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第2話
北川くんは、ニコニコ笑いながら俺の両手首をギリッと掴んできた。ソファに深く座り込んだ形の俺の足の間に、グイグイと自分の膝を突っ込んでくる。
「ちょ……ッ」
俺がギョッと目を剥くと、目の前の形の良い唇から赤い舌が覗いた。
「元さんのその鋭い眼、たまんない」
こ、こいつもやっぱりか――――――――!
「って、おいおい! ヤダって、無理だって! 俺は」
「大丈夫、大丈夫。元さんにチンポ使えなんて言わないから」
「ふぇ………? ンンッ」
両手を拘束されたままいきなり唇を塞がれ、俺は目をシロクロさせた。
って、うわ! 舌がぬるりと入り込んできて………やべ、あったかい。なんかいい匂いするし。北川くんは俺の歯列をつぅーとなぞったり、上顎をペロペロ舐めたりしてきて、思わず背筋がゾクッとなる。
「ふ……っ、や、やめろ、って………ッ」
「かわいい」
か………?
「元さん、俺ね」
ようやく手を離してくれた北川くんは、自分の濡れた唇をぺろりと舐めた。その表情は、さっきまでの大人しそうな優男とは一変していて……。
「好きな子に、そーいう顔させるの、大好きなの」
そ、そーいう顔って………。
俺は真っ青になってガタガタ震えながら、背後のソファにかじりつく。
ちょっと待てよ。
俺、今までSっ気しか求められたことないし、セックスでもタチしかしたことないんだけど。
なんで今、ズボンの上から尻を撫でられているんだろう。
「お、落ち着け、北川くん」
「あー、もう、ホントだめ。元さんが俺の部屋来てくれるなんて………」
目の前の、突き刺すような視線が痛い。しかも、彼の表情がなんか熱を帯びてウルウルしているのは気のせいか。
俺は北川くんをどうにか正気にさせようと、早口でまくし立てる。
「あのね、言っとくけどね、俺タチ専門だからね。さっきも、あの里西っておっさん抱いてきたばっかだし」
彼は目元を赤くさせて、俺の頬をベローッと舐めあげてくる。
「ひいぃっ」
「こんな綺麗な三白眼で敏感な人は、こっちのほうが似合うでしょ」
返事をするより早く、北川くんは俺のズボンと下着を抜き取ってしまった。
ちょ、ちょ、ちょ………ッ!
「あ、ほんとに使ったことないんだね。綺麗な色」
「や、やめ………っ、きたがわく……っ」
流石に焦った俺は彼を押しのけようとしたが、北川くんは濡れたナイフのような目で笑う。
「元さんは、恋人にヒドくするのは好きじゃないんでしょう? じゃあ、ヒドくされるのは?」
「え、や……やだ、って。そこ、触んな……ッ」
「いじめられるのは?」
「ひぅっ」
指先に何か塗ったのだろうか、俺の襞をくるくるなぞっていたそれが、ずぷっと入ってくる。強烈な違和感に、俺は息を詰めた。北川くんはそんな俺に構わず指を何度も何度も抜き差ししてくる。
「お、俺は……ッ、Sでもないけど、Mでもないッ。……」
「そう? 無理やり指入れられた割には、とろけそうな顔してるけど」
と、とろけそうな顔って。
いつの間にか敬語も消えてるし。
俺はブンブンと首を振った。
「してない、してない……ッ。っていうか、こういうことしたいんなら、それこそ里西………ッうぁ、んッ!」
うわ、うわ、なんだ、今の俺の声!
北川くんはニヤニヤ笑いながら、俺の中の浅い一点をついてきた。指は二本に増やされていて、グリグリとそこばかり押し上げてくる。
「あ、…ひ……っ、北川く……ッ」
「あは、ピンポイント。勃ったじゃん」
「あ、ふあぁぁぁっ」
いつの間にか勃ち上がった前を、ピンと指で弾かれる。北川くんは嫌がる俺の耳の穴に舌を突っ込んできて、舐め回しながら指の動きを激しくする。
「言ったでしょ、元さん。俺は好きな子に、したいの」
す、き……?
