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第43話 王と王の会談

 ケトメ王国の国王トトメス、星の国の国王ハーデス。二人の国王は向かい合って席に着く。  余人を交えず王と王の会談は緊迫した空気に満ちている。 「ハーデス殿、誠に失礼ながら、貴殿の親書を受け取りながら当方は何の準備もしていないのです」  つまり、半信半疑だったとトトメスは明かす。  それはハーデスにも理解できた。だから、自ら直接迎えに来たのだ。 「それは、余にも理解できますから、今回突然ではありますがこうして来訪いたしました。そして、セティ殿が貴国にとってかけがえのない王子だということも理解しております。それを踏まえてセティ殿を我が妃にお迎えしたいと、お願い申し上げる次第にございます」 「ハーデス殿、これも失礼ながら率直に申し上げるが、セティを貴殿の妃に、正妃として迎えることには反対もあるのではござらんか」 「正直申し上げて、あるにはありました。しかし、それは全て過去のことにございます。今現在は、我が国挙げてセティ殿を王妃として迎える機運に満ちております」  そう言って、ハーデスは傍らに置いておいた箱から首飾りを取り出す。 「これは我が国の王妃に代々受け継がれる首飾りでございます。先の王妃である我が母が、先代の王妃から受け継いたものを、セティ殿にお渡しするようにと託されました」  それは、ハーデスの母王太后も、セティを認めたことの証左になる。  王太后はセティを王妃にすることを反対していると聞いていた。セティが星の国へ行った時も会っていないと。だが、それはハーデスの言葉通り過去の事になったのだろう。  そしてトトメスは、首飾りの豪華さに息を吞む。豪華なだけではなく、威厳も感じさせる輝きを放つ。王妃に代々受け継がれているとは事実なのだろう。 「これをセティに……」 「はい、是非余から直接お渡ししたい。この首飾りを身に着けるのは、我が星の国にとっては、王妃の証であります」  ここまで言われるとハーデスの本気を認めないわけにはいかない。  一国の国王がこうまでして、セティを王妃にと求めている。その事実は重い。  トトメスは、暫し沈黙した。ただ沈黙したのではない。深く考え込む。息詰まるような時が流れる。  ハーデスは、トトメスが口を開くのを静かに待った。今、ハーデスが出来ることは待つことだけ。 「余からセティの気持ちを確認したい。その後、貴殿とはもう一度会いたいが、承知願えますかな?」 「もちろんにございます」  王二人の会談は、一先ず散会となった。  トトメスは、会談の場から直接王子の宮へ向かった。セティの気持ちを直接確かめたかったのだ。  父の来訪を知ったセティは驚き走り寄ってきた。 「父上!」 「セティ、ハーデス殿が来ているのは知っているのだろう」 「はい、父上はお会いになられたのですか?」 「ああ、今お会いしてきた。それで、そなたの気持ちを確かめに来たのじゃ」 「わたくしのハーデス様への気持ちでしょうか」 「そうじゃ、ハーデス殿はそなたを王妃に迎えたいと、自ら来られたのじゃ。セティ、そなたはどうしたい? 父に正直な気持ちを聞かせなさい」  ああ! やはりハーデスは約束を守って下さった! セティは嬉しさで胸が一杯になる。 「父上、わたくしはハーデス様の許へ参りたいです。ハーデス様を心からお慕いしております」  ハーデスがネフェルとしてここにいた時から、慕っていた。セティはハーデスを心から愛している。 「セティ、ハーデス殿の王妃になるということは、この国から離れるということじゃ。それは分かっておるか?」 「はい、分かっております」 「ハーデス殿へ嫁いだら、二度とこのケトメ王国の地は踏めぬかもしれぬ。そなたに、それだけの覚悟はあるのか?」  セティは現実を突き付けられた。父の言葉は厳しいが、事実である。ケトメ王国と星の国は、文字通り天と地である。  自分を優しく育んでくれた両親と姉兄。この温暖で優しい気候のこの国。セティを愛してくれて、そしてセティも限りなく愛している。  こみ上げる思いに、セティの胸ははち切れそうになる。涙が溢れ出る。 「ち、父上……もっ……申し訳ございません。セティは父上母上、そして姉上兄上を……こ、心からお慕いしております。こ、この国も愛しております」  父トトメスは、泣きながら必死に言い募るセティを抱き寄せる。  セティは温かく大きな父の胸を涙で濡らす。 「もっ……申し訳ございません。だけど、セティはハーデス様に嫁ぎたいと思います。どっ、どうかお許し下さい」  漸くセティは言いたいことを全部言い切る。  この国を離れることは身を切られるように辛い。けれど、ハーデスと会えないのはそれ以上に辛いのだ。  ハーデスの許へ行けるなら、いばらの道でも行ける。そう思えるのだった。  セティが泣きながら言い募る思いは、父にもよく伝わった。  セティの家族や国に対する愛も本物だが、ハーデスに対する思いも本物なのだ。  ならば、認めてやらねばならない。それは、国王としてより、父として最愛の子に対する深い情愛であった。 「そうか、そなたの覚悟ようわかった。ならば、ハーデス殿の求婚をお受けしよう。それで良いのじゃな」 「はい、父上ありがとうございます」  その後トトメスは、求婚を受託することを決定事項として王妃とアティス、そして王太子ウシルスに告げる。  ウシルスには受け入れがたい事ではあるが、父が国王として決定したことには従わねばならない。渋々ではあったが了承した。 「ハーデス殿、お待たせして恐縮じゃった。貴殿の申し出受託させていただく。ただし、先ほども申した通り、何の準備もしておらぬのです。セティを送り出す準備を整える時間をいただきたい」 「ありがとうございます! お受けいただき大変光栄にございます。勿論にございます。然らばどれ程の時間が必要で? 当方の事情を申し上げると、即位の式典を王妃と共に臨みたいと考えております。ゆえにあまり長くは……」  星の国では既に準備万端整えられているのが察せられる。セティを迎えて、直ぐに婚姻を結び、揃って即位式、そういう段取りなのだろう。 「三月……でどうですかな?」 「三月、了承しました。三月の後、余が再びセティ殿をお迎えに参ります」

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