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第2話
ベッドに優しく下ろされてすぐに始まったキスは、要の人となりを体現するような、どこまでも慈愛に満ちた優しいものだった。
「……ン、ふ、ぁ……」
感情のままに尻尾を振って主人に喜びを伝える飼い犬のような気持ちで、唇を開いてより深い口づけを乞えば、するりと要の舌が入ってくる。舌と舌を絡ませ合うことで立つ、くちゅくちゅと唾液が混ざる淫らな音に聴覚を擽られ、腰のあたりがそわそわと落ち着かない。もう、優しい要の手指が動き出すまで待てなかった。
首に絡みつかせていた腕をほどき、要の下半身へと手を伸ばす。触れると、布越しにでもはっきりと、硬く兆しているのがわかる。これまでに俺が曝した痴態で、要が興奮してくれた。そう思うだけで気が急いて、焦らして楽しむ余裕なんて、わずかにもなかった。
寝間着を通り越して下着の縁に指をかけ、ひと思いにずり下げる。弾き出されるようにして出てきた要の雄の象徴は凶悪なまでに硬く張りつめ、ひと際膨らみ艶やかな丸みを帯びた先端は、熟れた果実のように卑猥に色づいている。鈴口に溢れ出てきている玉雫が、今にも転がり落ちそうだ。それを認めた途端、じわりと沸いた唾液を、喉を鳴らして飲み下す。
「……っは、」
唇と唇のわずかな隙間から零れ落ちた、自分のものではない、あからさまに興奮を宿した吐息に惹きつけられるようにして、自分を組み敷く男の顔を見上げる。伏せられた瞼の際に隙間なく生えた長い睫毛が、しっとりと湿っているのがわかる。それを認められる距離にいられる。その幸福を噛み締めながら、要の興奮の証の根元に指を絡ませると、要はおもむろに瞼を上げて、湿度の増した眼で恨めしげに俺を見つめてきた。それに対し俺が何も言わず、見つめ返しながら手首をしならせ始めると、やがて諦めたように目を閉じて、ふたたび唇を寄せてくる。
「……っん、ン、……う、ふ……っ」
「……っは、冬夜……ん、ん……っ」
徐々に深くなっていく口づけに応えながら、要の興奮に絡ませた手指を、いつも要がそうしてくれるように、根元から先端、先端から根元、と緩やかに往復させる。やがてぬちぬちと粘度の高い水音が聞こえ始める頃には、もう俺のほうが限界だった。名残惜しく思いながらも、吸い合っていた唇をわずかに離し、息も絶え絶えに乞う。
「かなめっ……っん、は、ぁ……っ、もう、いれて、ほし……っ」
「……ああ。体勢、辛かったら言ってくれ」
「……っえ、あ……っ」
言い終えるより早く、膝裏に要の体温を感じた。次いで脚を鷲掴まれたと思ったら、がばりと開かれ、膝が肩につきそうなほど押しつけられる。
「や、これ、恥ずかしい……っ」
「恥ずかしいだけじゃあ、ないだろう?」
普段よりいっそう低まった、艶やかに濡れた声で囁かれると、それだけで簡単に達してしまいそうなほどだというのに、要は極上の笑みでもって、さらに俺を追いつめる。
「おまえの恥ずかしい場所が、俺によく見えるように……自分で、広げてみせてくれ」
「……っ、そんな、こと……っ、できない、よ……っ」
すっかり癖になってしまった形ばかりの抵抗は、すぐにはやめられない。口先ばかりで拒絶しながらも、はふはふと発情した動物のように息を荒げてしまいながら、俺はついに、自らの意思で膝裏に両手をくぐらせると、尻たぶを鷲掴んだ。
脚は、すでに要によって大きく広げられている。となると、『自分で広げてみせられる場所』はもう、ここ以外にない。皺を伸ばすようにして左右に皮膚を引っ張ると、本来であれば慎ましく窄んでいなければならない場所が、くぱあ、と大口を開けた。恥ずかしく濡れ爛れた粘膜が、そんなところまでが、要の目に、曝されてしまっている。ひやりと空気が触れる面積が増えたことでそれを自覚すると、途端に快楽による支配を許してしまった羞恥が、全身を染め上げる。
