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第13話 元勇者の告白
「では、あの、魔王様。血の結晶を、いただきたいです」
シャムルが今更、もじもじしている。
「そういえばさ、シャムルは最初から魔王に会いに来たの? 倒す気で来てないよね?」
最初から手抜きで捕まって、魔印を付けられ、魔力が薄まっても抵抗しなかった。
むしろ自分から心臓を喰ってくれと願い出るくらいだ。
何でだろうと疑問に思った。
「私は……、魔王様が初恋でしたので」
「え?」
聞いていた魔王だけでなく、ヘルに突っ込んでいたランドールも動きを止めた。
シャムルが照れた顔で話し始めた。
「まだ幼い子供だった頃、リンデル王国の辺境が魔族に襲われた時、避暑でたまたま訪れていた私は、あの場所で初めて魔王様のお姿を拝見したのです」
「そう……なの?」
辺境や田舎など、リンデル王国に限らず色んな国で襲っているから覚えていない。
「魔王様はとても素敵でした。圧倒的な力で人間をゴミのように殺し、魔族たちに分け与えた。その場で貪る魔族に餌を与えるだけでなく、国元の民のために大勢の人間を生きたまま捕縛して持ち返った。率先して戦う姿はまさに王と呼ぶに相応しい。私は、一目惚れでした」
「一目惚れ……」
呆気に取られて呟いてしまった。
その場で喰わなかったのは、多分お腹が空いていなかったからだし、ある程度纏めて餌を調達しないと、もう一回行くのが面倒だからだ。
(惚れられるようなこと、してないなぁ)
しかもシャムルは人間だから、魔王の脅威に怯える場面だと思う。
「私は昔から、人間の価値観がわからない。血筋の何が尊いのか、誇りの何が大事なのか。殺していい人間と殺してはいけない人間の判断基準が理解できない。下賤な人間なら殺してもいい、生贄は尊いと平然とする王族の感覚がわからない。私の周りの人間は誰一人、私が求める答えを出せませんでした」
シャムルが魔王を見上げた。
恋する乙女のようなピュアな瞳が魔王を見詰める。
「魔王様は、そんな私の疑問に答えてくださいました。王族だろうとスラムの人間だろうと、平等に餌として喰う。魔族にとって人間は家畜、ただの餌。これ以上の命の平等はない。やっと真理に辿り着いたと、私の心は震えました」
シャムルが恍惚とした表情で語る。
なるほど、頭が良すぎて拗らせたタイプだなと、魔王は理解した。
(魔族にも、血肉が好きな子とか魂が好きな子とか色々いるからねぇ。一概に平等とも言えないけどなぁ)
肉付きの良い人間が好きなら肥え太った王族を好むし、スラム出身でも美しい魂を持っていれば美味い。
そういう違いはあるのだが。
多分、シャムルの言う平等は、そういう意味ではないんだろう。
「でも、魔力が高い人間は特別美味いって思うよ。シャムルの心臓、めちゃくちゃ美味しかったし」
恐らく、魔力の高さについては魔族の中で平等に価値が高い。
「それはアレですよね。霜降り肉は美味いというのと同じ発想ですよね」
「まぁ、そうなんだけど」
シャムルがぴしゃりと言い切った。
霜降り肉的なランク付けならシャムル的にはアリらしい。
「それから私は、魔王様にお会いする方法を必死に考えました。ただ会うだけでは対峙しなければならない。魔王様にお会いして、お仕えするにはどうするべきか。好敵手と認めていただき、魔王様にとり価値のある人間であると理解していただかなければならないと、思い至りました」
だから最初に触手で捕まえた時には、抵抗する素振を見せたのだろうか。
(最初から媚びてくる人間なんか、警戒するし好きじゃないけどね。恋心全開で嫌がる振りしてたのか。可愛いじゃん)
魔王に突っ込まれて、アクメ顔で連続射精しまくっていたシャムルを思い出すと、ニヤニヤする。
「魔王様に偶然でなくお会いするため、私は必死に鍛錬し、勇者となって討伐パーティを組織しました。やっと恋焦がれた魔王様の元に辿り着いたのです」
それが今回の勇者パーティだとしたら、魔王を倒す気など微塵もなく、ただ会いたい一心で一緒に連れてこられた他の仲間たちが気の毒だ。流石の魔王でもそう思った。
「魔王様を傷付けぬよう戦って、魔王様に認めていただける方法を考えていましたが。魔王様が最初から魔印を付けて奴隷にしてくださったので、私にとってはこれ以上の幸運はありませんでした」
だから魔王のちんぽをガン見してたのか、と思った。
魔王が気分で決めたメス堕ちコースは、シャムルにとって奇跡に近い幸運だったのだろう。
「ここに来てからも、魔王様はやはり私の理想の魔王様でした。外道だろうと聖人だろうと罪なき人間だろうとクズだろうと平等に餌! 平等に奴隷! 気分で命の扱いを決める己の感覚と価値観にブレがない! そんな魔王様を、私は愛してやみません」
シャムルの顔が完全に恋する乙女だ。
なんだか、可愛く見えてきた。
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