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番外編◆幼馴染の世界のBOX 単発

【幼馴染みの世界のBOX】 高校生茶(17)中学生撃(12) ※舞台は日本 ※センシティブな表現アリ ※無理矢理描写アリ  ***  夜中に目を覚ますと服の中に手を突っ込まれてた。一緒に寝てた幼馴染みが寝ぼけて抱きついてきてるんだろうか? 「ん……シュート……?」 「……」  そのままモゾモゾと胸元や性器を撫でられて慌てる。まだ子供のシュートにはこんなコト教えてない。 「おい、やめろ!ショット!」  手を振り解こうとしても力が強くて無理だ。耳元で「おれに会いたかったろ」と囁かれて睨みつけた。 「そういう言い方をするな!」  俺の可愛い恋人は口が利けない。でもこうして眠っている間だけ、時々人が変わったように喋り出して乱暴してくる時がある。 「茶太郎……」  首を舐められてゾクゾクする。 「う……っ」  こいつは俺が本気で殴ったり投げ飛ばしたり出来ないのを知ってて無遠慮に肌に触れてくる。こうして襲われるのは初めてじゃない。 「あ、離せっ、やめろ!待て……っく、う」  服を捲り上げられて腹や胸を舐められる。頭を押し返そうとしてもビクともしない。それどころかまだ未発達の体のくせに、無理やりフェラさせられて、無茶苦茶に犯される。 「大きい声を出すなよ」 「ふっ、あ、あっ、あっ」  気を失いそうになりながらも首に噛みつかれそうになって手でガードした。その後の記憶は曖昧だ。  あんな風に抱かれた後はいつも失神しちまって、後処理もなく服を戻されてる。だから今朝も酷い気分で目が覚めたけど、穏やかな寝顔で俺にくっついて寝てるシュートを見ると起こせなくて、吐き気や腹痛を耐えて自然と目が覚めるまでその頭を撫でて添い寝した。 「……」 「シュート、おはよう」  隣の家で生まれたシュートは4歳くらいからもうずっと酷い扱いを受けてて、小学生の年齢になっても学校に通わず放置されてたからそのコトに気が付いた俺の母親がいつでもおいでと声をかけて、今ではすっかりここで一緒に暮らしてる。  小学校も中学校も、入学に必要な手続きは母親が勝手にやった。給食費なんかの必要経費も俺の家から払ってて、シュートの母親は鬱陶しそうな反応をするだけでノータッチだ。  初めてウチに来た時からシュートはずっと俺に懐いてくれてて、俺もシュートがずっと大好きで、ただの幼馴染みよりずっと特別で、俺たちは恋人同士……だと思ってる。 「あ、声……?寝てる時にノドが渇いて、ちょっと枯れちゃっただけだよ」  でも去年、突然こうして襲われてから、こんな事がもう何度も続いてしまってて。シュートは元から夢遊病ではあったんだけど、最初はフラフラ歩いたり、ちょっと暴れたりしてしまう程度だった。  それが段々、別人みたいに振る舞うコトが増えて……俺はまだそういう関係になるのは早すぎると思ってるし、シュートを大事にしたいから同意する気はない。  でもシュートは小柄なのに信じられないくらい力が強くて、俺の方が体が大きいのに、本気で抗っても簡単に押さえつけられてしまう。それに、俺はシュートに絶対に手を上げられないから、どうしようもなくて。  今でさえコレなんだから、成長期が来て俺より大きくなったりしたら、もう完全に敵わないと思う。  最近ではもう、シュートに気付かせない為に跡を付けられないよう自衛するのが精一杯で、早く終われ早く終われって念じて嵐が過ぎ去るのを待つだけだ。  それに、一度だけなんとか振り解くコトができて逃げようかと思った時、どこか悲しそうな目で見つめられて動けなくなった。こんな事を続けさせるのはシュートの為にならない。そう思ってるのに……。  この暴走は、親に拒絶されて頼れる人がいなくて、痛くて苦しくて辛い思いをたくさんしてきたシュートの心の叫びの部分なのかな、とか思っちまったんだ。  そんなコトをぼんやり考えてたら体を起こしたシュートが俺の首元を見つめててハッとする。 「……え、あ、コレ……あー、なんだろな、寝てる時に引っ掻いたのかも、大丈夫だよ」  そっと触れられて慌てて誤魔化した。とにかく、アレが何であれ、俺にとって一番大事なのは目の前にいるシュートなんだ。心配かけたくない。不安にさせたくない。意識のない間の出来事だとはいえ、自分の手で俺を傷つけてると知らせたくない。 「学校行く準備しような」  ぎゅっとハグをして布団から出る。そのままシュートをリビングまで連れて行って、俺はトイレに駆け込んだ。  ***  今朝そんな事があったせいか、授業中ついウトウトと眠気に襲われて、最悪な夢を見た。  両親と姉と食卓につくと「テッド!!」