「……ぁ、うぁ……っな、め……恥ずか、しいよ……っ、要ぇ……っ」
「ああ、よく見えるよ。おまえの恥ずかしい場所が、ぜんぶ」
気持ちいいんだろう? と唆すような、有無を言わせぬ問いかけは、まるで魔法の呪文のようだ。その呪文によって首を縦にしか振れなくなってしまったかのように、俺は自分でも驚くほど従順な仕草で頷いていた。それから、確かめるように、もう一度「きもちいい」と口にする。すると、要はその端正な顔をこれでもかと蕩かせて、「可愛いな」と微笑った。
これまでに感じたことのない解放感と多幸感だった。何もかもを曝け出して、あられもない態度でいて、それを受け容れてもらえるばかりか、「可愛い」と褒めそやされる。こんなに幸せなことはない。
「……ぁ、」
いつになく執拗に施された前戯によって、恥ずかしく充血し、腫れ上がってしまっている孔の縁に、ついに要の熱が触れた。硬く芯が通っているのに、その表面の質感は絹のように滑らかで、ほど良く弾力がある。それを少し擦りつけられただけで、ぞわぞわとむず痒さが全身に広がった。
ずっしりと肌に感じる重みに、みっちりと膨れ上がった質量に、要の興奮を改めて知らされて、恥ずかしげもなく喘いでしまう。
「……んぁ、あ、は……っ」
肉襞が、まるでキスをするように、ちゅうっと先端に吸いつくのがわかる。卑しく淫らなその仕草を、こんなにも間近で要に見られているのだと自覚するたびに、気が触れそうなほどに興奮してしまう。
「……こうやって、焦らされるのは好きか?」
あからさまに欲しがってみせる仕草は、あっさりと無下にされてしまった。縁やその周りの皮膚ばかりを擦られ、まんまとその焦れったさに誘われて、俺は頭に浮かんだままを口にしてしまう。
「……ぁ、っは、んン……っ、す、き……っ」
「ああ……素直で、可愛いよ。冬夜……っ」
ふいに、俺をいじめては褒めることを徹底し続ける、要もわずかに息を乱していることに気がつく。次いで、胸に広がるのは、悦びと安堵だ。うれしい。要も、多少なりとも興奮してくれているみたいだ。俺だけじゃない。独り善がりじゃない。
今、俺の胸を満たすのは、不安を孕んだ願いではなく、確信だった。
「……ぁ、や、あ……っ、そん、なぁ……っ、こす、っちゃ、ぁ、あ……っ」
ずりゅ、ずりゅ、と敏感になった皮膚とはみ出した粘膜とを交互に撫で摩られ、その羞恥と快感とで、俺は呆気なく、要に認められながら、一人で上り詰めてしまう。
「……ひぁ、あ、ぁ……」
「すごいな、まだ、挿れていないのに」
ふいに、うっとりと、やけに熱の篭った声で、要が息を零すようにそう口にした。それは、これまでの俺を辱めるための台詞ではなく、心からの感嘆だった。そこには紛れもない、要の興奮が滲んでいる。それを感じ取るなり、また、だらしなく泣き濡れた性器の先端から、ぴゅるっと精液が溢れて、腹の上に滴り落ちた。
「だって、この、体勢……っう、ひぁ、あ……っ」
ぬちゅ、とついに要の先端が肉の環をくぐり、狭い肉筒を押し広げるようにして挿入ってくる。他の誰でもない、要によって、身体が抉じ開けられていくのがわかる。極めたばかりで過敏になっている肉襞が、それはもう素直に、きゅうきゅうと締めつけることで、俺がどれだけこの瞬間を待ち侘びていたのか、今、どれだけ嬉しいのかを、ありのまま要に伝えてしまう。
「ああ、恥ずかしくて、気持ちいいな?」
確信を伴った笑みを浮かべながら、有無を言わせぬ態度で、要は容赦なく腰を押し進める。ふやけてしまいそうなほど入念にほぐされたそこは、まるでそこが排泄を受け持つ器官だということを忘れてしまったかのように、簡単に要を受け入れてしまう。
ずっぷりと挿し込まれた、あの、先端がぷっくりといやらしく膨れ上がった雁首に、的確に前立腺を捉えられ、容赦なく、ぐりぐりと押し潰されているのがわかる。要がいたずらに腰を引くたびに、強制的に入口を押し広げられ、ぬぽっと出ていってしまう瞬間に、力の抜けきっただらしない声を漏らしてしまうのが恥ずかしい。そして、それが、どうしようもなく気持ちいい。
