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こんな時期にこの学園に転校してきて、周りにはどんな顔をされるのだろう。案外みんな『はぐれもの』だから、全く気にされないなんてこともあるかもしれない。この前まで過ごしていた外では役立たずだとか恥晒しとか言われていたような気がするけれども、ここでは俺みたいな人間がたくさんいるのではないだろうか。
「……丸山……なんだこの字」
部屋の前に貼られるネームプレートには、自分の名前の隣に『丸山徠』と書かれていた。転校生はどうやら俺だけのようだから、もし同室として割り当てられるのなら新入生だろうか。まぁ誰でもいいか、と考えるのをやめてインターホンを鳴らす。ゆっくりと足音が近づいてきて、ドアを開けられる。焦茶色の瞳がじっと俺を見つめて、無言のまま一歩下がった。
「初めまして、今日から同室の三角です。よろしくお願いします」
俺がそう挨拶をすると、目の前の丸山さんは怪訝そうに眉毛を顰めた。初対面から良くない印象をあらわにされたのは初めて。内心仲良くなれなそうだな、と印象づけていると、丸山さんは無愛想な顔のまま口を開いた。
「3年の丸山。部屋は左側が空いてるからそっち行って」
「あ……はいっ!まさか3年の先輩と同室だったなんて……俺、2年から転校してきたので先輩に色々と教われたら心強いです」
残念ながら下の名前は聞けなかったが、収穫はあった。どうやら丸山先輩は3年だったらしい。とりあえず当たり障りなくしておけば問題ないだろうと思って言葉を続けたけれども、丸山先輩の反応があまりにも悪い。俺に背を向けて部屋に入ろうとして、思い出したように振り返った。
「……悪いけどオレ、関わるつもりも番作るつもりもないから。いろいろ教わりたいならさっさと友達作れば?」
嫌悪感を露わにした顔でそう言い放たれて、驚いたとともに『良かった』という感情が生まれた。こんな閉鎖された学園生活で、この人には気を使う必要がない。ありきたりな言葉や気に入られるための行動は何もいらない。だって、向こうが俺に関心がないのだから。
先輩が部屋に入った後、清々しい気持ちで部屋に荷物を運び込む。本当にわずかな部屋着と制服。教科書と配布されたノート。あとは趣味なんてものはないから、数年前にたまたま気に入った本が数冊あるだけ。本当に俺には何もないんだな……なんて感情に浸る必要はない。ここではもう、俺は1人の人間。『はぐれもの』の中に属する、ただの人間になれる。
「……よかった、あの人が同じ部屋で」
俺の中に興味のない部分があるのではなくて、俺の存在そのものに興味がなさそうな丸山先輩。そんな風に面と向かって言ってくれる人がいなかったから新鮮だ。仲良くはなれなそうだけれど、気を使わなくても良い空間があるだけ嬉しい。アルファの顔をしなくて良いのならなおのこと。ひとまず安泰そうな寮生活に心が躍っている自分に気がついて、苦笑いがこぼれた。
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