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121 初心な胡蝶が求めるもの

                 俺は昂ぶる愛しき思いに、抱き締めていたユンファ様のその甘い首筋を、ペローンとした。   「……ひあ…っ?♡ ぁぁ…ふ、♡」    すると――人狼となった俺の長い舌が、ややざらついていたからか――しどけない声を声をもらし、ビクンッとしたユンファ様。…俺は気にせず、ペロペロとその甘い首を舐めながら、するり――彼の着物の衿を、はだけさせてゆく。   「…何…っ? んう…っ♡ いや、そ、ソンジュ、…」    にわかに()()()としている俺に、ユンファ様は明らかにうろたえている。――やや荒くも肩まで衿をはだけさせると、…見えた白い鎖骨、肩、胸板…淡い桃色の、可愛らしい乳首。  青みを帯びた月明かりに照らされて、より真っ白く美しいその肌――俺が彼の乳首を長い舌でぺろんとすると、ユンファ様はビクンッとして。   「…や、…あぁ…っ♡ ソンジュ、そんな、いきなり……」   「…はは…いきなりではございませぬ。――先だってより俺は、貴方様を()()と言っていたではないですか。」   「……?」    やはりユンファ様、その言葉の意味がわかっていないご様子である。――まあそんなところも可愛らしいのだが、…「なんだか、よくわからないが…」と、ユンファ様は両手で着物の衿を持ち上げ、自分の胸板をそれごと覆い隠した。   「…()()駄目だ、ソンジュ……」   「……、な、何故(なにゆえ)に…?」    俺は()()()満々である――そもそもユンファ様に、しかとつがいだと認められた今ならば、尚の事()()と言われる理由もないはずだ。  しかし、()()――それならば今は何が駄目なのか、俺がふと見たユンファ様の顔は、赤らんでいたが。    困惑しているような、はにかんでいるような――潤んだ瞳は可愛らしいが、チラリとやや上目遣いに見てくるその目付きは、どこか頼み込んでくるようである。   「……僕、その前に僕は…君に、……」   「……?」   「……ソンジュ…」   「はい…」    何かモゴモゴとして、俺の名を呼びかけてくるユンファ様に首を傾げると、彼はふとうつむき――頬を紅潮させ、何か言いにくそうにそれきり黙った。  が…やはり()()()はないらしく、俺に乱された着物の衿を直してゆく。   「なんでしょうか、何でもお申し付けくださいませ」    でなければ、秘め事をさせてくれぬというのなら、俺は本当に何だってしよう。――するとユンファ様、赤面してモゴモゴと。   「…僕は、その…秘め事の前に、その…――ぁ、あた…、…いや、…」   「……?」    あた…?  ユンファ様はしどもどとすると、「やっぱりいい」とうつむいたまま、前に膝を揃えて座り、気持ち肩を小さくする。   「……、あた…、…?」    あた…がましい。――いや、要求にその否定的な意味はないか。  あた…尺のことか、いや、まさかそれもありえぬ。    あた…新しい、何かが欲しい。  しかし、ユンファ様はそう物欲があるお人ではないのだ。――男娼のように扱われつつも、それでもジャスル様の側室であることに変わりないため、一応は求めれば何でも与えられるお立場でありながら…ユンファ様が求めることといえば、せいぜいが本を借りてきてほしい、それくらいなのである。    ――駄目だ、わからん。   「…何でも申されよ。…俺にできることなら…」   「いい、いい…、…とても、やはりとても言えない……」   「…………」    俺は困って、前を向き直し――また丸い月を見上げた。  …するとユンファ様は、…寝台のフチを掴む俺の手、その小指に――おずおずと自らの、その白く長い小指を絡めてきた。…胸がときめいた俺は、思わず眉を寄せる。   「……っユンファ様…、俺は何だって、貴方様になら何だってして差し上げたく存じまする、…」    俺は月を見ながらも、ユンファ様の小指に自ら、しかと小指を絡めた。   「…、…はぁ…、……」    淡いため息を吐いたユンファ様は――すると、蚊の鳴くようなか細い声で、こう言うのだ。     「…なら、頭を…か、髪を…撫でてはくれないか、ソンジュ……」        

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