「……ひ、ぅ、あ~~……っ、そんな、ぁ……っ、ぐりぐり、されちゃ……っひぁあ……っ、ま、たぁ……っ」
「本当に、気持ち、いいんだな? ……っ」
「~~っ、……ぁ、だめ……だ、め……っ、いく……っ、や、いやだ……っい、っちゃ、ぁ、あ、あっ……」
「もう、何も考えなくていい」
いやいやと頭を振っても、要はもう俺のその仕草が形ばかりだということを知っている。逃げを打つ腰を捕まえると、要はいよいよ本格的に腰を使い始め、徐々に、けれど確実に、奥へ奥へと進んでくる。ついに最奥までたどり着かれてしまうと、焦げつくような感情の高まりで、胸が、全身が、満ちていくのを感じる。
「っひ、ぁ、あっ、ん……っん、ン~~……っ」
「……すごいな、ずっと、いってるのか」
きゅうきゅうと要のものを締めつけながら、中で達してはいるものの、馬鹿になった性器の先端からは白い粘液がわずかに溢れ、たらたらと垂れ落ちて、胸元に白く卑猥な水溜まりを作ってしまっている。
「っふ、ぁ……だ、め……かなめ……っ、だめ、ぇ……っん、ひ、あ……っ」
わずかに速度は落ちたものの、とちゅ、とちゅ、と最奥を穿つ要の腰は止まらない。決して乱暴ではなく、ゆったりとした律動ではあるけれど、上から串刺しにされているようなこの体勢だと、それでなくとも平均よりもずっと長大な要のものが、容易く最奥まで届いてしまう。
奥まで、みっちりと、隙間なく要で満たされている。その幸福で、絶頂から降りられない。いつまで続くのだろう。いつまでも続いてほしい。砂糖や蜂蜜といった甘いものばかりを煮詰めて作られたような、ただひたすらに甘いだけの快楽の海で、溺れ、酔いしれ、働かなくなった頭でそんなことを思い始めた時だった。おもむろに伸びてきた要の手が、俺の性器の先端の割れ目を覆い尽くすように添えられたのを、ぼやけた視界で辛うじて捉える。
「いまは、だ、め……っ」
咄嗟に要の腕を掴み、制するも、要は「どうして?」と無垢な仕草で首を傾げるばかりだ。
「好きだろう?」
「っひ、う、ぁ……っ」
ぬらぬらと表面を撫でられ、歓喜に染まった声が上がる。その蕩けた声が、ひくつく割れ目が、要の問いを肯定していた。
「いった、ばかり、は……だめ……」
「ほんとうに?」
真意を探るように、けれど確信めいた訊き方で俺を追いつめながら、要は俺の性器の先端を、心なしかさっきよりも緩やかになった速度で撫で摩る。そうされて、まんまと懇願の色を宿した声を漏らし始めた俺をしっかりと認めながら「だめなのか?」と訊いてくるその態度は食い下がるようなものでありながら、瞳の奥には強かに確信が潜んでいる。
「だ、め……っ」
「とても、そんなふうには見えない」
要は肩を竦め、優麗に微笑ってみせると、先走りなのか精液なのかもはやわからない、まだらに白く濁った粘液で濡れそぼった俺の雄芯の先端を弄びながら、みっちりと最奥まで挿し込まれたままだった雄杭で、容赦なく最奥を捏ねまわし始める。
「……や、ぁ……っだ、め……っひァ、あっ……っ」
いよいよ目の前で星がちかちかと瞬き始め、ぐずついた声が止まらない。
どうして、こんなにも気持ちがいいのだろう。要は、ほとんど、ただ触れているだけのようなものだ。先端も、最奥も、摩られ、押しつけられはしているものの、どちらも決して乱暴でなく、ひたすらに優しい。なのに、どうしてそれを施しているのが要だと、触れているのが要の体温だと、そう認識するだけで、こんなにも感じてしまうのだろう。
「だ、め……っだめ……っ、さきっぽ、そん……っな、ンぁ、あ……ぐりぐり、やだぁ……っ」
「じゃあ、奥は? いちばん奥の、ここは、ぐりぐりされても、平気なのか?」
「っひう……っ、や、おくも、ぐりぐりだめ……っ、ひぁあ……っき、もち……っ」
