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第1話

僕の彼氏、セイちゃんこと中塚星の自宅は、古き良き一戸建てだ。 僕たちはいつも和室に置かれたちゃぶ台でごはんを食べているし、和室の年季が入った畳の上に布団を敷いて寝ている。風通しが良いから、窓を開ければ夏でも何とかエアコンなしで過ごすことができる。 その気になればいつでも縁側で夕涼みなんていう粋なこともできるけれど、セイちゃんの仕事が忙しいということもあって、まだ実現には至っていない。 こじんまりとした庭には、夏草が勢いよく生い茂っている。滅多に手入れをしないから、毎年この時季はこうなってしまうのだろう。 僕は初めてここで夏を迎える。ここは僕が居候させてもらっている家でもあり、セイちゃんの生家でもある。今、この家に住んでいるのはセイちゃんと僕、そして僕と同じノアという名前の猫だ。 セイちゃんのご両親は早生していて、仏間には二人の遺影が飾られている。どうして亡くなったのか、詳しいことは知らない。僕から訊くことでもないし、セイちゃんが口にしたこともないからだ。 もしかしたらセイちゃんが今の仕事を選んだのは、ご両親が亡くなったことに関係しているのかもしれないなと思う。けれどそれはあくまでも僕の想像に過ぎない。 ノアと一緒にソファで寛ぎながら、セイちゃんの帰りを待つ。連絡がないのは、まだまだ帰ってこないということだ。 今日も遅くなるんだろうか。 手持ち無沙汰なこの時間に、僕はまだ慣れることができない。セイちゃんと出会って恋をして、こうして一緒に住むことができるようにもなった。それだけでも以前を思えば夢のようなことで、この状況に感謝しなければいけないと思う。 それでも、僕たちの距離は遠い。例えば僕がセイちゃんの支えになることができれば、もっと近づけるだろうか。 セイちゃんと、心を繋げたい。 何の気なしにつけたテレビの報道番組を眺めていると、真新しいニュースが飛び込んできた。 『──道路上で、近所に住む佐塚彩ちゃん六歳が倒れているのを通行人が発見しました。発見された当時、彩ちゃんは既に死亡しており、警察では事件と事故の両面で捜査を進めています』 蝉の鳴き声に混じって聞こえてきたアナウンサーの声に、テレビの画面を凝視する。そこには現場付近の映像が表示されていた。 いかにも閑静な住宅街という街並みだ。現場保存用の黄色いテープが張り巡らされ、警察やマスコミが集まっている。女の子の顔写真は公表されていないようで、出てこない。 この地域が僕の通う大学からそう離れていないことを確認して、僕は小さく溜息をつく。 この子は、セイちゃんが視ることになるかもしれない。 セイちゃんは、僕の大学で准教授として勤務するお医者さんだ。 けれど、生きた人間は相手にしない。なぜなら、彼は法医学者だから。 彼の仕事は、メスを握り亡骸を切り刻んで死者が遺した声を聞くことだ。

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