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59 最終話
鳥の囀る声や、瞼を貫通する陽の光で目が覚める。
やけに体がスッキリしているような…
ゆっくりと視界がはっきりしてきて、目の前にテオ様の寝顔があり、驚いて声をあげそうになった。
そうだ、ヒートが来たんだった。
体調的に、ヒートは終わったみたいだ。
前回まではあまりヒート中の記憶はなかったけれど、番になったからか、今回は記憶が薄らある。
なんか…、いろいろと醜態を晒したような…
僕が悶々と考えていると、不意に笑い声がした。
「朝から表情が騒がしいな」
美しいご尊顔で眠っていた彼が、しっかりと目を覚まして微笑んでいる。
み、見られた…
「起きたら起きたって言ってください!」
僕は恥ずかしくなって顔を覆った。
相当間抜けな顔をしていた自覚がある。
「あまりに可愛いから見惚れていた。
体は大丈夫か?」
「あっ…、え、あ…、ダイジョブです」
可愛いに照れてからの、「体は大丈夫か?」で何もかもを思い出して恥ずかしさで死にそうになる。
散々わがまま放題をやっていたし、「もっと」と甘えていたことも覚えている。
「覚えているのか?」
「…、はい。ほとんど、全部」
僕がそう言うと、テオ様はさらに笑った。
「普段の控えめなシエルに見せてやりたいと思っていたところだから、手間が省けたな」
「うう〜、忘れてください」
僕がそう言うと、彼は僕の頭を撫でる。
どんなに心が乱れていても、こうされると不思議と落ち着いてしまう。
「忘れない。これは番の特権だからな」
そう言われると返す言葉がない。
テオ様だって、僕にだけ優しいと言っていた。
きっと、こんなふうに愛おしそうな顔をするのは僕にしか見れないんだろう。
それは、僕の番特権だ。
「他の男に、あんな可愛らしいシエルを見せてはならないぞ?」
「見せません!!
テオ様に会うまで、僕自身、こんな面があるとは思ってなかったですし。
テオ様だって、僕以外に優しくしないで」
「その面も含めて、シエルはシエルを愛せるといいな」
そう言って微笑む彼に、僕は胸がいっぱいになって、「ううう」と呻いた。
そういえば、そんな話もした気がする。
僕の弱い部分も、彼は受け入れてくれる。
「テオ様、ありがとう」
僕は彼の胸にしがみついて言う。
ちゃんと聞こえなかったかも、と思ったけれど
テオ様は僕の背中に腕を回した。
「シエルこそ、俺の番になってくれて感謝している。これからもずっとそうであってほしい」
そうやって抱き合っていると、なんか…、お腹の中がムズムズしてくる。
ヒート明けなのに、僕って淫乱なのかな…
「テオ様?
あの…、ヒートじゃないから、その、生産性はないんですけど、
今から僕と…、あの、閨というか…」
「…ん?」
なんで伝わらないの!と、思いつつ、顔を上げるとテオ様はニヤニヤしていた。
わざと言わせて楽しんでいる!!
酷い!
ムッとしそうになるけれど、でも、本当にしたいんだから仕方がない。
「うぅ…、今から僕を抱いてください」
そう言うや否や、ベッドに縫い付けられる。
「喜んで。
甘えたのシエルも好きだが、いつものシエルも抱けるだなんて、俺は幸せ者だな」
そう言って唇を奪われる。
かく言うシエルは、ようやくシラフの状態でも、番にお願いができるようになる第一歩を踏み出したのである。
((本編 了))
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