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第57話
「社長、朝です。起きてください」
「んー、」
伸ばされた腕は俺を抱え込んで、いっきに社長との距離が近くなった。
「、、んむっんんぁあ……はぁ」
会長みたいに荒々しくない優しいキス。
「魅弥、好きだ。付き合ってくれ」
どうせ
「俺を会長と別れさすためだろ……」
社長の驚いた顔を見てから、心の中だけでとどまらず、声に出ていたことに気づいた。
「魅弥……なんで………」
もう確定した。
社長が俺のことを本当に好きかもしれないという馬鹿みたいな可能性はやっぱりなかった。
「そうでしょう?それ以外に理由はありませんよね。」
「いや、魅弥っ俺は……」
フォローするならちゃんとしろよ……
何回いらないと言ってもくれていた「好きだ」を今はくれない。
本当にお前のことが好きだとかなんとか言って俺を信じさせてよ。
嘘で、いいんだから。
「社長は、何度も私に好きと言ってくださいましたよね?」
「ああ…」
はじめて俺から社長にキスをした。
気持ちも何もかも一方通行のキス。
好きな人とのキスは甘くとろけるのではなかったのか?
ただただ苦いだけだ。
ははっと自嘲気味な笑みがこぼれた。
社長をベッドに無理やり倒す。
昔やっていた護身術のおかげで、体格のいい社長は簡単に倒れた。
「ねぇ、社長。身体があついんです。少し、付き合ってください」
もう、戻らない。
戻れない。
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