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キーホルダー
バイトが終わり、帰りの道すがら何となくスマホを見ると、土師からメッセージが届いていた。
明日の講義のことかなと、文面に目を落とすと、真里也は商店街の真ん中で「嘘だろっ!」と、叫んでしまった。
いくら夜の八時を回って店舗が閉店していても、今の声は大き過ぎただろうと、通路の真ん中に突っ立って周りを見渡した。
幸いにも通行人の姿はなく、殺風景な通りで真里也は興奮して自転車から危うく手を離しそうになり、慌ててハンドルを手繰り寄せる、といった変な行動を一人でしていた。
そんな中でも、画面から目が離せずにいた。
ほ、本当に、羽琉が見つかった……のか。
土師の送ってくれた内容は、今日大学の帰りに母と外食した店で、羽琉らしい人物を見たと言うものだった。
メッセージと一緒に店の地図も添付されていて、真里也は心の中で、土師に感謝の言葉を叫んでいた。
土師君、本当にありがとう……。写真まで……。
早速明日行ってみるよ、と返信したら、その店は明日が定休日だよと、また親切に教えてくれた。
一日でも早く確かめに行きたかったけれど、定休日なら仕方ない。一日だけ辛抱すれば、羽琉に会えるかもしれない。
土師の母親だけではなく、同級生だった土師が確認したのだから、もうその人物は羽琉に間違いない。何より土師が料理を撮るフリをして、こっそり撮ってくれた写真の中に映り込むスタッフは羽琉にとてもよく似ている。
胸の奥からじわじわと熱を感じていると、真里也はあることを思いついて自転車に跨った。
高速回転で自転車を漕ぐと、猛スピードで家に向かった。
初冬の向かい風は真里也に厳しかったけれど、心は暖かだった。
高三の夏休みから、大学二年の冬の今まで、どれほど羽琉に会いたくて仕方なかったか。
自転車を漕ぎながら真里也は、最後に見た哀しげな羽琉の顔を思い出していた。
傷付けたことを早く謝りたい。
羽琉に触れられて、嫌な思いなんて一度もしたことがない。寧ろ──。
家の門扉が見えたところで、真里也の中に、これまで感じたことのない、崩れそうなほどの苦しさがふいに込み上げてきた。
ジャンパーの生地ごと胸を掴み、羽琉を思う度に痛みが増してくるのを実感する。
羽琉に会いたい、声を聞きたい。また一緒に、たくさん笑いたい。昔のようにそばで過ごすことができれば、それだけで充分だ。
家に帰ってすぐ、真里也は自室の押し入れを開けると、羽琉とお揃いのサコッシュを引っ張り出した。そして、家の鍵に付けていた、木彫りのキーホルダーをそこに付け替える。
「よし、これでいい」
サコッシュを身に付け、鏡の前でキーホルダーが見えるよう何度も角度を変えてベストポジションを確認する。羽琉と出会ったときに、一発でわかってもらえるように。
その日の夜は、食事もそこそこに風呂に入って課題の彫刻に触れることもせず、布団に潜った。
二十四時間がとてつもなく長く感じる。こんなにも夜が長いことを味わうのは、羽琉の退学を知った日以来だった。
羽琉が去ってから今日まで、時間があれば羽琉を探し続けた二年とちょっと。
そうだっと、ふと思いつきを叫んで布団から跳ね起き、「明日、行ってみればいいじゃん」と、呟いた。
バイトは休みなんだと、名案を発露した自分を自分で褒めてやる。
定休日でも店の場所を確かめることはできる。そうやって強引に自分に言い聞かせると、羽琉との再会に思いを馳せていた。
我ながら単純だなと思ったけれど、明日になれば羽琉の働いている店に行ける。羽琉に会えなくても、羽琉のいる景色を想像することができる。
そう思うと、興奮してまた眠れなくなったけれど、キーホルダーを握り締めていると、いつの間にか眠りについていた。
会いたくて仕方ない、羽琉との感動の再会を夢見て。
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