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逃げるように実家から出て、僕よりも先に送られてきた荷物は寮の下まで運び込まれていたようだった。これを往復して部屋に運ぶのは僕の体力的に無理だ。とりあえず部屋までまとめて持っていけるように何か方法はないか、寮に住んでいる先生に聞いてみることにした。
「南雲先生……あ、あった」
入学前の説明会の時に、養護教諭の名前だけは先に聞いておいた。自分の身にいつ何が起こるかわからないから、寮に養護教諭の先生がいてくれるのは心強かった。無事に先生の部屋を見つけてインターホンを押すと、ぱたぱたと走ってくる足音がした。
「はーい、どうした?」
「あ、す、すみません。あの、新入生なんですけど、その……荷物が多くて困っていて……何かまとめて運べそうな台車とかってありますか?」
「あー……確か倉庫にあったかな。ねぇ南雲先生、台車ありましたよね?」
目の前に立っていたのは背が高くて体つきもしっかりした快活そうな先生。優しそうな顔をしているのに、妙に存在感が強くてたじろいでしまう。それに、オメガの先生と聞いていたから予想外の見た目に戸惑いながら話していると、目の前の先生が『南雲先生』を呼んで後ろを振り返った。あれ、この人は違う先生なのだろうか。
「ありますよ。久遠 先生が場所知らないなら僕が行きますよ」
「助かります!」
奥にいるであろう南雲先生にこにこと明るい笑顔を向けた久遠先生。僕の方に視線を戻すと、またにこにこと笑いかけてくれた。
「今南雲先生が取りに行くから少し待っていてくれる?」
「はいっ……すみません、お手数をおかけして」
「いいのいいの。こういう時に使えるものは使わなきゃね。そういえば新入生って言ってたね。どう、緊張してる?」
「……そう、ですね。家から、家族から離れるのが初めてなので」
「そうなんだ。まぁ困った方があったら、すぐに俺ら先生に声かけて。きっと手伝えることがあるからさ」
先生の言葉に、嬉しい反面少しの心配もあった。
「……僕、すぐに体調崩すんです。だから、特に迷惑をかけるかもしれません」
俺の言葉に久遠先生はぱちぱちと瞬きを繰り返して、それから困ったように微笑んだ。ぽんぽんと背中を撫でてくれた手は、どんな言葉よりも雄弁に感じる。
「戻りましたよ。荷物、手伝いましょうか?」
「あっ! いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
南雲先生の声がはっきりと聞こえて振り返ると、初めてその姿が見えた。線が細くてツリ目の綺麗な先生。目の前の南雲先生もオメガだと思うと、ほっと身体から力が抜ける。
「……君、星野くんですか?」
「はい。あ……先生にはもう、お話が通っていたんですね」
「えぇ。こちらの久遠先生も養護教諭なので、体調不良であれば僕らのどちらでもいいので声をかけてくださいね」
ふっと緩んだ先生の表情が綺麗で、思わず息を呑んだ。それでも、先生たちの優しい言葉に答えなければと必死に頷いた。
「同室は……確か菱川くんでしたね」
「一応先輩だし、新入生よりは心強いだろ。何かあれば菱川を頼ってもいいんだからな」
「はい……ありがとう、ございます」
同室になるアルファの人は、どうやら菱川先輩と言うらしい。先生2人にお礼を言って、代車に荷物を乗せて運んでいた。寮に向かう途中でスポーツウェア姿の身体の大きな人が俺を追い抜いて歩いていく。大きな歩幅を見送りながら、菱川先輩はどんな人なんだろうなとゆっくり進みながら思いを馳せていた。
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