「なんだ、どっちも、悦いんじゃないか」
「ち、が……っ、や、やら、ぁ……っ、まえも、うしろも、りょうほっ……んぁ、ぁんんっ……っひ、うぁ……」
「もう、呂律がまわっていないぞ? かわいいなあ」
ふいに額を撫でられた。輪郭が曖昧になった視界で、それでも引き寄せられるように焦点を合わせた視界の真ん中で、要が、それはもう、艶やかに微笑っていた。
普段の、凛とした、明瞭な声の輪郭が、高温に晒されて溶け出したチョコレートのように、甘く蕩けている。
かわいい、だなんて、そんな顔で、そんな声で、他の誰でもない、要に言われたら。もう、嬉しくて、何もかもがどうでもよくなりかける。
けれど、その直後に押し寄せてきた本格的な絶頂感に、俺はふたたび我に返る。それはこれまでのものとは種類の違う絶頂の予感だった。すぐそこまで込み上げているその予感に、それが引き起こす惨状を要にだけは見せたくないという思いに衝き動かされ、必死で要の手首を掴み、いやいやと頭を振る。
確かに、要はどんな姿を見せても俺への愛は揺るがないと言ってくれた。俺だって、それを信じている。けれど、これから俺が見せてしまいそうなことは、例え快楽によってもたらされるものであったとしても、要の目には排泄行為にしか映らないだろう。さすがに、要も驚くだけでは済まないだろうし、何より、俺が最も恐れていることが、起きてしまうかもしれない。要に、軽蔑されて、嫌われてしまったら、俺は──
「──ぃ、やだ……っ、や、ぁ……っだ、め……かなめ、このままじゃ、きちゃ……っ、汚しちゃう、から……っ」
「構わない。大丈夫だから、余計なことは気にしなくていい」
「よけいな、ことって……ぁ、や、ぁ……っだめ、いや、かなめ……っ、きちゃ、……っ、きちゃ、う……っ」
「ああ、いいぞ。好きなだけ、出せばいい」
ちがう、そうじゃない、と頭を振っても、確信を得た要はもう、俺がどれだけ泣こうが喚こうが、甘く優しく、けれど執拗な責め苦を和らげてはくれない。全身の毛穴から汗が噴き出すのを感じながらも、俺にはもう、為す術がなかった。
「みない、で……」
どうにかそれだけを搾り出しながら、俺は要の目元へと震える手のひらを翳した。けれど、うまくいかず、要の目にそのすべてを曝してしまうことになる。
「ぁ、いや、だ……っ、みないで、かなめっ、……ちが、これ……っ、ぁ、や、ぁ……っ」
ぷしゃ、ぷしゃ、と吹き上がった液体は白く濁ってはおらず、さらさらとしていて、それが精液ではないことは、要の目にもきっと明らかだ。これまでに一度も見せたことのない達し方は、要の目に、どれだけ無様に映っているのだろう。
今もなお、立てた膝はがくがくと痙攣し、潮を吹き上がらせたばかりにもかかわらず、尿道口は動きを止めてしまった要の指をもっと咥えていたいとねだるように、卑しく開閉を繰り返している。この上なく悲惨な状況に、込み上げる涙は抑え込もうとしても間に合わず、ぼろぼろと溢れてしまう。
「み、ない、で……っ、かなめ……っ」
どうにかそれだけを言葉にして、再度要の目元を塞ごうと手を伸ばす。けれど、それは要の手によって捕らえられてしまった。
「どうして、泣くんだ」
「だって、俺、きたな……っ、よごしちゃ、……っ」
「汚くなんかない。おまえは綺麗だよ。それに、ほら……わかるだろう?」
「──ひ、う、ァ……っ」
要は微かに身動いだだけだった。けれど、内側にいくつかある感じやすい場所をすべて同時に刺激されたかのような快感が、突如、全身を駆けた。要と繋がったままの場所へと意識を向けると、みっちりと隙間なく、空気さえも入り込む隙間などないのではないかと思うほどに、要で満たされたままだとわかる。
「ど、して……っかな、め……っは、ぁ、んんぅ……っ」
「どうしてって、そうだな……快楽と、羞恥の狭間で戸惑って、挙げ句、わけがわからなくなって、泣き喚くおまえを見て、俺も興奮したんだ」
