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最終話

しっとりと全身に汗をかいているのがわかる。濡れた身体は与えられる快楽に悦び、小刻みに震えていた。 「……んっ、セイちゃ……」 ぐちぐちと音を立てて鳴る後孔が、中に入った指を取り込もうとする。息を切らしながら硬く目を閉じて、僕は快感に身を委ねる。指先で弱い部分を擦られる度に腰が揺れてしまう。 長い前戯を経なくても、準備は十分にできていた。 「も、挿れて……」 僕たちがこうして身体を繋げることは何も難しいことじゃない。欲しくて欲しくて堪らないと全身で訴える僕にセイちゃんは必ず応えてくれて、その先には優しい快楽が待ち受けている。 だけど、僕はセイちゃんと心も繋げたいと思う。 ずるりと中から指が抜けていく。飢えたそこはヒクヒクと喪失感に喘ぎ、もっと確かなものを欲しがっていた。 脚を割り開いてセイちゃんがそそり立つものを僕に押しつけてくる。 「あ、あっ……は……ぁッ」 身体の中を開いていくように、ゆっくりと熱い昂ぶりが入ってくる。待ち望んでいた質量に一瞬で肌が粟立った。 穏やかな抽送が始まり、濡れた音が部屋を満たしていく。 どくどくと心臓の音がうるさい。セイちゃんとセックスをする度に、自分が男であることを否が応でも自覚させられる。だけど僕は男だからこそセイちゃんにより近いところにいられる気がするんだ。 それは僕の思い上がりかもしれないけれど。 「あぁ、あ、セイちゃん……ッ」 手持ち無沙汰に張り詰めていたそこを握られた途端、思わず高い声がこぼれた。ゆっくりと扱きながら揺さぶられて、次第に意識は曖昧に崩れていく。 「ノア……」 何かを確かめるように、セイちゃんは僕の熱をどんどん高めていく。気持ちよくて堪らない反面、胸の奥がジリジリと痛む。 「ああ、セイちゃん、好き……」 快楽の波に揺られ、揺られて。高みへと向かいながら、僕は右腕を伸ばしてその腕に触れる。 セイちゃん、大丈夫だよ。 僕はちゃんと生きてるから。 「あ、あ……イきそう……ッ」 一層強く穿たれた瞬間、屹立した半身から精が勢いよく迸る。同時に僕の中が強く収縮を始めた。 「……ッあ、あぁ……っ!」 送り込まれる動きが穏やかになって、一緒にイってくれたんだなとわかった。こうして僕に合わせてくれることが嬉しかった。 セイちゃんが僕に覆い被さってくる。濡れた身体を重ねながら、僕たちは熱を押しつけ合うように口づけを交わした。 「愛してるよ、ノア」 うん、と頷きながら目を開けると、愛しい人が闇にぼんやりと浮かぶ。端正で優しい、大好きで堪らないセイちゃんの顔。 ずっとずっと繋がっていたい。セイちゃんの一部になりたいとさえ思う。けれど別個の人間だからこそ、僕はセイちゃんに惹かれるんだろう。 軽くシャワーを浴びて、気怠い身体を布団に横たえた。 たとえ暑くても僕たちは寄り添って眠る。体温を感じるのが心地いいんだとセイちゃんは言う。それは、いつも冷たい遺体を触っているからかもしれない。 「……ノア、ありがとう」 耳元で囁かれた言葉がくすぐったい。すぐ傍で小さく笑う気配がした。 ねえ、セイちゃん。 セイちゃんに視てもらった人のことが羨ましいと僕が言ったら、どう思うかな。 法医学者のセイちゃんは、解剖という手段で亡くなった人と心を繋ぐことができる。 そこは、僕の届かない領域だから。あの女の子に羨望を感じてしまうんだ。 もしも僕が命を落としたら、セイちゃんに視てほしいと思う。 それは、口には出せない僕の願いだ。 「僕の方が愛してるよ」 そう告白すれば、大切な宝物を扱うように抱き寄せられる。温かな腕の中で、僕はゆっくりと目を閉じる。 さっき二人でした花火が、瞼の裏側に見えた。花びらが散るように、キラキラと煌めいては闇へと消えていく。 僕たちと星を繋ぐ、細く美しい光。

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