と若い女の金切り声が隣の家から響いてきて、何かを殴るような音がする。ドンと壁に何かがぶつかるような音と食器の割れる音も。  俺はまだ10歳の子供で、姉も一緒に心配そうな面持ちで両親を見上げてる。見に行ってくるよ、と父親が立つ。母親はタオルやお湯や消毒液の準備をする。  ねえ、なんなの?と姉が聞くけど、お前たちは自分の部屋に行ってなさいとリビングを追い出されて、まだ手をつけてない食事をそのままに俺たちはそれぞれの部屋に行くんだ。  やがてガタガタと玄関の方が騒がしくなって、しばらくすると音を消した救急車がランプを点灯させながらやってきて、ウチの前で停まる。俺はそれを窓から姉と一緒に眺めてて、不安で、胸が痛くて……。 「おい山代、寝るなよ」 「あっ……すみません」  名前を呼ばれて意識が一気に浮上した。気分が悪くて吐きそうだった。 「茶太郎?大丈夫か?」 「……ふっ……う」 「おい、茶太郎!」  口元を押さえてると隣の席のクラスメイトが声をかけてくれて、でも返事が出来なくて、俺はその場で吐いちまった。  大丈夫だって言ってるのに、今日はもう帰って休むよう言われて俺は昼前に学校を早退した。平日の11時、ガラ空きの電車に揺られながら考えても仕方の無いようなコトをぐるぐる考える。また吐きそうだ。 「……」  隣の家に住む外国籍の女は今もいて、物音がしたら家を出る時間をズラして会わないようにしてるものの、俺たち家族と街中でバッタリ会えば「誘拐犯」と睨みつけてくる。でもそれだけだ。警察にも児相にも駆け込まれたことはない。  旦那らしき男はとっくに出て行った。俺はもう顔も覚えてない。今は取っ替え引っ替え頭の悪そうな男を連れ込んでるコトも知ってる。両親には「あの人の事は気にするな」と言われてるけど、俺は憎くてたまらない。  大体、シュートが鉢合わせないようにだけは本当に気をつけてるとはいえ、こんなに近くに住んでたらいつ顔を合わせてしまうか分かったモンじゃない。  でも出て行くとなれば、シュートを連れて行かれても俺たちには引き留めようも無いんだって。だからこっちに干渉せず隣に住んでてくれるのが一番だと母親は言う。 「ただいま……」 「あら、どうしたの?」 「なんか気分悪くて、授業中に吐いたら帰された」 「熱は?」 「無い」  胃に優しいモノにする?と聞くから別に気にしなくていいと返事をして、モヤモヤする気持ちを取り払いたくて顔を洗ってから部屋に向かう。 「……あ、今日、俺がシュートを迎えに行くよ」  中学校の終わる時間まで寝よう。まだ人とうまく関われないシュートは保健室登校をしてて、いつもは母親が迎えに行ってる。  ***  珍しく俺が迎えに来たから、シュートは喜んで駆け寄ってきてくれた。 「学校楽しかったか?」  並んで歩いてると繋いだ手をキュッと握られた。中学校の制服を着てなかったらまだ小学4年生くらいに見えるから、周囲からは俺たちは仲のいい兄弟のように見られてると思う。  チラリとこっちを見てきた視線が不思議そうで、どうして俺が迎えに来たのか気になってるようだった。 「ああ、俺?今日はちょっと早く帰ってきたんだ」  本当は毎日送り迎えしたいんだけど、高校で電車通学になってからは無理になった。  表の玄関は隣の家と横並びだから運悪くタイミングが重なっちまわないように、シュートと一緒にいる時は通常の通行用ではない家と家の間の路地に入り込んで、家のキッチンの奥にある裏口から帰る。  それでも家の付近を通る時は常に緊張した。俺の感じてるストレスがシュートにも伝染するのを知ってるから、絶対に態度には出さないけど。  毎晩のように夢遊病の発作が出るわけじゃない。特に最近は落ち着いてきてるようにも感じる。でも頻度は下がったけど、その代わりに夜のシュート……分かりやすくする為に俺は"ショット"って呼んでるんだけど、ショットの態度はどんどん激化してて、あまり抵抗すると痛いほど噛みつかれる時も増えた。  嫌だとか思ってるわけじゃない。ただ、その行為を簡単に受け入れちまうコトがあいつの為になるとは思えなくて……落ち着いて話したいのに、眠っている間の更に少しの時間しか無いからか、ショットはいつも焦ってるような感じで、とにかく俺を組み敷いて、肌に触れたがる。  ***  そんなある日、また夜中に馬乗りになって服を引っ張られる感覚で目を覚ました。 「ショット!待て!」 「本気で嫌なら殴れよ」 「……ショット、俺はお前を殴ったりしない」  こんなコトはやめさせるべきだ。シュートの為にも……ショットの為にも。 「嫌だとか言ってんじゃないんだ。これは大切なコトなんだよ。こういう事を……こういう形で繰り返したくない」 「……」 「分かってくれ。"