「こう、ふん……? かなめが、おれを、見て……?」
まわらない頭で、耳触りの良い言葉だけを反芻する。すると、要は「ああ、そうだ」と笑って、それを肯定してくれる。
「わかっただろう? 俺は、今さら何を見せられたところで、おまえを嫌いになんてならない。むしろ、恥ずかしがって泣き喚くおまえはたまらなく可愛くて……俺のほうこそ、引かれやしないかと心配なくらいだ」
「そんな……俺は、要がどんな性癖を持っていたって、引いたりしない……っ」
「ありがとう。俺も、おまえと同じだ。だからもう、何も考えなくていい。……ぜんぶ、見せてくれる約束だろう? おまえの恥ずかしいところを、俺に、ぜんぶ」
確かに、今まさしく俺の体内に在る要の一部は、こんなにも熱く、滾っている。あんなにも恥ずかしい、軽蔑されても仕方のない有り様を曝した俺を見て、涙と鼻水と唾液で顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくる俺を見て、それでも、要は気を削がれることなく、ずっと、変わらず俺に深い情愛を抱いてくれている。
本当に、こんなにも幸せなことが、あっていいのだろうか? 夢ならどうか、醒めないでほしい。それとも、これが、夢のようなこれが現実だと言うのなら、俺はもう、どんなことをしてでも、この幸福を手放しはしない。
「……かなめ」
「うん?」
どうした、と訊いてくる声と同じくらいに優しい手が、頬を撫でる。躊躇わず頬ずりをすることでそれに応えながら、俺はありのままの想いを口にして、要に伝える。
「好きだ。要のことが、大好きだよ。……だから、俺のなか……もっと、要でいっぱいに、してほしい……」
「……ああ」
目を合わせたまま、要は俺の左脚を掴んで抱え上げると、太股の裏側に唇を寄せる。ちゅう、と音が立つほどに吸われ、唇が離されたあとには、紅い所有の証がそこに残っていた。嬉しい。こんなにも、ひたむきな、要の愛を一人占めできることが、嬉しくてたまらない。
「ありがとう、冬夜」
幸福に浸り、悦に入っているところに、ふいに聞こえてきた感謝の言葉には、まるで心当たりがなかった。要を見つめると、要は俺の表情からそれを読み取ったのか、「勘違いをさせてくれたことだ」と付け足す。
どうして、それが「ありがとう」に繋がるのだろう。わからなくて、俺は素直に「どういうことかわらないよ」と追加の説明を求める。すると要は緩やかに俺の内側を穿ち始めながら、丁寧に説明をしてくれる。
「おまえを満足させられていないと思ったから、色々と調べたんだ。さっきのあれは、潮吹きというやつだろう? 射精したあとも尿道を刺激し続けることで到達できると、射精とは比べ物にならない快感を得られるものだと、尿道開発について調べているうちに知ったんだ。おまえは尿道が感じやすいみたいだから、まずは俺の手で、そこまで到達させてやりたいと、そう、思っていたんだが……途中からは、おまえの泣き顔をもっと見ていたい一心だった」
熱心な声と表情で語られる、誠実さと愛情ばかりが篭ったエピソードに、心臓を甘く絞られる。何事にも勤勉に取り組む要のことだ。きっと、長い時間を費やしてくれたに違いない。
「つまり、おまえがきっかけをくれたから、今日、こうして互いを深く理解することができたと思う。だから、ありがとう、冬夜」
要は何度、俺を救ってくれるのだろう。要は、いつ何時も、俺を否定しないばかりでなく、肯定してくれる。そして、俺はこの人に愛されているのだと、確かな自信をくれる。
「……んぁ……っ」
ふいに、ずくりとひと際深く貫かれて、感じ入った声が漏れた。俺を見下ろす体勢でいた要が、ふいに身を屈めたのだと、やや遅れて理解する。
「……そろそろ、俺も、出したい。おまえの中に」