耳元で、グチャグチャって音がする。北川くんの指が熱い。背筋がビリビリ痺れる。
「やだ、駄目、駄目だって………ッ。そこ、突かない……でッ」
あーーー、もう、なんかどうでもいい。
気持ちいい。
やばい、やばい、イキそう。
俺が自分のモノを擦ろうと手を伸ばすと、途端にむんずと手首を掴まれる。
「ぇ……?」
伸し掛ってくる影を見上げると、えげつない北川くんの笑顔。
もう快感の方に集中しちゃって頭がバカになっていた俺は「なんでぇ」と腰を揺らした。北川くんは俺の尻に突っ込んだ指の動きを止め、もう片手で陰茎を擦ろうとする俺の手を上から抑える。
「やだ、やだ、北川くん……ッ」
「えっろ……。これで本当に処女なのかよ」
「寸止めなんて酷いよぉ…っ。せめて北川くんに挿れさせて」
「駄目。つーか、こんな穴もってるくせして何言ってんだ」
「あああぁぁっ、イキたい……ッ。イキたいってば」
右手でも左手でもいいから、どっちか動かしてよぅ。
「はいはい」
途端に、北川くんは両手をパッと離した。
「え………?」
北川くんの体温がちょっと遠くなって、俺は泣きそうになる。ひどい男は「ははッ」と笑って
「この淫乱」
「ひああぁぁぁぁっ」
ズンッと尻にものすごい衝撃が走って、俺は思わず目の前の男にかじりつく。指なんかよりもっと熱くて太くて、中のいいところをゴリゴリゴリって押して………。
「あ、……あああぁーーーーっ。 き、……たがわ……っ」
「はい?」
「キ、ス………っ、キス、」
目の前がチカチカする。揺さぶられる度に射精感が高まって、俺はよだれでベトベトの口で、北川くんの唇にかじりついた。北川くんがグイグイ押してきて、体が曲げられて苦しい。
苦しい、けど。
なんで俺、こんなに興奮してんだろう。
「あんっ、あっ、あぁぁ……っ、中、すご……っ」
「そんなに俺のが良い?」
俺は何度もバカみたいに頷いた。
「うんっ、いい、……いいよぉ…っ! 気持ちぃ……ッ」
「じゃあ、もっと突いてって言って」
「え………ッ」
「北川くんのオチンポでいっぱい突いてイカせてって言ってみ」
「ええぇぇっ! なにそれ、どこのAVッ!?」
し、しかも、なんでそこで動きを止めちゃうの。
俺は北川くんの恥ずかしすぎる言葉を無視して、なんとか腰を動かそうとする。
そんなこと言うくらいなら、自分で動いてイッたほうがまだマシだ。
が。
「やだやだ~っ、腰、抑えないで……ッ。動かせてよ…ッ!」
北川くんは、両方の手でガッシリ俺の腰を掴んで抑えてきた。
「ほら、元さんくらいの淫乱なら言えるでしょ。言うまで動いてやらないから」
「な………ッ」
なんだかもう、目が回りそうだ。
そもそも、なんで俺は今こんなことしてるんだっけ。
なんでマスターの甥っ子に組み敷かれて、ずっぽりハメられて、焦らされて、焦らされて……………。
俺はブルブルと震えながら、北川くんの腕に爪を立てた。
もう、この子はさっきから……
「いじわる」
キュッと尻に力を入れると、北川くんがズンッと腰を進めてくる。
「ひぁんッ!」
「くっそ………、天然かよッ」
急に激しく中をこすられて、俺は涙を浮かべて声を上げる。
「あ、あーーーーーッ。……や、イっちゃう、イっちゃうぅ!!」
「………はっ、……俺、も」
ものすごい速さで熱い塊を打ち付けられ、粘膜が悲鳴を上げる。中だけじゃなくて、北川くんの体温伝わってくるところが全部熱くて。
「ひぃっん、……んんっ、んんんーーーーっ」
俺が白濁を放出させると同時に、北川くんも動きを止めてビクビクと震えた。
「………ふ……ぁ」
体の奥から凶悪なものを抜き出され、俺は身を震わせながらソファに沈んだ。とろりとした視界のなかに、ぼんやりと男の影が映る。
「ん………ソファ…汚しちゃ………た」
「ほんとだね」
まだ息が整わない俺の頬へ、男は優しく手を差し伸べた。すりすりと撫ぜられるのが気持ちよくて、俺は彼の掌に顔をこすりつける。
「元さん」
あれ………。
ここ、どこだ。
俺、どうしたんだっけ。
確か、Mのおっさんから逃げてきて、コンビニで北川くんと会って………………。
「元さんってば。あーあ、どうすんの、コレ。高かったんだけど」
きたがわくん。
「んんッ!?」
突如覚醒した俺は、慌てて革のソファに手をついて身を起こした。途端、尻の穴から何かがドロリと………。
「ひ………わあぁッ!?」
下半身だけ裸の間抜けな状態で叫ぶ俺に、北川くんはニコニコと微笑んだ。
「あーあ、また汚しちゃって。シミになるかなぁ。これ、元さんに弁償できるの?」
「え………?」
え?
