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第11話 (本編・完)
そして月日は流れ、翌年の3月に『ステップ・アロー』が発売された。
俺と竜岡は営業部から届く売上レポートに一喜一憂した。地方ではまだ動きが鈍いが、首都圏では予想以上のペースで売れている。
流れが変わったのは、竜岡の隣に住むストリート・ダンサー、竹谷さんのチームが「『ステップ・アロー』を履いて踊ってみた」動画をアップしてからだ。
流行りの楽曲に合わせて5人の男性ダンサーが力強く踊る1分30秒の動画は瞬く間にバズって、『ステップ・アロー』の知名度を一気に押し上げた。
広報室には各種媒体からの取材依頼が殺到した。俺と竜岡は企画者としてインタビューに答えた。
「息の合ったコンビ? 私と竜岡は性格がまったく違いますよ」
「僕にないものを虎ノ瀬が持っている。だから、企画がうまくいったんだと思います」
休日になった。
俺と竜岡は山下公園に出かけた。履いているのはどちらも『ステップ・アロー』である。俺がブルー、そして竜岡はグリーンだった。靴紐はふたりとも白を選んだ。
「虎ノ瀬さんとペアルックで海を見るとか、最高やなぁ」
「あのさ……そろそろプライベートでは名前で呼び合わないか?」
「え? いいの?」
「光流 。もっと近くに来いよ」
「分かった、拓斗」
好きな相手に名前を呼ばれるって、こんなにも破壊力があるのか。顔に集まってきた熱を誤魔化すため、手であおぐ。竜岡──光流はそんな俺を煽るように体をくっつけてきた。
「拓斗、もしかして照れてる? 拓斗は僕の声が大好きなんやねぇ」
「おまえ……いい性格してるな!」
光流のことを敵視していた頃の俺は、本当に未熟者だった。俺たちはそれぞれの持ち味が違う。だからこそ、互いの力になれる。そう思える相手は世界中どこを探しても、光流しかいない。
「光流といると、俺は強い自分だけじゃなくて、弱い自分も受け入れることができる。光流が俺を変えてくれたんだ」
「拓斗……」
「これからも、そばにいてくれ」
「うん! 僕からもお願いします!」
指と指を絡め合う。
青空に見守られながら、俺は愛しい人と幸せな時間を過ごした。
(本編・完)
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