窺うでも、確かめるでもなく、はっきりと請い願うような温度を伴った声を耳元で聞いたと同時に、要の匂いと温度がぐっと近くなる。覆いかぶさってきた要は、けれど俺の顔の横についた手でバランスをとり、俺に体重がかからないように配慮をしてくれている。それでも肌と肌はぴったりとくっついて、これ以上ないほどに、要を感じる。
「かなめ、……っは、あ……っん、ぁ、かなめ……っ」
ゆっくりと最奥を穿たれたかと思えば、出ていかないでと孔を窄めてしまうところまで引き抜かれ、またゆっくりと押し入ってくる。繰り返されるその腰使いは優しさばかりが満ちていて、甘やかすようで、それでいて容赦がない。身体の内側の最も深い場所を穿たれる悦楽で、あっという間に、俺は絶頂まで追いつめられていた。
「あ、……あぅ、あ……っかな、め……っ」
「……っは、あ、冬夜、すまない、もう……っ」
内臓を押し上げられたかと思えば引き摺り出されるような抽挿が、徐々に深まり、速度を上げていく。そうしながら、おもむろに顔を上げた要が目を合わせてくる。いつだって涼しげな眼差しの奥に潜んでいる獣が、強靭な理性を徐々に食い尽くしていくのが窺えた。要が、俺に欲情している。そう思うと泣きたくなるほどの幸福が込み上げ、目頭が熱くなり、視界が滲んで、ずっと見ていたいのに、要の輪郭が、徐々に曖昧になっていく。
俺がすべてを曝け出すことで、要もまた、こうして本能のままに求めてくれるなら、これからは、要の前ではもっと素直に、ありのままの自分でいたい。
そう思い至ると、ようやく、俺は全身から不必要な力を抜くことができた。快楽に、要がくれる幸福に、甘んじて身を委ねる。
「とう、や……っ、そんなふうに、されると……っ、動けない……っ、く、ぁ……っ」
幸福のあまり、意識せず、両腕と両脚を駆使して要を拘束していたことを、要が息を詰めながら訴えかけてくる声を聞くことで知る。けれど、もう、やめられなかった。
「だって……っあ、ん……かなめ、すきだ……っ」
「……っ、だめだ……っ、で、る……っ」
「あ、ン……っ」
ぐうっと、いちばん深い場所で、要のものが体積を増すのを感じる。搾り取るように、要を咥え込んだそこを、脚を、腕を、力一杯に締めつけると、うっとりと息を吐きながら、要が耳朶に唇を寄せてきた。ぬる、と生温かい感触が、穴の中に入り込んでくる。快楽が振りきって、自分が今キスをしているのが唇ではなく耳だとわからなくなっているのか、はたまた得た知識を実践しているのかはわからない。けれど、どちらにせよ、それがひたむきな要の、愛の施しであることは変わらない。最奥を熱く濡らされる悦びを感じたのと、今日何度目になるのかもはやわからない絶頂に俺が到達したのは、ほとんど同時だった。
「……っはあ、は、あ……っ、かなめ、……っいっしょ、に、いけた……っかなめ……っ」
「……ああ、いっしょに、いけた……な」
「もっと……っ、かなめ、もっと、ほしい……っ」
この上ない多幸感で、もう、何も考えられない。自分が何を口にしているのかもわからない。でも、きっと、これでいい。要はすべてを受け容れてくれる。ありのままの俺でいることを、望んでくれている。
「すきだ、かなめ……っ、かなめが、いいんだ……っ、かなめしか、いらない……っ」
「ああ……俺も、冬夜だけだ。冬夜以外、いらない。だから、ずっと、俺のそばにいてくれ」
要がこうして、俺に笑いかけてくれるなら。俺は、他にはもう、何もいらないんだ。
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この話とその後日談を収録した短編集
(ホテルの窓辺で羞恥プレイ/尿道責め(道具使用)/潮吹きなど)
▶https://www.pixiv.net/artworks/128827742
ふたりの馴れ初め本
▶https://www.pixiv.net/artworks/123403887
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