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第6話

 それから俺は、何度も検査をされ、やっと本日解放された。 「はぁ、なんだか自分の部屋が懐かしいよ、俺」 「そうか。俺もお前がお前の部屋にいる光景を見られて幸せすぎる」  ついてきてくれたトールの言葉に、俺は苦笑した。最近のトールは、完全に過保護としかいいようがない。 「トール? 俺はもう大丈夫だよ?」 「俺が大丈夫じゃないんだ。俺は二度も喪うところだった」 「喪いそうになったのは俺なんですけど……」  俺がそう言うと、トールが正面から俺を抱きしめた。ぎゅっと力がこもった腕の感触に、俺は思わず赤面する。おずおずと俺は腕を回し返した。 「キスしてもいいか?」 「うん……」  俺が目を伏せると、柔らかな唇の感触が降ってきた。トールの舌が俺の口腔へと忍び込んでくる。ねっとりと舌を絡め取られる内、俺の息はすぐに上がった。  トールがそのまま俺をゆっくりと押し倒した。  俺が見上げていると、今までとは違い、トールが俺の服を脱がせ始めた。いつも自分で脱いでいたから、逆に緊張してしまう。  一糸まとわぬ姿になった俺の、左の乳頭に吸い付くと、トールが甘く噛んだ。 「んっ」  今まで胸へと愛撫された記憶がないため、俺はさらに緊張してしまう。  もう一方の手では俺の右胸の突起を弾きつつ、何度もじっくりとトールが俺の体を開いていく。その内、体がじっとりと汗ばんだ頃、俺の陰茎は反応を見せた。 「ぁ、ぁっ……ね、ねぇ、トール? な、なぁ? もう……」  焦れったい。早く欲しい。 「優しく丁寧に甘く抱いていいんだろう? お前が言ったんだ」 「もうそれを繰り返すのやめてよ、恥ずかしいだろ!」 「何度でも繰り返してやる」 「トールの意地悪!」  思わず叫んだ直後、トールが香油を手に取り、指に絡めた。そして俺の窄まりから指を一本挿入する。くちゅりと音がしたと思ったら、それが少しして二本に増える。浅い箇所を抜き差しされ、軽く指を折り曲げられた時、俺の体がピクンと跳ねた。 「あっ、そ、そこ嫌だ……」 「お前は前から快楽をこわがるよな」 「だって、自分じゃなくなるみたいで……」 「だから俺も手加減していたんだ」 「ひゃっ、ぁ……あア! ああっ、待って、トール、そ、そこ嫌だ、いや、あっ」 「聞かない。許さない」 「あっ、ああっ、ダメ、出ちゃう、まって、出そ……ンん――っ」  俺が手でトールの体を押し返そうとしても、研究職のくせにびくともしない。俺の方が筋肉があるように思えるのに、現実は残酷で、昔からトールの方が体力はあった。俺なんて筋トレをしてやっと体を維持しているのに、それでも腰回りは全然細くて、食べないとすぐ痩せてしまうと言うのに、トールは違う。胸板がまずもう厚い。 「っは」  結局放ってしまって、俺が肩で息をしていると、トールが指を引き抜いた。  そして俺の息が落ち着くのを待ってから、陰茎を挿入してきた。 「んぅ……あぁ……あッ、熱い……んン」  体がどろどろに蕩けてしまいそうな感覚がする。じっくりと慣らされていたからなのか、痛みがないという部分以上に、交わっている箇所が気持ちよすぎて、頭が馬鹿になりそうだ。 「あ、あ、あ」  ぐっと雁首まで進められ、少しだけ動かれる。その内に抽送が始まり、浅く引き抜いてはより奥深くまで暴かれ始める。 「あっ、ン――っ、ぁ……あ、あ、ひゃっ、う、うあ……待っ、体変になる」  根元まで挿入された状態で動きを止められた時、俺は思わず髪を振り乱して泣いた。気持ちよすぎてそれが辛い。こんなのは知らない。 「だめ、だめ、イく、やぁああっ、イってる、イっ、待って、イっちゃった、あ、あ……」 「待つとするか」 「ひゃぁっ……やぁ、ずっとイってる、ン――っ、ダメこれぇっ」  ドライの波に飲み込まれてしまい、俺は咽び泣く。そもそもドライ自体、人生で数えるほどしか経験がないのだけれど、今回は初めて経験するほどに絶頂感が長く、ずっと快楽が全身に響いてくる。足の指先を丸めて、その漣に耐えようとするのに、それが上手くいかない。 「ひゃっ、うあああ――!!」  そこへ追い打ちをかけるように、強くトールが突き上げた。中に射精されたとわかった直後、あんまりにも強い快楽に、俺の意識はブツンと途切れた。  ――事後。  起きると俺は、トールに腕枕をされていた。 「大丈夫か?」 「う、うん……っ、喉渇いてて……」 「ほら」  するとそばにあったグラスを、トールが取ってくれた。なんとか体を起こして、俺は水を飲む。そしてグラスを置いた時、トールに引っ張り込まれて、また寝台に入った。ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめているトールは、それから苦笑した。 「優しく丁寧に甘く、か」 「だからそれ言うのやめてくれよ!」 「いや、俺には無理だったと思ってな。ラピスを見ていたら、余裕が途中から消えていた」 「俺にはいつも余裕なんてないんですけど!?」  思わずそう告げると、トールが喉で笑う。 「なぁ、ラピス」 「なに?」 「俺は……お前に酷い態度を取っていたという自覚がある。ごめんな」 「トール……えっ、ぜ、全然! 全然!! 俺がトールを好きだっただけだし」 「俺だってお前が好きだ。だから、これから、それを帳消しにするくらい、お前に優しくするのを許してくれ。罪滅ぼしになるかはわからないが、少なくとも俺の自己満足にはなる」 「そんなの俺にとっては嬉しいだけじゃん!」  俺が思わずそう言うと、トールが俺を抱きしめたままで囁いた。 「一つだけ分かって欲しいことは、最初こそ俺は、まぁお前本人だったわけだが、ルイとラピスを重ねていた。でもな? 本当にとっくにラピスのことのほうが大切になっていたんだよ。俺が好きなのは、ルイじゃなく、ラピスだ」 「トール……」 「ただ、勉強以外なにも無かった俺に、ルイだけが子供らしいことを、様々な感情を教えてくれたのも事実だ。あの当時の俺は、ルイに救われたんだ。つまり、お前に」  トールはそう言って顔を離すと、俺の額に口づけた。 「俺はもう、お前を絶対に手放さない。だから、俺のそばにいてくれ」  俺は少し考えてから、笑顔で頷いた。 「勿論! こちらこそ宜しくお願いします!」  ――世の魔術師には、いくつかの種類がある。そしてそのいずれにも、恋をする権利というものはある。俺は今、こうしてトールのそばにいられて幸せだ。  (終)

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