え?
え?
えーと。
確かに、高級そうなこのソファには、透明だったり白だったりの液体がドロドロについているけれども。
弁償ったって。
今俺の中から溢れてくるものは、ゴムをしてくれなかった君の精液で。
しかも俺、自分から抱いてくれとか言ったわけでもなくて。
「えーーーーーーーー、………と?」
固まる俺に、北川くんは、尚もヨシヨシと撫でてくる。
「弁償できないよねぇ、元さん働いてないもん。ってことは、体で返すしかないよねぇ」
「ひえぇぇっ!?」
なんだ、これは。
まさか、最近はこういう詐欺が流行っているのか!?
ど、どどどど、どうしよう………。まさか北川くんがこんなことをする子だったなんて………っ。
俺はソファから転げ落ちながら、笑顔の北川くんを見上げる。
「あ、あの………ごめん、その、今はほとんど金持ってないけど、弁償するんで……」
「どうやって?」
「へ……」
「元さん、就職口あるの? 叔父さんから聞いたけど、今まで働いたことないんだって?」
「ひぁんっ」
北川くんは言いながら俺の尻をつかみ、濡れそぼったそこに指を突き立ててきた。
途端、忘れたと思った熱がゾクゾクゾクッと背筋を駆け上がる。
「は、働く………っ。これから就職先見つけるから………っ、あの、ちょっと、指……ッ。あんっ」
「こーんなエロいカラダしてて、大丈夫かなぁ。心配だなぁ」
な、何がですか。
つーか、君がそんな触り方しなきゃ俺だって………っ。
北川くんはグチュグチュ音を立てながら俺の中をかき混ぜる。そして、名案を思いついた子供のように目をキラキラ光らせた。
「じゃあ、こうしよう。明日から元さんも叔父さんの店で働こう。叔父さんには俺から頼んでおくから」
「…あ、っ………ぇ……?」
「良かった良かった、これで公私ともに元さんの傍にずーっといられるね」
「あ、あ、あ、……やぁ、んっ。………って、ちょっと待って!!!」
流石に聞き捨てならないセリフだ。俺は快感に負けそうになる体を叱咤して、北川くんを押しのける。
「な、なに勝手に決めてんの?っていうか、ここに俺が住んだり、バーで働くのは決定なわけ?」
展開が急すぎてついていけない。
北川くんは、さも当然のように頷いた。あ、意外と、Tシャツから覗く鎖骨がカッコイイ………………じゃなくて。
「元さん、もうSのふり嫌なんでしょ?」
「え、や、………それは、まぁ」
悪ぶった演技をしなくても生活していけるもんなら、それにありがたい事はないけど。
「だったら、俺と付き合おうよ。たぶん、俺だったら元さん満足させてあげられると思うけど」
ニヤリと唇の端を持ち上げる北川くんは、俺の前立腺をグリッと押し上げてきた。
「あああぁっ、………ちょ、………っ。ご、強引すぎだろ、そんなの!!」
ああ、もう、そこばっかり刺激されたら、また………っ。
再び息が上がり始めた俺に、北川くんは目を細める。
「でも、実は元さん、嫌いじゃないでしょ? い じ わ る さ れ る 、 のッ」
「あ、ひぃい………ッ………いいぃんっ」
狭い中で指をバラバラに動かされ、俺は悲鳴をあげた。
いじわるって。
いじわるって~~~~~~!
「この、ドエス」
俺が涙声で罵ると、北川くんは嬉しそうに微笑む。
「褒め言葉だね」
不覚にもその笑顔にキュンと胸が疼いたのは、内緒にしておいてやろう。
俺は赤い頬を見られないように、彼の肩に顔をうずめた。
<end>
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