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遭遇

 今日は王都近郊での郊外訓練の日。俺、ノア・ヴァリエールは黒龍騎士団第一副団長として参加する予定だった。    この日は朝起きてから何かがおかしかった。元々勘は鋭いほうだが、何か落ち着かない気持ちになっていた。今日は郊外訓練で新兵を鍛える予定なので、気が張っているのだろうと思ったが、念の為団長に報告することにした。 コンコンコン 「入れ」   「失礼します。団長おはようございます」   「朝からどうした、今日は郊外訓練だぞ、気引き締めろ」   「そのことでちょっとご相談が」   「なんだ」 団長は不思議な顔をしながら聞いてきた。   「なんか嫌な予感がするのです」   「お前がか?」   「はい」    団長は真剣な眼差しで見てきた。すると少し考えてから、 「お前の嫌な予感という奴はいつも当たるんだよな……よし、俺も着いていこう、なんかあったらすぐ対応できるように」   「お忙しいところ申し訳ございません」   「いや、いい。何かあってからじゃ遅いからな」  団長は快く俺の勘を信じてくれた。ここまで心がざわつくのは初めてだ。今日は一体何が起こると言うのだろう……  団員たちは団長も郊外訓練に参加すると聞いて、気も引き締まっただろう。若干青ざめた奴もいた気がするが、新兵の訓練だ、強くなって我がドラゴニア王国の新たな礎になってもらわなきゃ困る。  行軍を続け、無事目的地の王都郊外の訓練場に着いた。新兵に一時休憩を命じ、団長に呼び出された。   「今の所異変はないな。近隣の村も念の為何かおかしなことがないか聞いてみたが、至っていつも通りだそうだ。何が起こるんだ……」 「思い過ごしかもしれませんが……心のざわつきがここに近づくにつれ強くなりました。間違いなく何かが起こると思います」   「警戒しとくか」  訓練場に着いて一息ついた新兵に声をかけようとした瞬間、空から膨大な魔力を感知した。 「全軍警戒!!!!!!!」  団長が号令をかけ、皆で空を見上げた。  よく見ると空間が歪んでいる、あれは一体なんなんだ。 「ノア!!あれは一体なんだ!!魔物か!」 「わ、わかりませんっ!でも……」 「お前でもわからないか……あんなの初めて見るぞ」 感じたことのない程の膨大な魔力が大きな渦となって空間を歪めている。今にも爆発するかと思ったその時、一瞬で歪みが視界から消えた。 「は?消えた?」  あ……あれはっ!!!!考えるより先に身体が動いた。 「ノア!!勝手に動くなっ!!!」  ダメだ、もっと急がないと!!!間に合わなくなる!!!俺は魔力を足に集中させ一気に空中へ飛んだ。そして間一髪あの渦から出てきたものを地面に落ちる前に捕まえることができた。 「ノア!!!!大丈夫か!!!!」 「副団長!!!」  団長と団員が駆けつけてきた。  俺は間に合ったんだ……腕の中にいるのは1人の小柄な男性だった。酷い怪我を負っていて、細くて……今にも死んでしまうのではないかというほど命の火が消え掛かっている。 「団長っ!!!!!フェリックスは何処だ!!!!!急がないと!!!彼が!!!!」  酷く焦る俺を見て団長が驚いているが、腕の中の怪我人を見て状況を瞬時に理解してくれた。 「ノア、とりあえず救護室へ急ぐぞ!」  俺は優しく抱き上げたまま、全力で救護室に駆け込んだ。団長と俺を見てフェリックスは飛び上がったが、怪我人を見ると、すぐに処置を開始してくれた。   「私は彼の処置をするので一旦退室してください」 「ダメだ、側に……」 「団長っ!」 「おい、ノア、まずは彼の命を救うのが優先だ、外で待とう」  悔しい……彼の側を離れたくないのに……今にも死にそうなのに……側にいてやらないと……  ギリっと手に力が入った瞬間、 「ノアっ!!」  