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154 籠の中に満ちる殺気

               ガチャリ――扉のほう、外側からかけられた鍵が開けられた音に俺はハッとし、即座に立ち上がった。  念のため俺は、寝台に立て掛けておいた愛刀を鞘ごと掴み、じっとこの暗い部屋の中で、扉のほうを凝視する。   「……、…」   「…………」    ガチャリ――開いた扉。  …そこから入って来た者は――。   「……よおソンジュ、ユンファ…、楽しんでおるか?」   「……、ジャスル様……」    ジャスル・ヌン・モンス…――その人であった。  宮殿で行われていた祝宴から抜け出してきたのだろう、ごてごてと宝石まみれに着飾っているジャスルは、その扉から威風堂々何も億せずこの部屋の中へと歩き、ズカズカと入ってくる。   「…何じゃ、もう始めているかと思いきや、まぁだヤっとらんのかお前たち? ぐふふ、まあ()()()()()()わ……」   「…………」    一人、か…?  いや…おそらくこのジャスル、ユンファ様がいまだ婚礼の白い衣装を着ているばかりにそう()()()したようだが、…()()()()()()…?  俺は警戒しながら、その人のニヤケ顔を凝視しているが、ジャスルはこの部屋の寝台まで来ると、――どかり。   「………、…」    なぜかその寝台に勢いよくその巨体を乗せ、横向きに寝そべっては、立てた肘の先――頭を乗っけて、怪訝そうに自分へ振り返っているユンファ様へと、ニヤけながら。   「…さあおいでユンファ…、ワシが孕ませてやる……」   「……、…ぇ…?」    何を言っているのか、と当惑しているユンファ様の腕をがしっと掴んだジャスルは、そのまま強く彼を自分のほうへと引き寄せた。――「おいで、おいでユンファ、ほら、ワシのところへおいでな、…」そう甘ったるい声で繰り返し、ユンファ様をグイグイと引くジャスルに、彼は顔を顰めて抵抗している。   「…っ嫌だ、…いや、おやめくださ、…」   「よかったよぉ、()()()()()――お前、もうたっぷりとさんざん、あの犬っころ(ソンジュ)と蜜月の時を過ごしたのだろう…? そうしたらお前、なあユンファ……」   「………、…」    ジャスルはにんまりと――その顔を欲望にまみれさせ、醜く笑った。…するとユンファ様は瞠目し、あまりのことに絶句して固まる。   「…もうさすがに、()()()()ろう、なあ…? お前の子壺には今、たんとワシの子を孕むための卵があるはずじゃ…なあ、だから旦那様の子種を、今からそこにたっぷりと……」   「……っ!」    そう言いかけたジャスルに、ユンファ様は――バッとその腕を振り払うと、険しい顔をして立ち上がり。  じり、じりと後ずさりながら、寝台の上に寝そべったままで驚いた顔をしたジャスルを、キッと睨み付けては…自分の下腹部に、片手を置いた。   「…残念ながらジャスル様…僕の()()には、もう…――ソンジュの子がおります」   「……、な、何だとっ?」    すると途端に険しい顔をしたジャスルは、寝台の上、バッと手を着いて身を起こしたが――俺は刀を持ったままユンファ様の側へと寄り、彼の腰を抱いて並び立った。   「…さようでございます、ジャスル様…」    いい気味だと、歯の根が笑いそうに震える。  そしてユンファ様は毅然とした態度で、憎々しげに俺たちを睨みつけるジャスルを冷ややかに見下ろし。   「…僕たちはメオトとして、もうすでに何度も何度も愛し合ったあと――貴方様の子など、僕は孕みません。…いえ、元より孕みたかったわけではない…、…っ」    そしてユンファ様は、みるみると険しくなってゆくジャスルの顔を、キッと睨み付けると――大声で、怒鳴った。   「…っ誰が貴様の子なぞ孕むものか! この際言ってやるが、貴様ことなど尊敬も何もしていない、むしろ貴様のことなど殺したいほど憎いのだ、…だから貴様の子など孕まなかったのだ、ジャスル!!」   「……、…、…」   「………、…」    ジャスルも目を瞠って固まっているが――俺も驚いた。  …あのしとやかで楚々とした態度ばかり――いや、元来そういった性格であるユンファ様が、ジャスルのことを憎々しげに睨み付けながら、…大声でがなるほど怒鳴ったのだ。  するとジャスルは呆然としていた。――これまでか弱く儚い、言いなりの蝶だと思っていたユンファ様に、怒鳴られたからだろう。      

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