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番外編◆もしもの世界のBOX 1

【もしもの世界のBOX】 ◆本編90『あいつの隣にいさせてくれ』 茶太郎の発言よりパラレルワールド 茶太郎 中学1年生(11歳) マイペース テッド 小学1年生(6歳) おとなしい子供  ***  今日はデルアモっていう、家から少しはなれたショッピングモールに家族でやってきた。「俺は単独行動がいい」と言えばいくらか小遣いを持たせてもらえて、しばらく解散になった。  姉ちゃんと母さんは服を見て回るんだって。俺は服にもアクセサリーにも興味ないから、|おもちゃ屋《Game Stop》でミニカーを見て回った後はすっかり退屈になって適当にぷらぷらしてた。 「……さて」  そろそろお腹が空いてきたものの、ちょうど昼時だからどこのレストランも混んでる。あんまり甘いモノは好きじゃないけど……ハワイアンドーナツの店が目の前にあったから、エスニックな食べ物は好きだしマラサダをひとつ買ってみることにした。 「ひとつだけでいいの?弟くんの分は?」 「え?」  店員さんの発言にビックリする。視線を追いかけて振り返ると俺の真後ろに小さい男の子がいて、直後に足にぎゅっとしがみつかれた。 「いや……えーっと、ひとつでいいです」  とりあえずさっさとドーナツを買ってから、その子と手をつないで空いてるベンチに腰掛けた。 「どうしたの?」 「……」 「迷子?」 「……」  まあ迷子だろうな。4歳くらいかな。怖くて話せないのかなと思ったけど、どうもぼんやりしてるだけで別に怯えているようには見えない。 「うーん……ゲストサービス行こっか」  握った手をはなしてくれそうにないから、俺はそのままその子を引っ張って近くの案内所に向かうことにした。  右手にドーナツの袋を持って、左手を知らない子とつないで歩く。泣き出さないか心配だったけど、うんともすんとも言わずに大人しくついてきてくれた。 「お父さんとお母さんと一緒に来たの?」 「……」  話しかけても返事はない。大人しい子だな。男の子だと思うけど、なんか可愛らしい。 「あのぉ」 「はい、こんにちは」 「この子、迷子みたいで」 「あら!連れてきてくれたの?ありがとう」  案内係のお姉さんがカウンターから出てきてくれてその子を預かろうと手を伸ばしたけど、サッと俺の後ろに隠れちゃった。 「どうしようかしら、大人の人は怖い?」 「ねえその子さっきノードストロムから連絡があった子じゃないかな」 「そうね、見た目の特徴も一致するし」  ノードストロムって、デパートのエリア?ここからじゃ、けっこう遠いと思うんだけど……。 「ひとりで歩いてここまで来たの?」  振り返ると小さい手で服をきゅっと掴まれた。親は心配してるだろうな。こんな小さい子なんだし。 「……」  俺の背中にしがみついてるその子を見てると、なんだか放っておけなくて。 「あの、すぐお迎えが来るなら、俺いっしょに待ってあげるよ」 「えっ……本当?ごめんね、ありがとう」  *** 「ねえ、ドーナツ食べる?」  迷子センターに連れてきてもらって、壁際のベンチに並んで座る。その間も手はずっと繋がれたままだった。こんな小さい子と手をつなぐのは初めてで、悪い気はしないけどなんだかむずがゆい。 「甘いの好き?」 「……」  俺あんまり好きじゃないから、ぜんぶ食べてもいいよ。と袋からさっき買ったマラサダを出して口元に差し出してあげるとパクリと食べた。  食べさせてからアレルギーとか大丈夫だったかなって心配になったけど、ほんのりうれしそうに見えたから俺もうれしくなっちゃった。 「あれ、もういい?」  もう少し食べた所で口についてた粉砂糖を拭いてあげてると急に膝に頭を乗せられてビックリした。 「食べたら眠くなった?」  ベストポジションを探すようにモゾモゾ動かれて、ズボンに砂糖がつくと思ったけど、まあいいか……と黙っておいた。落ち着いたらまた手を掴まれた。  ***  それから10分くらい経ったかな。 「テッド!ああ良かった……っ」  空いてる方の手で膝の上にあるサラサラの髪を撫でてたら、たぶんお父さんらしい男の人が走ってきた。この子、テッドっていうらしい。俺の膝の上ですやすや眠っている様子を見てすごく驚かれる。 「まさか、眠ってる……?」 「え、うん」  テッドはその人の声に反応したのか、パッと体を起こした。 「連れて来てくれてありがとう。テッド、目を離してごめんな。さあお母さんも心配して待ってるから、早く戻って顔を見せよう」 「……」  そう言ってその人は手に持ってた|耳当て《イヤーマフ》を着けさせようとする。でもテッドはイヤがるように俺に抱きついて、頭をぐりぐりとお腹に押し付けてきた。 「わ、わっ」 「あの……テッドとはじめましてだよね?」 「うん」 「信じられないな……」  人見知りなのかな。俺はなんだか気に入られたみたい。 「この子、音が苦手なの?」  クラスにも同じようなのを使ってる子がいるから知ってる。これは耳の良すぎる人が生活しやすいように使うやつなんだ。  だから、つながれたままの手をそっと外して、その両耳をふわっとふさいであげた。テッドは一瞬ビックリしたみたいにふるえたけど、イヤがらずに俺を見つめてきた。 「ねえテッド、俺は茶太郎っていうんだ」 「……」  くりくりの大きな青緑色の瞳がこぼれ落ちそうでドキドキした。 「きれいな目だね……」 「ありがとう、茶太郎くんは中学生?」 「うん。いま1年で……もうすぐ2年。この子は?」 「6歳、小学1年生だよ」  そっか、小学生だったのか。もっと小さい子に見えた。 「俺、少し遠くから来てるんだけど、たまにここに来るよ」 「……」  じっと見つめられるとなんだか胸がきゅっとして、やわらかいほっぺに思わずキスをした。 「ね。また遊ぼう」 「う」  お父さんに抱き上げられてもテッドは泣かなかった。ぐずるかなと思ったけどアッサリしてて、なんだか俺の方がぽっかりさみしくなる。 「本当にありがとう。この通り、まだおしゃべりが出来ないから……どうなる事かと思ったよ。改めてお礼もしたいし、テッドも君のことが好きみたいだから、迷惑じゃなかったら連絡してほしい」  そう言ってその人は名刺を渡してきた。 「こっちの番号が個人的な携帯につながるんだ。連絡待ってるよ」 「わかった」  なんだかソレがとても大事なモノな気がして、俺はその名刺をしっかりとズボンのポケットの奥に入れた。 「また会おうね、茶太郎くん」 「うん。バイバイ……テッド、テッドのお父さん」  手を振るとまたじっと見つめられる。俺は二人の姿が小さくなってやがて見えなくなるまで、なんとなくその背中をずっと眺めてた。

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