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番外編◆初期構想の世界のBOX 1
【初期構想の世界のBOX】
◆基本設定
それぞれの性格や過去はオリジナルとほぼ同じ
オーサーとリディアとシュートが三人組
スラムで運び屋や賞金稼ぎをして暮らしている
◆茶太郎(26)
一般人、会社員、面倒見がいい、非力
運悪くスラムで絡まれた際、三人に命を救われる
何故かシュートに気に入られて追いかけ回される
◆オーサー(10)
超視力、頭脳担当、射撃性能◎、コレクター
チームを引率するリーダー、チートショタ
◆シュート(21) ※左目は見えてない
超聴力、射撃性能○、口が利けない(唸りはする)
大切な人の死(喪失)に対するトラウマがある
しかしその過去は誰も知らない
◆リディア(15)
超怪力、強いけど非戦闘員(運搬係)
ムードメーカー、共感性が低くサイコパス気味
***
次いつ来るのかと訊かれても、俺は"あの街"に用事なんか無い。もう行かねえっつってんのに、あの|娘《コ》もあの男もまるで捨てられた子犬のような顔をしやがるから。
「あーもー、なんで俺が……」
ああいう顔されると弱いんだよなぁ。なんでわざわざ休みの日に|こんなトコ《スラム街》に出てこなきゃなんねーんだ。
なんて思いつつ手土産まで用意しちまってる俺は本当にどうかしてンな。
「うわっ」
スラム地区に足を踏み入れるとすぐ、ガタガタのコンクリートに足を取られて転びかけた。俺の間抜けな声が寂れた街に吸い込まれて消える。
「ったく……」
地面に落ちてる空き缶を蹴り飛ばして、欠けたレンガの壁に描かれた意味不明なラクガキをぼんやり眺めながら歩いた。この辺りは治安が終わってるから、片手にドーナツ、もう片方の手はポケットの折りたたみナイフを握る。
「……お」
そしたらどうやって察知してンだか、すぐ"あの男"……シュートがフラリと現れた。俺の背中にぴったりくっついて、頭に顎を乗せられる。重い。
「わかったわかった」
歩きにくいよ、と文句を言いながら進んでいくと「あー!ちゃたろー!来てくれたの!」と騒ぎながらリディアとオーサーが現れた。
「お前らがうっせーからな」
「うるさいのは|コイツ《リディア》だけだろう」
声がデカいのは確かにリディアだけだけど、|こっち《シュート》もなんかうるさい。なんていうか、存在が。
「なあ、だから近いんだよお前」
「……」
なんで俺がこの辺りに来たってすぐ分かンだろ?いっつも真っ先に寄って来るんだよな。
「シュートはちゃたろーが大好きだから!」
「あ、もしかしてコレが欲しいのか?」
ドーナツ買ってきたんだけど、と見せてもシュートは相変わらず俺にくっついたまま無反応だが、リディアが素直に大喜びしてくれて気分が良い。「アジトで食べよう!」と手を引かれて歩き出した。
***
コイツらはスラムの端にあるボロい3階建ての廃墟ビルを占拠して暮らしてる。ここ、見た目はボロいけど、初めて入った時は驚いた。
1階はガランとした空間に廃材や割れたガラスがそのまま散らばって、剥き出しの階段だけがある。その階段を上がると、2階フロアに続く扉と3階への階段が続いてて、すげえ充実した設備が広がってんだ。
3階はプライベートルームらしくて入った事無いからどうなってんだか、まあ充実してるんだろう。そのまま階段の先にあるハシゴを登ると屋上。室外機と洗濯物を干すためのポール以外は何もなくて、柵すら無いから危ない。
でも夜間はシェルターみたいにしてある地下階で電池式のランタンを灯してるだけらしい。夜にここに来たことねえから実際に見たことはねーけど。
というわけで、そんな"アジト"の2階に今日もお邪魔してる。壁際に置かれたソファがいつの間にか俺の定位置になってた。
「……なあ俺のコト嗅ぐのやめさせてくれよ、頭のニオイ嗅がれて喜べるタイプじゃねーんだよ」
シュートはさっさとドーナツを食べた後は俺を抱えるように座って、ずっと頭のニオイを嗅いでる。フンフンと鼻息が耳にかかって鬱陶しい。
「シュートはちゃたろーが大好きだから」
「それは知ってるけどさ」
「久しぶりだもん、シュートさみしかったんだよ」
「平日は仕事なんだっつーの」
ドーナツもういいのか?と聞きながら口についてた粉砂糖を拭いてやる。
「……」
「お前が好きかなと思って多めに買ってきたのに」
じっと見つめられて思わず笑うとまた抱きつかれた。
「っはは、なんなんだよ」
コイツまじで人懐っこいよな、と言うとリディアが「そんなことないよ」と首を傾げる。
「だれかにキョーミもつなんて初めてだよ。シュート楽しそう。このごろはずっと元気なの」
「ああ、安定してるな」
