くよ」
「……怪我はもういいのか?」
「全然平気だよ。いやぁ悪いな、報告書遅れて」
俺とトールは同じ班なので、俺の報告書が遅れれば、トールだって連帯責任だ。
俺はトールが好きなので、そんな目には遭わせたくない。
「……」
トールは翡翠色の瞳で俺を見ている。無表情でなにを考えているかよくわからないが、仕事に真面目なのはわかる。今は、時空操作魔術の論文を書いているところだったはずだ。それを報告書を取りに来るなんて言う雑用をさせられて、きっと内心では嫌だろう。
――俺とトールは、付き合っている。俺は、トールの恋人だ。
ただ、ちょっとした条件付きである。
『俺には好きな人がいる。その人は死んだ。お前は正直よく似てる。俺はその人を忘れることはないだろう。それでもいいか? 俺はお前にその人を重ねるぞ』
俺が告白した時に言われたセリフだ。正直胸が痛くなったけれど、俺はいつか忘れさせられるんじゃないかと期待したし、それでも構わないくらいトールのことが好きだった。
「な、なぁ? それよりさ」
「――大丈夫なら、あとでまた取りに来るから書いておけ」
俺が話しかけようとしたら、トールは出て行ってしまった。俺はしょんぼりして布団を見る。実は一昨日、ちょっと焦って早めに倒してしまったのもそうだが、来週の水曜日に、トールの誕生日がある。その日に、一緒に遊園地に行こうと、半年前に俺達は約束した。
魔術師の塔の仕事は激務であるから、俺は必死に、苦手な書類仕事もかろうじて得意な討伐の仕事も片付けている。たった一日のお休みを作り出すために、もう半年の間、入院以外では、一度も休んでいない。でもそれも、来週のためだ。
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