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59 わかっていながらつがい合う

               ならぬことだ。  許されぬことだ。――そうは思えど、なぜ、なのやら。    秘め事など、見つかったら何よりも言い訳ができぬ…もう無理だ、諦めたとはいえどもやはり、俺は――こうして想い合えて、何よりもいまが幸福だ。…だとしても俺は、だからこそ俺は、ユンファ様が、これ以上の憂き目に合われる姿を見たくはない。    駄目だ、駄目だと思いながら――俺は寝台の上に座り、俺と向き合う形で座ったユンファ様の、そのはだけた衿元を優しく正してやった。   「…ユンファ様…、俺は、貴方様を想えばこそ…やはり、貴方様を抱くことはできませぬ。」   「……、…」    するとユンファ様は、俺のその手の手首をゆるりと掴み――片頬を擦り寄せ、顔を傾けては、俺の目を切ない瞳で見つめてくる。   「…ソンジュ様…、お慕いしております……」   「…………」    そっとそう言った彼は、俺の目をじっと見つめたまま。   「…僕はどうなっても構いません…、それとも、ソンジュ様…、僕にはやはり、唆られませんか…?」   「…っ、い、いえ…そういうことではありませぬ、ただ…」   「……、なら……」    ユンファ様はふと悲しげな目線を伏せ――「ならば…」と呟くと、その頬をかあっと赤らめた。   「……僕に…唆られるというのが、本当なら…、ふ、触れてほしいのです、ソンジュ様にこそ…、…っ」    震えた小さな声でそう言い、そして彼は、きゅっとその美しい眉の根を寄せると、掴んだままの俺の手首を、…自分の胸元へ。  俺は咄嗟手を引こうとしたが、ぱっと、ユンファ様の手のひらに手の甲を抑えつけられる。…服の上からでは、女人ではないユンファ様の胸板に、そう肉の感触を覚えているわけでもないが――それでいて、俺はかあっと頬が、耳が熱気にまみれ――「どうか、何とぞ…」――悲しげに目を瞑ったユンファ様の、そのはにかんだ小声は、今にも泣き出しそうであった。   「……は、…っいや、みっ見つかれば、いよいよに…俺はともかくとしても、…俺は、愛する貴方様を、これ以上の憂き目に合わせたくは……」   「…ソンジュ様を知らぬまま…、ジャスル様のものとなるほうが、僕は生きてゆけません」    そう真剣に言い切ったユンファ様は、キッと決意にその切れ長の目を鋭くし、俺の目を見てきた。   「…………」   「……、…」    僕は、本気だ、と――ユンファ様は俺の目をただ黙って、じっと鋭く見つめてきた。  俺は…――ユンファ様の胸元に押し付けられている手で、彼の手を取り…そのじんわりとあたたかくなった手を、胸の前で包み込むように握る。    俺たちは自然、見つめ合う――。   「……ユンファ様…、愛しています…」   「……、…っ」    するとユンファ様は、じわりとその目を潤ませ、泣きそうな顔をした。――しかし俺はむしろ、…笑った。   「…愛してる、ユンファ…、…」    そしておもむろに、その美しい顔へ――ゆっくりと顔を傾けながら、近寄り――は…と息を呑んだその肉厚な赤い唇に、俺はそっと…口をつけた。   「……ん…」   「…………」    ふに…と柔らかく、肉厚なユンファ様の唇が、俺の唇と合わさり、互いの唇の表面が穏やかに押し合う。  はむり…一度優しく食めば、彼は俺の手をきゅうと弱々しく掴んできた。――ユンファ様の、甘く濃厚な桃の香りは、俺の頭の芯を痺れされる。    ――それでいて、俺はよくわかっている。  このことがあわや知られれば、俺は殺される。  …するとユンファ様を、お守りすることさえできない。ユンファ様とて殺されてしまうかもわからぬ。あるいはあのジャスル様だ、…ユンファ様に、性的な恥辱をひたすら課すやもしれぬ…――そうわかっていながらも、俺はその人の耳の下の角に手を添え…顔を深く、傾けた。          

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