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 世の中には雌雄の他にα(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)と呼ばれる第二性が存在する。この3つの中で割合的に一番多いのはベータ。それからアルファとオメガはほんの少し。つまりは基本的にベータが世間の大多数を占めて普通に生きていて、アルファは人から憧れられる存在で、オメガは蔑まれる存在……そんな風に言われていたのはもう歴史の教科書で聞くほど前のことだ。今でこそ共生社会と言われているけれどもまだ数の少ない性に対しての偏見が全くないわけではない。それにどうしても割合の少ないタイプには厳しい目が向けられて、世の中には『どうしようもない奴』というレッテルを貼られるアルファやオメガが一定数いる。どうしようもないアルファやオメガを集め、寮と言いつつほぼ自由のない環境に押し込めて番でも作らせれば、体良く人口増加への協力という社会貢献が出来る。そんな思惑の上で成り立っているのが社会から切り離された田舎にひっそりと建っているのがこの学園だ。ここには家族から見放されたり更生目的に送られた生徒が大半を占めている。時折オメガとアルファをランダムに同室にするとかいう学園の方針に共感して自らの意思で入学する奴もいるらしい。  全く目の輝いていない新入生が入った今年の春。俺は全く番を作ることなく3年を迎えた。寮で同室だったアルファは、先日どうやら同じ学年のオメガと番って部屋を変わったらしい。ろくに言葉を交わさなかった間柄なので、部屋を出る直前に久しぶりに顔を合わせた彼から簡単に話を聞いただけだった。1人になった寮の部屋の中、今年は誰が部屋に来るのか、とため息をついた。  数時間後、部屋のインターホンが鳴った。無言でドアを開ければ、いくつかの段ボールを抱えた男が立っていた。黒髪で一見すると爽やかそうで、あぁいるよなこういうアルファ、っていう感じ。 「初めまして、今日から同室の三角(みすみ)です。よろしくお願いします」 当たり障りのない簡単な挨拶。柔和に笑顔を作っていて、いわゆる世渡り上手みたいな顔をしている。 「3年の丸山。部屋は左側が空いてるからそっち行って」 「あ……はいっ!まさか3年の先輩と同室だったなんて……俺、2年から転校してきたので先輩に色々と教われたら心強いです」 2年から、しかも転校してくるところを見ると真面目にこっちに来た奴なのかもしれない。はたまた、こんな顔しておいて外でとんでもないことをやらかして追い出されてきたのか……どちらにしろこいつに頼りにされるほど関わりを持つつもりはない。毎年のように同室のやつに言っている言葉を、こいつにも言わなくてはいけない。 「……悪いけどオレ、関わるつもりも番作るつもりもないから。いろいろ教わりたいならさっさと友達作れば?」 目の前の男を一瞥して自分の部屋に戻る。最後に少しだけ見えた、驚いた顔。目は見開かれていたのに、一瞬だけ口角が上がっていた。あんな表情は初めてだから、妙に頭に残ってしまっている。 「……うぜぇ……」 早く頭から消えろ、と願いながら頭から布団を被る。隣の部屋のドアが開く音がしたから、これからあいつは部屋の整理でもするのだろう。明日から学校が始まるまでの数日は少しだけ憂鬱だ。おまけに、そろそろヒートが来る。春休みの間も来ていいと南雲先生には言われたけれど、わざわざ保健室や先生の部屋を開けてもらうもの忍びない。抑制剤がパンパンに入ったポーチを枕元に置いて、布団の中で身体を丸めた。

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