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第14話 その熱を宥めよ
ネフェルが呼ばれた。
ネフェルは、メニ候から「セティ様の発情の熱を宥めよ」と言われ、ここへ来たのだ。
それだけではなく「それ以上の事は許さない。無論、そなたの精をセティ様の中へ出すのは論外。決して許さない」と、強く釘を刺された。
つまり、道具として呼ばれた――それはネフェルにも理解できた。
が、それでもいいと思った。どんな形であれ、自分がセティの熱を宥められる。他にそれをできる人がいないから、自分が呼ばれた。必要とされたのだ。
愛する人をこの腕に抱ける。触れたくても触れられない尊いお方。姿を見るだけ、声を聴くだけで満足だと、思っていた人を、この腕に――。
セティの部屋に入る前から、香しい匂いにネフェルは、己もヒートを起こしそうになる。しかし、懸命に理性を振り絞る。
ヒートを起こせば、己の欲望を抑えられなくなる。
セティの熱を静める――それだけが自分に課せられた役目。
ネフェルが部屋に入ると、護衛の近衛兵五人が続く。彼らは、ネフェルが役割以上のことに及ばぬよう、見張る役目。無論、全員ベータ。
そして、侍医とヘケトも残り見届けることになる。
ウシルスは、部屋にいる全員を見渡すと、アティスと共に部屋を出る。
「ネフェル、ネフェル来てくれたのか」
ネフェルが近づくと、セティはすがりつくようにして言う。その顔は赤く色づき、煽情的だ。
「ああっ、抱きしめて……強くだ、強く抱きしめて」
ネフェルはセティを強く抱きしめる。華奢な体は柔らかく、かなり熱い。
愛する人、心の底から慕う人を、今抱きしめている。最高の喜びを体中で感じる。
ああーっ、セティ様! 愛している! この身を捧げても悔いはない。
セティはネフェルを見上げ、その唇を求める。
ネフェルは応えた。清らかな声を発する唇。声を聴けるだけで幸せだったその唇を、ネフェルは丹念に味わう。
「ああっ」喘ぎを漏らしセティが唇を離す。濡れた唇は、煽情的で、余りに魅力的で吸い付きたくなるが、少しの戸惑いを覚える。
が、再びセティから求めてくる。
「ネフェル……ネフェルが欲しい……早く、早く抱いて」
ここまで求められたら……ネフェルは意を決してセティを抱きしめる。
甘い唇を味わいながら、それでも遠慮がちに、セティの体に触れる。なめらかで、熱を帯びている。発情の熱だ。
ネフェルの掌はセティの体を優しく愛撫する。
セティはもっとと、強請るように体を摺り寄せる。セティの秘所から溢れる蜜が、ネフェルの体に滴る。
アルファを、ネフェルを求て、蜜が溢れているのだ。ネフェルは、その秘所に手をやると、指が吸い込むように入る。
指を増やし、そこを刺激するように突いてやる。
これで、満足してくれないだろうか……ネフェルのものは、固く勃ち上がっている。しかし、そこまで許されるのだろうか……。
セティは与えられる刺激に、体を仰け反らせ「ああーっ……あんっ」断続的に喘ぎを漏らす。
だが、セティの体はもっと強い刺激を求めている。指では満足できない……それはオメガの性。
「ネフェル……ネフェルが欲しい……焦らさないで……早く欲しい」
このままでは、生殺し状態なのは明らか。ネフェルは侍医に視線を送る。侍医は、静かに頷く。
それがネフェルの役目ではある。しかし、オメガを、セティだけを極みに上げ、己の精の放出は許されない。極めて強い精神力がいるが、成さねばならない。愛しいセティのためなのだから。
愛しい! 欲しい! が、それは許されない。
ネフェルは、己の勃ち上がったそれをセティの秘所につんと当てると、待ちわびていたかのようにつるっと受け入れられていく。
「ああーっ……ネ、ネフェル……ああんっあーっ」
セティの喘ぎが甘さを増す。
ネフェルにとっても、セティの中は熱く極上の気持ち良さ。ネフェルはセティを抱きしめ、その心地良さを味わう。
この思いを与えられただけで幸せだ……セティ様! 私の身も心もあなたのもの。
セティの体が強請るように動く。更なる刺激を求めているのだ。
ネフェルはゆっくりと引き抜くと、再び挿入を繰り返す。奥をぐりっと突くように刺激してやる。
「ああーっ……ネフェル……ああんっもっと……もっと」
セティは極みへと向かっている。ネフェルは抽挿を早く激しくする。
セティが仰け反りながらも、ネフェルの背を強く掴む。爪が食い込んでいるが、ネフェルは更に奮い立つ。
渾身の力で突き上げると、一瞬、セティの動きが止まる。そして、痙攣したように震え、ネフェルへと倒れこむ。
セティは極みへと昇り、自失したのだ。
ネフェルは、己のものを抜き、セティを横たえる。
役割は終わった。ネフェルは寝台を降りると、近衛兵に促され、さっと身を整えると部屋を退出する。
退出間際にセティを振り返った。名残惜しい……しかし、近衛兵に背を押され、急ぎ退出する他なかった。
ネフェルと入れ違いにウシルスが部屋に入る。
「気を失ったようだな。これで発情の熱は収まったのか?」
「はい、眠っておられるので収まったかと思います」
「そうか……勿論、最後まではさせなったか?」
「はい」
侍医の返答に、ウシルスは頷く。
セティは満たされたように、安らかな顔をしている。熱も引いたようだ。
ヘケトがセティの体を拭き清め、寝衣を着せる。そのセティをウシルスが抱き上げる。
「今宵は私の寝所へ連れて行く」
セティはまどろみの中で、誰かの胸に抱かれているのを感じる。
……うん、ネフェル……ゆっくりと目を開け、その胸の人を見上げると、兄のウシルス! セティはがっばと起き上がる。
「目覚めたか? どうした? ふふっ、不思議そうな顔をしているな」
セティは全く事態がつかめない。何故、私は兄の寝所にいるのか……昨日は、そうだ昨日は確かネフェルに……。
「あっ、あのわたくしは、昨日兄上の……えーっと……すみません覚えておりません」
「そうか、覚えていないから不思議そうな顔をしているのだな。そなたは昨日少し熱を出してな。その為かこの兄に甘えてな、だからここで寝かせてやったのだ」
セティはオメガに発情期があることを知らない。皆が、あえてセティに教えていないのだ。故に、セティは単に発熱したのかと思う。確かに、急に体に熱を帯びたような、それは覚えている。しかし、その後の記憶が無い。
ただ、ネフェルに抱かれたそんな思いはあるのだが、あれは夢だったのだろうか……。
「兄上にはご迷惑な事を……申し訳ございません」
「ここでは兄さまでいいと言ったろう。それに、弟が兄に甘えるのは当然のことだ。何も迷惑な事はない。これからも甘えていいのだぞ」
「兄さま……ありがとうございます」
やっぱり夢だったのだろうか……発熱で浮かされての。
日頃から、王子の立場として、ネフェルを近づけすぎるのは控えるようにと指摘されている。セティも気を付けてはいた。
もし、セティがネフェルに抱かれていたら、兄の怒りをかう。だが、今の兄は怒っていない。
やっぱり夢だったのだ。
セティは無理矢理自分を納得させた。
が、今日はネフェルの顔を見るのは、恥ずかしい。あの、夢を思い出すと思うから……。
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