「ずっと元気?」
今までコイツそんなに不安定だったのか?と聞いても何故かオーサーもリディアも素知らぬ顔をする。出会ってからこっち、俺はこういう姿のシュートしか知らないから調子の悪い様子が想像つかない。
「そうだちょうど良かった。茶太郎、少しの間|ソイツ《シュート》の世話を頼めるか」
「え、どっか行くのか?」
離れろよ、とシュートを押し退けながら聞き返すと「野暮用だ」とオーサーはリディアに自分を担がせて、俺の返事を待たずにもう出かける気満々みたいだ。
「コイツの足ならすぐに行って帰って来れる。そう遅くはならないから任せたぞ」
「任せたって言われてもなあ……別にいいけど」
キッチン横の窓枠に足をかける二人に近寄ると「子守りの謝礼はする」と言う。子守りって。
当然のように2階の窓から飛び降りて走り去る背中を見送って「じゃあどうする?しりとりでもするか」なんて冗談を言いながら振り返ると思ったよりシュートが近くにいて驚いた。
「なに、うわっ」
咄嗟に離れようとすると足がもつれて後ろ向きに転んだ。床と壁に体をぶつけてガタガタッと音が立つ。
「いて……なんだよ、おい?」
手が伸びてきたから起こしてくれるのかと思ったら、そのまま床に押し倒されて顔を舐められた。
「シュート……?おい、やめろよ」
デカい体の下から抜け出そうとしたけど、腹の上に座り込まれて首筋に舌が這わされる。突然の事に口から「ひっ」と間抜けな声が漏れた。
「なっ……何してんだっ、おい!」
体格差もあるから完全に抱き込まれるような格好になって、押し返そうと肩を掴んでもビクともしない。その時、耳元でグルル……とまるで猛獣が唸るような声がして首元に噛み付かれた。
***
「はっ、はぁっ……はぁっ……」
床に倒れてグッタリしてるとまた顔面を舐められたから震える手で身なりを整えてやる。そろそろオーサーたちが帰ってくると思うし。
「はぁ……ったく……はぁ、仕方ねぇな、テメーは……」
身体中に噛み傷が出来てあちこち痛い。服もビリビリにされちまったし。寝転がったままズラされたズボンを履き直したところで丁度タイミング良く扉が開かれた。
「シュート、ちゃたろー、ただいまー!」
部屋に入って来たオーサーは床に引き倒されてる俺の姿を見てすぐ状況を察したように額を押さえる。
「……茶太郎……」
「ああ、思った以上に大変な子守りだったよ」
そしてまだ俺にくっついてるシュートの胸ぐらを掴んだ。
「兄さん?どーしたの?」
「悪かった。まさかコイツが……」
オーサーが拳を握りしめたのを見て思わずその手を掴んだ。
「おいやめろ!そんな事しなくていいって!」
「襲われたお前が何故庇う」
「ちゃたろー、シュートとケンカしたの?」
ケガを心配するようにリディアが俺の腕に触れる。
「とにかく離れろ、この馬鹿が。お前は後で説教だ」
「……」
さすがにオーサーの怒りを感じ取ったのか、シュートは大人しく俺から離れた。
「傷を見せろ……この詫びは改めてする。俺の監督不行届だった」
「いや、俺も全然理解してなかったし」
シュートが俺に向けてる好意を、ガキが兄貴に懐いてるようなモンだと勘違いしてた。ただ、言葉はないだけできっとコイツなりに伝え続けてたつもりなんだろう。
それを言うとオーサーには「だからと言ってやって良いことと悪いことがある」と全否定されたが。
「あ!それに"未遂"だからな!?」
「なんだそうなのか」
俺も犯されると思って途中から覚悟を決めてたけど、文字通り全身を噛まれて舐められただけだった。ってかそもそも、性的な意味があったのか無かったのか……多分だけど、無かったんじゃないかな。途中から落ち着いてきて様子を観察してると、まじでただ俺に"触れたい"だけって感じがした。
まあさすがにその欲求が"ただの兄貴"に向けられるレベルの話じゃなかった事はわかった。
「とにかく、もういいよ。予想外ではあったけど……怒る気にはなれねぇんだ」
少し離れた場所でリディアに手を繋がれて大人しくしてるシュートを手招くと少し不安げに近くに寄って来たので頭を撫でてやった。
「落ち込むなよ、怒ってねえから」
「……」
スリ、と俺の手に頬を擦り寄せる仕草がまるで猫科の大型獣のようで笑う。
「ごめんね?ちゃたろーにケガさせちゃダメだよって後で叱っとくね」
「いいってば」
「そのお人好し、ほどほどにしておかなければそのうち命に関わるぞ」
「誰にでも何でも許すわけじゃねーよ」
「……どうだかな」
オーサーはまだ怒ってるみたいだったけど俺がヘラヘラとあまり気にしてないのを見て、深く考える事を放棄したみたいだった。
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