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第6話
自分の両親に虐待されていたこと。金属バットで頭を殴られたことにより亡くなったこと。
彼女の遺体が語る真実を、セイちゃんは世間に曝け出したんだ。
肩を並べて寄り添いながら、僕たちはそよ風に吹かれる。見上げればきれいな星空が広がっていた。チカチカと瞬く小さな星がとても健気だと思った。
あの子も、お星様になったのだろうか。
僕は最後の小さな封を開けて、カラフルなこよりを取り出していく。
「線香花火、しよう」
束の中から一本を引き抜いてセイちゃんに手渡すと、微笑みながら受け取ってくれた。僕たちは交互に火を着けて、最新の注意を払い足元に花火を垂らす。
「僕、線香花火が苦手なんだ。すぐに落ちちゃう」
そう言った途端、ぽとりと小さな火の玉が落ちてしまった。けれどセイちゃんの花火は大きな玉を作り、短い火花がやがてバチバチと音を立てて華やかに弾けていく。
「やっぱりセイちゃんは手先が器用なんだね」
普段メスを握るその手は、昨日小さな女の子の遺体を切り、今は線香花火を持っている。それがひどく不思議で神聖なことのように思えた。
「実はね、コツがあるんだ。火薬が詰まってるところより少し上の部分を絞ると、落ちにくくなる」
「そうなんだ。僕もやってみよう」
勿体ぶらずにあっさりと種明かしをしてくれるところも好きだと思った。セイちゃんが言うとおりにしてもう一度火をつけると、僕の花火もうまく弾け出した。
「本当だ」
今度は落ちないように。そう願いながら、僕はセイちゃんにそっと語り掛ける。
「彩ちゃんは亡くなる直前、花火を買いに行ってたんだって。もしかしたら、家族で花火をしたかったのかもしれない」
僕の言葉に考え込むように唇を噛んで、セイちゃんは一言ぽつりと呟いた。
「……そうだったのか」
親から虐待を受けていたとしても、彼女にとっては掛け替えのない家族だった。夏の思い出を残したいと思うほどに。
だから、この花火はそれを叶えることができなかった彼女に対する追悼の儀式なんだ。
「ノア、花火には鎮魂の意味があるんだよ」
「そうなの?」
顔を上げた僕にセイちゃんは小さく頷いた。
「死者を供養するために花火を打ち上げるんだ。だから、お盆の時期に花火大会が集中してるらしい」
花火は人の命に似ている。命を燃やすように美しく火花を散らし、一瞬で消えてしまう様子はとても儚い。
セイちゃんの線香花火が花びらを散らすように細く火花を飛ばし始める。繊細なその光を、僕たちはじっと見つめていた。次第に小さくなり、やがて燃え尽きてしまう。続けて僕の花火も同じように燃えて、光を失っていった。
亡くなった女の子のことをぼんやりと考える。小さな命の灯火はわずか六年で消えて、空へと昇っていった。
法はあの子の両親を裁くだろう。けれどあの子が本当にそれを望んでいるのかどうかは、また別の話だ。
テレビに映っていた大きな目の愛らしい顔を思い出しながら、僕は夜空を仰いでみる。
天の星は誰の頭上にも分け隔てなく煌めく。
「彩ちゃんはきっとかわいいお星様になってるんだろうね」
僕の言葉にセイちゃんは目を見開いて、そしてふわりと微笑んだ。
「ノアは不思議な子だな」
そう言って、ゆっくりと顔を近づけてくるセイちゃんの優しい唇に僕はそっと唇を押しつけた。
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