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三十二話 もっと繋がりたくて
(晃相手に、こんなにドキドキすることになるなんてな……)
好きになる予感は、多分なかったと思う。人生って不思議なものだ。
晃の唇が、肌を撫でていくのを眺めながら、そんなことを考える。甘い痺れに身体を震わせ、吐息を吐き出す。緊張で指が震え、冷静な思考と興奮した脳とが、同時に入り混じる。初体験の時よりも、多分オレは緊張している。
オレの身体なんか、見たって撫でたって面白くないはずなのに、晃はやけに丁寧に、一つ一つ確かめるように触れて行った。太腿、膝とキスをされ、クラクラと眩暈がする。顔が良いせいか、晃の言動はなんだかやけに色気があった。
「あ、きら……っ」
ゾクゾクと身体を震わせながら、名前を呼ぶ。晃はチラリと視線をよこしたが、止まることなく愛撫を続ける。こんなに丁寧な抱き方をされると、気恥ずかしい。もどかしさに上体を起こすと、晃がやんわりと胸を押してベッドに押し返した。
「それっ……、擽ったいっ……」
「嫌そうには見えなかったけどな」
その言葉に、むぅと唇を結ぶ。嫌なわけでは、ない。オレの反応にフッと笑って、晃は一度深呼吸をした。それから、備え付けのローションを手に取る。ローションの風を切る晃の様子に、俺はゴクリと喉を鳴らした。晃の指は震えていた。
「……嫌だったら、しないから」
「嫌じゃねえよ。この前のは――違うから」
ハッキリとそう告げると、晃は少しだけホッとしたようだった。それから、意を決したように、指先で固く閉じた窄まりを撫でた。ヒダの数を確かめるような撫で方に、思わず顔を顰める。敏感な箇所ゆえの快感と、触れ方のもどかしさに身を捩った。
「だい、じょうぶ……、だからっ……」
「……ん」
促す言葉に、指先がつぷっと挿入される。異物が侵入する感覚に、反射的に足でシーツを蹴った。ローションのぬめりを借りて、指がぬるりと入って来る。
「っ――……」
顔を顰めたオレに、晃が「大丈夫?」と問いかける。
思ったほどの、嫌悪感も違和感もない。そこに何かが入っているという感覚こそあるものの、痛くも痒くもない、というところだ。
「あ、あは……、思ったより、平気……」
「……良かった」
強がりを言ったつもりはなかったが、そう言った途端、内部を指が搔き乱すのに、ビクンと身体を跳ねらせる。
「あっ、あ……」
晃は指を引き抜いたり、入れたりしながら、指を折り曲げたりする。内部をほぐすように、晃を迎え入れられるように、丹念に弄り始める。ローションと空気が混ざって、チュク、クチュとエッチな音がした。自分がされている方で、この音がしているのだと思うと、酷くいたたまれない。男として生きて来て、こんな経験をするとは思っても居なかった。
(でも、晃になら……、許せちゃうんだから……)
自分でも、大概だと思う。
指が二本に増やされ、こじ開けるように指を開いたりされても、文句のひとつも出てこない。むしろだんだんと、早く晃と繋がってみたいと思っている。
「はぁ……、っ、んっ……晃っ……っあ!」
カリっと、晃がソコを引っ掻いた。感じたことのない快感に、一瞬意識が白飛びした。
「はひっ……!? ひあ、あ……っ」
「あ……、ココ……?」
「いあっ! あっ! バカっ……!」
やっと見つけたと言わんばかりに、晃が口元を緩めてソコを刺激し始める。中から圧迫される快感に、何かがせり上がってくるような気がした。快感から逃れようと捩る身体を、晃が封じる。
「っあ、晃っ……! そこ、ばっかっ……!」
「陽介、気持ち良さそうな顔……。可愛い」
「ばっ、ばかたれっ……!」
チュ、とキスをしながら、晃はそれでも手を止めない。ガクガクと膝が揺れ、もうどうにでもなれと思い始めた頃、不意に指が引き抜かれた。
「ひぁっ!」
