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第48話 王妃になる
飛行船が星の国へ到着する。
セティがハーデスのエスコートで飛行船から出ると、大歓声に迎えられる。その歓迎ぶりに、セティは驚くと共に感激する。
ハーデスに伴われ王宮へ行き、初めて王太后と対面する。初めは硬い表情だった王太后もセティの魅力に次第に表情を和らげ打ち解ける。
王太后の笑顔を見てハーデスは、改めてセティは王妃に相応しい人と思う。母の朗らかな笑顔を見るのは久しぶりなのだ。正にセティの魅力、人柄ゆえだろう。
その後ハーデスはセティを王妃宮へと案内する。そこには、ケトメ王国から先乗りした従者たちもセティの到着を待っていた。星の国側の者たちと共にセティのために準備を整え待っていたのだ。
「あなたのためにあなたの好みをケトメの者たちに聞きながら準備しました。今日は客殿で兄君方と過ごして頂くが、明日からはここがあなたの住まいになります」
その心遣いにセティは感激する。
「ハーデス様、ありがとうございます。あまりに豪華でわたくしには分不相応でございます」
「とんでもない、ここは王妃のための宮ですから当然です。あなたには何不自由なく過ごしてもらいたいと思っている。何か不足があるなら直ぐに取り計らいます」
セティは周りを見回す。ケトメの母の宮よりも格段と豪華だ。ケトメも近隣の国と比べれば豊かな国だが、星の国はそれ以上のようだ。
明日はその星の国の王妃になる。セティは客殿で姉兄と明日に備えるため、早めに床へ就いた。しかし、昨日からの目まぐるしさに中々眠ることはできなかった。
客殿の控えの間でセティは、星の国が用意した婚礼の衣装を身に着ける。オメガ男性が王妃になるとのことで、代々の王妃の衣装を基に、特別セティのために工夫されたものである。そこはケトメと同じ考えである。
「まあーっ、素晴らしいわ! これだけ豪華な衣装に全然負けていない。よく似合っているわよ」
「豪華な衣装がセティの引き立て役になっている。セティきれいだよ」
姉と兄の称賛にセティは頬を染める。自分では分不相応に思える豪華さだ。でも、似合うと言われたらそれは嬉しい。
その後セティは、姉と兄に付き添われ聖宮へと向かう。
星の国の聖宮は、ケトメの大神殿と同じように星の国の神々を祀る場である。結婚の儀式、そして即位の儀式など重要なこと全てをここで執り行われるのだ。
今日も結婚の儀式に引き続き即位の儀式が執り行われる。セティは、ハーデスに嫁ぐと同時に王妃に戴冠するのだ。
聖宮に着くと、そこには既に多くの国民が新王妃を一目でも見ようと集まっていた。
セティが馬車から降りると大歓声が起こる。余りの大きさにセティは戸惑いつつ軽く会釈しながら聖宮の中へと入る。そのはにかんだ姿が好ましく喝さいが起こるのだった。
聖宮で儀式のあらましの説明を受け、終わった頃にハーデス、そして王族や重臣たちが続々と到着する。
「おおーっ! 思った通りだ! よく似合っている、素晴らしくきれいだ!」
「ハーデス様」
ハーデスの素直な称賛にセティは恥ずかし気にうつむく。そんなセティが一層愛らしくハーデスは満面の笑顔。
「代々の王妃の装束は男性のセティには似合わぬと思ってな、特別にあつらえたのだ。どうだ皆、素晴らしいだろう」
ハーデスに促されなくても、皆セティの魅力に感嘆している。セティのために考えられた新しい装束の素晴らしさにも感心している。
皆が口々に褒めたたえるのを、セティはいたたまれない気持ちになる。そこがセティの長所でもあり、それを分かっているハーデスは愛しさが増すのだ。
その後祭壇の前に移り、聖宮の長である、聖主によって結婚の儀式、引き続き即位の儀式が執り行われた。
聖主から王妃の冠を頭上に頂く。星の国の王妃の誕生である。
新王妃セティは、国王ハーデスに伴われ聖宮のバルコニーに出る。すると見下ろせる地上には人々がひしめくように集っていて、ハーデスとセティが姿を現すと大歓声が起こる。
国王陛下万歳! 王后陛下万歳!
沸き上がる歓声。セティは驚きと感激で体が震えてくるのを感じる。そんなセティの背にハーデスは優しく手をやり、歓声に応えるように手を振る。そしてセティの頬に口付けると一際大きな歓声が起こる。正に大喝采が起こるのだった。
「両陛下へ申し上げます。おそらく二十万人ほどの人々が参集しております。これほどの人が集まったのは空前のことであります」
ヘパイストスの報告にハーデスは満足気に頷く。
国民が若く魅力に溢れた国王王妃を歓迎している。国の未来は明るい。
「セティ、国民は皆あなたを歓迎しているのです。セティにはそれだけの魅力がある。さすが我が運命の人ですよ」
これほどの幸せがあるだろうか。セティはこの感激を生涯忘れない。そして国民の歓迎と期待に応えるため、王妃として懸命に励んでいこうと心に誓うのだった。
事実セティは、オメガ男性として初めて王妃の位に就いた確かな前例となる。それはセティのたゆまない努力の証であるのだった。
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