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二十一話 ※お馬鹿です。

 窓をカラリと開け放ち、天井から埃を払う。埃ってなんなんだろう。何処から発生するんだろうか。  ビー玉大の綿ボコりを払い落としていると、空中やら壁やらカーテンに埃がくっつく。掃除をしているはずなのに、散らかしている気がするのは何でだろう。 「やり方が違うのか? ネットの情報では上からやれって書いてあったぞ?」  吉永と話した翌日から、オレは早速、部屋の掃除を開始した。久し振りに入る自分の部屋は、良く見ると埃が溜まっていて、何だか少し湿っぽい。  締め切ったままの部屋は空気が淀んでいる。まあ、会社から帰ってきてから掃除してる馬鹿が悪いんだけど、本当なら日中の明るいときにやるべきだよな。でも、今気になっちゃったのである。 「あ、カーテン洗えば良いのか。なるほどね」  ネットで再度検索をかけ、カーテンを洗うことにする。ついでに、敷きっぱなしのシーツも引き剥がす。本格的に掃除を始めたものの、物が多いのは変わらない。部屋の荷物を壁際に寄せて、ベッドくらい使えるようにしなければ。 (晃が風邪を引くこともあるだろうし)  先日のようなことがあったら、今度は自分の部屋に戻れば良いのだ。 「しかし、使わないお道具とかどうしようね? 吉永パイセンみたいにレンタルスペース借りるか?」  遊びに使ったパラソルやら、テーブルやら、そういった小道具が部屋にはたくさんあるのだ。レンタルスペースを検索かけて見れば、月五千円ほどで借りられるようだった。 「む。月料金五千円か。安いようにも思えるけど、長い目で見るとやっぱ高いな」  短期なら良いけど、一年借りたら六万円だ。しかもオレって車を持ってないし、持ち運びを考えると現実的じゃない。 (この辺りって田舎だし、車ないと何処も行けない感じだもんなあ)  免許は持っているが、寮と会社の往復には必要ないため、完全なペーパードライバーになりつつある。免許を取ったばかりの頃は、ドライブデートなんかもしたもんだけど。 「……」  晃とドライブデートとかどうだろうか? ちょっと遠出して、美味しいもんでも食べて。ああ、日帰り温泉とかも良いよな。なんなら旅行でも……。 「……すけ」  鎌倉とかどうだろう。箱根も良いよな。富士山見ながら温泉とかも良いなあ。 「陽介、おい」 「ふえ?」  不意に肩を揺らされ、現実に引き戻される。振り返ると、戸惑った顔をして、晃が立っていた。 「お、晃。お帰り~」 「ただいま……何やってんの?」  今帰ったばかりらしく、晃の肩にはまだショルダーバッグが引っ掛かっている。 「おっ。お帰り~。なあ、晃って車持ってたりする?」 「は? 車なら実家に置いてあるけど」 「おおー」  良いじゃん良いじゃん。車があるならレンタカーじゃなくても大丈夫だな。そういえばコイツ、ホームセンターで大量に砂とかビーチパラソルとか買ってきたんだもんな。車も持ってるか。アホだな。 「……それで、これは何の騒ぎ? また何かやるの?」 「いやー、今のところアイディアナシだな。取り敢えずはベッド綺麗にしておこうと思って」 「……」  お。良いこと思い付いた。旅館っぽく改装して、旅館ごっことかどうだろう。いや、男子寮だしラブホテルもありか? ゲヘヘ。ラブホテルに招待して「お前ら出来てんだろ~」って弄ってやるの面白そう。 (んー。でも、いかにも『ラブホ!』って感じの内装って、どんな感じなんだろ。下手したらビジネスホテルっぽくなりかねないよなあ)  実はオレ、ラブホテルに行った経験がない。学生時代の彼女とは、お家デートが基本だったし。なんかそういうの誘うのって、恥ずかしいというか、勇気がいるというか。  ホラ、身体目的みたいに思われたらやだなー、とか。ドン引きされたら嫌だなーって気後れしちゃって、誘えたためしがないのだ。 (うーん。経験不足。晃はモテ男だし、普通に知ってそうだよなあ) 「なあ」 「ん、なに?」  いまだバックを背負ったままの晃を見上げる。 「ラブホってどんな感じ?」 「――っ、え?」 「やっぱネオンとかハデハデな感じなん?」  紫とかピンクのランプで、いやらしー感じになってんのかねえ。 「……今度、行ってみる?」 「ん? そうだなー。」  やっぱり、実際に行ってみるのが吉じゃんね。  やる気になったオレに対し、晃はやけにソワソワしていた。

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