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第1話
白く、無機質な部屋だった。
あるのは簡易寝台に、小さな机と椅子。開かれた窓から射し込む陽の光は、白い壁に反射し、どこかよそよそしく室内を照らしている。
小さな机の上に置かれているのは、手帳と筆記用具。もし椅子に座る部屋の主の顔色が悪ければ、誰もがここを病室と勘違いしたことだろう。
少年は穏やかな表情で、音声放送を聞いていた。
ときおり、編み込まれた青漆色の髪が、そよ風に揺れる。
『白閼(はくあ)7年5月4日。国営放送より最新情報をお伝えします。本日より我が国は鎖国から60年。国家交流省のモリさんをお迎えしております。よろしくお願いします』
ふと少年は筆記の手を止めた。
モリという人間を知っていたからだ。この施設で何度かすれ違った程度だが、声も聞いたことがある。職員に指示をしていたからにはそれなりの地位にいる人物だと思っていた。やはり政府の人間でーーおそらく、自分の「仕事」では上司にあたる。
しかし、上司が言葉を発していても、少年は表情ひとつ変えなかった。
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