団長に思いっきり殴られ、痛みで我に帰った。俺は今何を……  彼の命が先決なのはまごうことなき事実だ、俺はフェリックスに頭を下げた。 「すみませんでした。フェリックスお願いします。どうか彼を助けてください」 「勿論です。全力で助けます」 俺と団長は一旦救護室の隣の待合室で待機することになった。 「ノア、お前どうしたんだ」 「団長……彼は……彼は俺の番だと思います」 「番?!本当か?!」 「はい、全身の細胞がそう告げています」 「なら、間違いないな。わかった、とりあえず一大事だ。一旦俺は先程の騒動をおさめてくる。お前はフェリックスが呼びにくるまで待機、出来るか?」 「……はい。できます」 「我を失うなよ、すぐ戻る」 「はい……よろしくお願いします」  今の俺は感情的になっている。恐らく使い物にならない。今は団長とフェリックスに状況を任せるしかない。なんて不甲斐ないんだ……    あれからどれだけ経っただろうか、自分の手のひらに爪が食い込んでも痛みも感じなくなった頃、フェリックスが救護室から出てきた。 「彼は!!どうなった!!!」  フェリックスに詰め寄ると、 「お、落ち着いてください!!とりあえず致命傷は全て治しました。かなり状態が悪かったので、暫く目覚めないと思います。これから毎日治癒をかけて細かいところは少しづつ治していきます」 「一気に治せないのか?」 「今回致命傷を治したので彼の体力がもたないんです。少しづつ少しづつ治癒していかないと、これ以上治癒をかけたら彼の身体に毒です」 「そうか……その……彼はどんな状態だった……」 「正直生きてるのが不思議なくらいですよ。肋骨は肺に刺さっていて、内臓も破裂、脊髄も折れてました。それでなくても栄養失調と過労で身体がボロボロ……あと身体中に何かしらの拷問の跡があります」 「拷問……」  目の前が真っ赤になりそうだ。必死に爪を食い込ませて、深呼吸する。 「はい……鞭、火、あと……性的な暴力も……」  あ……ダメだ。一瞬にして目の前が真っ赤になった。 「団長!!!!!!」  フェリックスの声が聞こえた気がするが、頭の中の怒りが抑えられない。身体が変化し始めた瞬間、俺は地面に魔法で拘束された。丁度団長が戻ってきたらしい。 「は……はなせぇえぇぇぇ!!!!誰だ!!!!誰がそんなこと!!!!殺してやるっぅぅ!!!!!」 「落ち着けノア!!お前が本気で今動いたら救護室がぶっ壊れる。彼を傷つけるつもりか!フェリックスも全力で彼を治してくれているのに、治癒してくれるものが居なくなったらどうするんだ!!!!!頭を冷やせっ!!!!」  そうだ……彼はまだ怪我が治ってない……意識もない……俺が暴れたら彼が危ない……だめだ……落ち着け俺……。今の行動の結果、番に危険が及ぶという考えに至った瞬間、すっと周りの景色が戻ってきた。 「こりゃ……番って凄いな……あんだけ訓練して感情表に出さないお前が一瞬で理性が飛んだぞ……」 「あぁ……目の前が真っ赤になりました。すみません。危ないところでした」  「肝が冷えたぞ、あと一瞬俺が遅かったらここ壊滅してたぞ、しっかりしろ、彼を守るのにお前が理性失ってどうする!フェリックスもすまない、もう少し早く戻ってくればよかった」 「い……いいえ。団長ありがとうございます……副団長のこんな姿初めて見ました……」 「俺もこいつの子供の時以来だな。上手く制御できてると思ったんだがな……フェリックスここからは機密事項だ。漏らすなよ」 「は……はい!なんでしょう」 「先程の彼はノアの番らしい」 「つ……番ですって?!?!本当ですか?!!!」 「あぁ……こいつの反応も納得いくだろ」 「はい……今全てつながりました。本当に番っているんですね……」

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