お前"が大事なんだ」  便宜上、別の名前をつけて呼んでるだけで、今目の前にいる相手が俺の大事な人だってコトは常に揺るぎない事実だ。それを俺が真剣に伝えるとショットは押し黙ったまましばらく固まっていた。怒らないか少し不安に感じつつ、頬に手を当ててみる。 「なあ……」 「……おれじゃなくて、アイツが大事なんだろ」 「言っただろ、お前とシュートは……!」  お前たちを区別するつもりなんか無いって、今までにも伝えてるのに。 「言っとくけど、アイツは一生あのままだから」  その言葉に心臓がヒヤリとした。 「い、一生……って」 「一生。アイツが自分でそう決めたんだ。もうこんな世界いらないって」  まるで他人事のように"アイツ"と口にするショットの瞳は泣きそうに見えた。 「自分と世界を切り離しちまった」 「でも……少しずつ変わってきてる」 「割れたグラスをくっつけたって、二度と元の姿には戻らない」  それは確かにそうだけど、全く元通りにはなれなくたって、また使えるように修理する事はできる。それにシュートはモノじゃなくて生きてる。そばにいて、支え続けたらきっと……いや、もし本当に一生あのままでいても、俺は……。 「おれはなんなの」  突然の言葉に思考が遮られた。 「……え」 「茶太郎だって、アイツが好きなんだろ」  俯いてるから表情が見えない。 「綺麗で、優しくて、純粋なだけのアイツが」  何か言い返そうとしたけど、それより先に抱きつかれて反射的に抱きしめた。 「わかってる。おれは……アイツが捨てた苦しみと、怒りと、憎しみだけを煮詰めて生まれた汚いモノだ。早く消えるべきなんだ」 「っあのなあ!消えていい感情なんかひとつもねえし、俺はお前とシュートを区別する気なんか無いって!」  怒りも苦しみも、消えるべきなんかじゃない。自分を守るためのモノだろ。そう言おうとして、腕の中でショットが震えてるのが分かって驚いた。 「ショット?おい……泣いてるのか?」 「……っふ……」  泣いてるところを初めて見た。俺は動揺してしまって、どうすればいいのか分からなくて、慌てて抱きしめてる腕に更に力を込めた。 「ふ……う……っ」 「ショット、落ち着け、大丈夫だから」  背中をさすると泣きながら名前を呼ばれて、痛いくらいしがみつかれた。 「はぁ……はぁっ、ちゃた……おれを、見て……っ、おれのこと、拒否しないで……!!」 「拒否してるわけじゃない!いっつもお前のことを見てるよ!」  酷く混乱してるのか、呼んでも俺の声が聞こえてないみたいだ。いつもの刺々しさが嘘のように、濡れた声で「茶太郎以外いらない」「茶太郎だけでいいから」と縋りつきながら繰り返される。 「殴られて……痛かったよ……」  それは初めて聞いた"弱音"だった。 「……っ!」  押し倒されてたままの体勢を入れ替えて、覆い被さるように俺よりずっと小さい体を全身で抱き込んだ。 「シュート……!」  こんな方法で俺の愛情を確かめなくていい。焦らなくても俺はずっとそばにいるから、もっと時間をかけて、きちんと向き合いたい。大丈夫だから、お前を愛してるからって、何度も何度も言い聞かせた。 「ネガティブな感情を押し殺さなくていい、それはお前を守るために必要なモノなんだ。辛い時は辛いって……助けてって言ってくれ」 「……」  そのうち俺にしがみついてた腕が突然力を失ってパタッとベッドに落ちて、気を失ったのか、眠ったのか……その頬にはまだ新しい涙が伝ってた。  ***  あれからシュートは夢遊病でフラフラ歩き出す事はあっても、話さなくなった。なんだか俺の方が夢を見てたような気分だ。でもずっとぼんやりしてたのが、少しずつ感情らしいものが垣間見える時が増えて、俺にだけはちょっとワガママな態度を取ったりもする。  ワガママな時や拗ねてる時に「こら、ショット」って呼ぶと少し嬉しそうにしてる気がする。母親や姉には不思議がられてるけど、これは俺たちだけの秘密なんだ。それが嬉しくてシュートのワガママをつい甘やかすんだけど、きちんと叱る時は叱れるように、俺も成長しなくちゃならねえな。  ちなみに今は俺が学校の宿題をしてるのを膝の上で見物してる。 「……」 「ん、どうした?」  まだほとんど吐息みたいなささやき声だけど、俺の名前を呼んでくれるようになった。ちゃた、って。 「なんだよ、呼んだだけか?」  もうすぐ終わるからジャマしちゃダメだぞって言うとシャーペンを食べようとするから仕方なく先に遊んでやるコトにした。やっぱり俺はまだまだコイツを叱れそうにない。 【幼馴染の世界のBOX 完】

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