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第37話 王妃待望論の熟成

 星の国では、国王ハーデスが事態の打開のために精力的に動いている。  妹のヘスティアを中心に、セティに会った人たちがその魅力を吹聴した。最初は意図的に仕向けたが、段々と自然に大きな流れになってきている。  ヘスティアは、兄のためというよりも純粋にセティの魅力に魅了されたのだ。セティが王妃になれば、なんと素敵な事だろうと心から思っている。  セティに直接あった人たちは皆そうだった。これは、セティを招待したハーデスの思惑が当たったと言える。  そしてハーデス自身は、権力の掌握を目指した。己の思いを貫くには、国の全権を握らねばならない。独裁を敷く国王になるつもりはないが、セティを王妃に迎えるには、全権掌握しか道はない。異論を唱える道をふさぐしかないのだ。  幸い若き側近たちも、日ごとにその存在感を増している。彼らが、ハーデスの手足となり精力的に働いているその結果であった。  今では、父の代からの重臣たちも国王の意向を無視することはできない。表立って、国王に異を唱える者はいなくなっていった。  ハーデスが、軍を完全に掌握したことも大きい。 「いつまでも王妃が空席ではいけない、早くお迎えしたいとの声は日増しに高まっております。遅くとも即位式までにはお迎えしないとと」  ペルディッカスの言葉に、ヘパイストスも同意して続いた。 「宰相はじめ重臣方もそう考えております。そして王妃は、陛下の思う方が相応しいと」 「それは、セティをということか?」 「はい、そうなってきております。皆、陛下に心服しております。今や陛下が若いからと侮る者はおりません。ゆえに、王妃は陛下が決めたお方こそ相応しいと。それが今の総論になりつつあります」 「王太后陛下は、完全に沈黙されていますし、他の候補を持ち出す動きもありません」 「失礼ながら王太后陛下は、最大の持ち駒をなくされましたし、これだけセティ様の評判が高まる中、他の候補を上げるのは勇気がいりましょう」  母である王太后は、エキドナの件がよほど堪えたのかほとんど公の場に出て来なくなった。ハーデスは子として、時折ご機嫌伺いに行くが、母からハーデスを訪ねることは全くない。  裏で何か画策してるわけでもなさそうだった。王妃の件で意思を表明することも無い。したくても出来ない、かもしれない。それだけの力は失っているのだった。  皇后として、世継ぎの生母として示した存在感を今は失っていた。単に国王の生母、それだけの存在であった。  王太后の沈黙は、ペルディッカスとヘパイストスにとって、今のところありがたい状態ではある。王太后が権力を無くしたとはいえ、動き回られると厄介ではある。なんといっても、国王の生母、それだけの敬意は示さねばならないし、何か仕掛けられても反撃するのも簡単ではない。ましてや、捕らえたりは出来ない。異母弟妹とは違うのだ。   「王妃にセティをと言う事か……それはセティが地の国の王子、オメガであるということも、受け入れられるという事か?」 「はい、セティ様が陛下の運命のお方ならと」  宰相たち、父の代からの重臣たちには、最初異論があったのは事実。地の国の王子でオメガを王妃になどとんでもないと。星の国からしたら、地の国は下界なのだ。つまり、上から見下ろす存在。しかも、オメガ。二重の意味で蔑む存在なのだ。  しかしそれも、ハーデスの力が大きくなるにつれ、段々とその声は弱まっていった。  ヘスティアたちの吹聴も大きかったが、頑として他の候補を受け入れない、ハーデスの頑固さにも負けたのだ。  絶対に我が運命の人としか、結婚はしない。王妃にするのは我が運命のお方という固い決意。  国王のこれだけ固い決意を前にして、異論を唱えるのは難しい。  つまり、星の国の王子セティを認めなければ、王妃は永久に決まらないと、皆が思うようになってきたのだ。  王妃不在は問題があり過ぎる。それこそ、世継ぎもままならない。ハーデスのことだ。側室も迎えない。幸いというか、オメガは子を産める。  こうして世論は徐々に変わっていったのだった。  ハーデスのセティへの思いの強さの勝利と言える。  こうして星の国では、王妃待望論が高まっている。何としても、即位式の前には王妃を迎え、国王王妃揃っての即位式にしなければならないと。  その王妃に迎えるのは、国王ハーデスの運命のお方である星の国の王子。  ハーデスは、機が熟してきたのを感じる。次の段階へと動く時だ。  ハーデスは、正式にセティへ求婚することを決意。  求婚は星の国へ招待した時とは違う。一国の王が、一国の王子へ正式な求婚。格式を立てなければならない。  使者もヘパイストスでは格が落ちる。  国王の正式な使者として、宰相をケトメへ遣わすことにする。

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