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猫の独白
少しだけ、"あの頃"の話をしようかと思う。
ちょっと暗い話になるけど、付き合ってくれないか。
これは俺とあの人が
どんな最期を迎えたのかっていう物語。
血生臭い真っ暗な夜、俺はあの人と出会った。
俺にとって夜は優しい世界だったけど、
あの人にとっては恐ろしい闇だった。
だから俺は、あの人の目になってあげたんだ。
それが俺とあの人の物語のはじまり……。
ーーー
俺たちは出会ってすぐ、
敵の罠にかかってしまった。
そんな俺たちは
仲間が次々と殺されていくのを
すぐそばで何も出来ずに
ただ見過ごす事しかできなかった。
朝が来て、太陽の光が俺の背を焼いた。
それからの事はよく覚えてない。
ただ、不甲斐なくて……。
ーーー
その後、俺たちは束の間の休息を得た。
生きてきた中で、一番幸せな日々だったかもしれない。
柔らかい布団に包まれて、温かいご飯を食べて……。
夜になったら、あの人とただ街を歩いた。
ーーー
でも、そんな世界は俺のために用意されたものじゃない。
それがわかってたから、心の底では寂しかった。
俺はまた戦場に戻った。
あの人とは別々の道を選んだ事、今でも後悔はしてない。
今度こそ仲間のために
出来ることを全てやり尽くす為に
この心に空いた穴を埋めるために
悲しさや、恐怖や、怒りを抱き締めて走った。
もう諦めろって言われても、そんな事できるはずがない。
最後まで、俺は……。
一体これが何のための戦いなのかなんて
わからないまま。
ーーー
気がつくと、また俺だけが守られていた。
こんな風に優しくされた記憶なんかない。
こんな暖かさを、どう受け止めて良いのかわからない。
あの人は俺に幸せを与えようとする。
そんなものいらない。
――それはあんたが受け取るべき幸せだったはずだろ。
ーーー
渡された手紙は読めなかった。
でも、そこに書かれている文字を
何度も何度もこの目で追いかけた。
それを見つめているだけで涙が出た。
どうしてこんな風にしかなれないんだろう。
――幸せになりたかったよ。
あの人と一緒に、ただ幸せな日々を生きたかった。
そんな事さえ願えないって事が
どうしようもなく、切なかった。
ーーー
俺は走った。
太陽に灼かれて、体が燃えるように痛かった。
でも、このまま死んでもいいと思ったんだ。
ただ、あの人に会いたかった。
少しでも力になりたくて、命を燃やした。
だけど大事な時に俺はいつも守られてばかりで…。
ーーー
ようやく出来た大切な仲間たちが
俺のために死んでいくのを、ただ見つめてた。
泣いて叫んでも全部奪われていった。
そしてとうとう、あの人さえも、俺のせいで。
俺はいつもこうだ。
誰かに守られて、誰も守れないで。
氷のように冷たい手に触れた時
ここがこの命の終わる場所なんだと悟った。
せめて少しでも痛みが和らぐように
猫のように寄り添った。
それは幸せな幻と勘違いするほど、
やけに静かで穏やかな時間だった。
――少しだけ待ってて。
――俺も、ちゃんと一緒にいくから。
ーーー
それから俺がどこで何をしていたのかは話せない。
だって、猫は自分の最期を誰にも見せないものだろ?
ちょっと湿っぽくなっちゃったな。
あの人が呼んでるから、もう行くよ。
思い出話に付き合ってくれてありがとう。
完
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