急に止められ、感情をどうしていいか分からなくなって視線をさ迷わせる。じわじわと湧きあがる快感を持て余しながら、指が居なくなってスースーする穴が弛緩するのを感じる。晃はゴクリと喉を鳴らし、コンドームの袋を破ろうとした。緊張しているらしく、何度か失敗しているのをボンヤリ見つめる。
「……カッコよく決めろって」
「多くを求めないで。所詮俺だから」
ようやくゴムを装着したらしい晃が、脚の間に入って来る。普段なら、そんな場所に侵入を許さないのに、もうそんな意識もなかった。ただ、されるがままに足を開かされ、先端を穴に押し付ける晃をボンヤリ見つめる。
額に張り付いた髪。顎を伝う汗。息を吐き出して上下する胸と、甘い吐息。
カッコ悪いところもあるけれど、やっぱりカッコいい。この姿を、オレだけが見ているというのは、少しだけ優越感がわく。
晃はハァと大きく息を吐き、小さな声で「入れるよ」と呟いた。
ヌプッっと、肉を割いて剛直が挿入される。指の時は気にならなかった質量が突き立てられる感触に、声にならない悲鳴が漏れ出た。
「――ぃ!」
晃は一瞬躊躇したが、きゅっと唇を結んで、そのまま腰を押し進める。異物を拒絶する生理的な反応を押し返すように、一番太い鈴口部分を一気に捻じ込む。ずるんと先端が入り込むまでに、オレはびっしりと汗を掻いていた。ゼェゼェと息を漏らし、何かに耐えるように浅く呼吸を繰り返す。
そこから先は、まだマシだった。ゆっくりと内部を暴くように貫く感触に、ぞわっと何かが這い上がって来る。それは、異物感と同時に、微かに湧きあがる快感だった。内部を侵されることへの仄暗い快感は、オレの精神へとじわじわと染み込んでいく。
やがて、すべて挿入しきったのか、晃がオレの上で小さく呻いた。尻に微かに下生えの感触が触れる。
「……大丈夫…?」
「…………解らん」
大丈夫かという問いかけに、オレは小さくそう返事をした。つながった箇所がやけに熱い。心臓がそこにあるみたいに、ドクドクと脈打っている。晃のモノを呑み込んでいるんだという感触と、腸壁の収縮を感じて、妙な気持ちになった。
これ、抜いて大丈夫なんだろうか。いや、入れておくのもどうなんだ案件なんだが。思ったよりもピッタリと、隙間なく埋まっている。ただ、挿入されている状態でも、仄かな快感はあった。これが男同士のセックスでの快感なのか。擦られたらどうなってしまうのか、ちょっとだけ怖い。
「……やっと、繋がれた」
フッと笑った晃の微笑みに、心臓がきゅんと跳ねた。
「……キス、して」
腕を拡げ、キスを強請る。晃の唇が降りて来て、オレの唇を軽く啄んだ。そのまま、舌を忍ばせ、互いに絡め合う。何度もキスを繰り返すせいで、ゆるゆるとつながった部分が擦れ合った。僅かな動作だというのに、やけに敏感に快感を拾ってしまう。
「んぁ、んっ……、あき、らっ……、あっ」
「……動いて良い? 良いよな……?」
返事も待たずに、晃が動きだす。ずるっと引き抜かれる感触に、ビクビクと身体を震わせる。感じたことのないような、酷い快感。性器を弄る時とは全然違う、異質な気持ち良さだった。
「あっ! あ、あっ……、待っ……」
「陽介っ……、陽介……」
再び挿入され、また引き抜かれる。何度も繰り返され、腸壁を擦られる。先ほど指で刺激されていた前立腺を晃が通り過ぎる度、良すぎる感覚に身を捩って耐えた。
(あ、これ、晃の大きさ、解る……)
自身を貫く晃に、その大きさを感じて気恥ずかしくなった。自身の形を覚えさせるように、何度も往復され、頭がクラクラする。
オレは腕を伸ばし、晃の背に腕を回す。
互いの深いところに触れ合うのに、服も、肉体も邪魔で。もっと繋がりたくて、一ミリの隙間も出来ないほどに肉を寄せ合う。多分今、一番深くつながっている。一番晃の、近くにいる。
「陽介……、好きだ……。好きだよ……」
「っ、あきら、……れもっ……、すき、あきら」
うわごとのように繰り返して、唇を寄せる。
晃がオレの中で弾けるのと同時に、オレは腹の上に白濁をまき散らした。
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